トットリ的カリグラシのススメ
赤井あずみ(鳥取県立博物館/キュレーター)

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最近、鳥取に関するウワサをよく耳にする。さびれた温泉町に若い人がたくさん移住してきているとか、とんでもなくおいしいパン屋があるとか、某有名ミュージシャンが毎年お忍びでライブをやってるとか……。うーん、気になる。そんな感じで取材に行く機会を探していたら、ものすごくいいネタが飛びこんできた。

鳥取市内に個人でいくつも賃貸物件を借りて遊んでいる人がいるらしい…。

赤井あずみさん。鳥取県立博物館で学芸員として勤務するかたわら、個人でもさまざまなアートプロジェクトを手がけているキュレーターだ。ということで、小雪混じりの中、鳥取まで赤井さんに会いに行ってきました。


赤井あずみ
1975年米子市生まれ。2002年から6年間鳥取県立博物館にて美術部門の学芸員として勤務したのち、アーティスト・イン・レジデンスや国際芸術祭の運営に携わる。2012年、鳥取市街地の旧横田医院を活用した展覧会「HOSPITALE」を企画、以来プロジェクトとして継続的に活動を続ける。2013年には旧旅館施設に「ことめや」をオープンし、コワーキングスペースやレジデンス事業のほか、「人の営み」にまつわるさまざまな事柄についての企画を実施している。

 

#1 だっていろんな場所があると楽しいじゃないですか(笑)

―今日は「鳥取に個人で賃貸物件をいっぱい借りていろいろやってる人がいる」と聞きつけて、関西からやってきました。

赤井:いっぱいって言っても、今は自宅を含めて4軒ですよ。わざわざ取材に来るほどのことでもないんですよ(笑)。

―でも、鳥取市は鳥取県の県庁所在地だし主要駅もある。失礼ですが、実はすごくお金持ちとか?

赤井:ないですないです(笑)。ただお察しの通り、鳥取はとにかく家賃が安い。うまく探せば一軒家で2~3万とか普通にあります。私が借りている物件も、詳しくは言えませんが、あの手この手を使って月1万ちょっとで借りています。

―月1万円!具体的にどんな物件を借りてるんですか?

赤井:まず、鳥取駅から歩いて5分くらいのところにある、元旅館だった一軒家をまるまま借りています。ここには「プロジェクトスペース ことめや」という名前をつけていて、いちおうコワーキングスペースみたいな使い方をしてます。
同じく駅から歩いて5分の、パブとゲストハウスが入っているビルの3階に、小さなバーみたいなスペースがあります。ここは特に名前はないんですけど、みんな「赤井バー」って呼んでいて、県外からアーティストが来た時なんかに開けて、友だちを呼んで飲んだりしてます。
それから、中心市街地から少し離れたところに、昭和初期に建てられた古い洋館があって、かなり傷んでるけど、その一室を何人かでシェアして借りてます。ここはまだ借り始めたばかりなので、これから何をするか考え中。
あとは自宅ですね。元印刷工場だったビルの屋根裏みたいな部屋を借りていて、下には大家さんである腕のいいパン屋さんが住んでいます。

旅館時代の面影を残す「プロジェクトスペースことめや」。

―率直に聞きますが、どうしてそんなにいろいろ場所を借りてるんですか。

赤井:んー、だっていろんな場所があると楽しいじゃないですか。一般的には、最初に目的があって場所を借りるのが普通だと思うけど、先に場所があってそこから始まっていくこともある。だから、安く借りれるおもしろい物件を見つけると、ついつい借りちゃうんです。でも、「ことめや」の場合、最初は必要に迫られて借りた感じでしたけど。

―必要に迫られて?

赤井:2013年に、東京で活動する演劇集団を呼んで滞在制作をしてもらう企画を立てたところ、思ったより人数が多くなって、宿泊費まで確保できなかったんです。なんとか全員が泊まれる場所を探してたら、おもしろい建物があるよって話が入ってきて。それで、ダメもとで大家さんと直接相談をして、こういう理由で困ってるから1カ月ほど貸してくださいってお願いしたら、思った以上に協力してくれました。布団とかも全部貸していただいて。

「ことめや」で発行しているフリーペーパー。「ことめや」に集まってくる地元の学生たちが中心となって発行。

―あぁ、元旅館だから。

赤井:そうそう。それで期間限定でお借りしたんですけど、私としてはこの場所があったら「アーティスト・イン・レジデンス」のプログラムとかもやりやすくなるなぁとか、ほかにもこんな使い方ができるというようなイメージが湧いてきた。つまり、いろんな人がここで出会って、こういうことやりたいよねぇみたいな人がいたら、いっしょにやる。そういう仲間を見つけたり、ブラッシュアップしていく場所になればいいなと。それで、その数カ月後に、今度は私が個人的に借りることになりました。

―それで「プロジェクトスペース」という名前なんですね。

赤井:場所があるっていうのは、やっぱりひとつのきっかけにはなりますよね。鳥取の場合、人口が少ないっていうのもあって、顔が見える関係性がわりと築きやすくて、そういう意味でも具体的に場所があるっていう意味は大きいと思っています。そのために何十万もかけるのは無理ですけど、1~2万ならなんとでもなる。他の場所もだいたいそんな感じで、気がついたらけっこういっぱい借りてたなという(笑)。

文:岩淵拓郎 写真:田中良子

→#2 物件って可能性の塊なんですよ


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