トットリ的カリグラシのススメ
赤井あずみ(鳥取県立博物館/キュレーター)

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赤井さんが借りている3軒目の場所、隠れ家バー(通称「赤井バー」)は、今回の取材で一番お伺いしたかったところ。場所は某ビルの3階。2階のゲストハウスの中を通ってしかたどり着けない、かなりの隠れ家感がある場所です。

実は米子生まれで、京都、東京、名古屋と移り住んだ後のJターン組という赤井さんに、鳥取の現状と今の想いを聞きました。

 

#3 鳥取で自分が楽しい場所を自分で作ること

―完全にバーですね。お酒、お好きなんですか?

赤井:好きですね。でも、全然強いほうじゃないです。今でもすぐ赤くなります。

―ここは普段から営業してるわけじゃないんですよね。

赤井:というか、そもそも営業はしてないです。私がいる時だけ開いてるというか、開けるというか。プライベートなバー……と言うより、サロンかな。ずいぶん前から漠然とサロンが欲しいっていうのは考えていたんです。夜な夜な集まって、お酒を飲みながらリラックスして話せる、でもお店じゃない場所。下の階がゲストハウスなので、あんまり大きな音とか出すと怒られるんですけど、ちょっとしたイベントくらいだったらできますよ。

―ところで、赤井さんは鳥取のご出身ですか。

赤井:鳥取じゃなくて米子ですね。同じ鳥取県ですけど、鳥取県の端と端で100km離れてるし、文化的にも別の町です。

―じゃあ鳥取市に来たのはいつ?

赤井:2012年。ただ2002年から08年まで、今も働いている県立博物館にいたので、正確には2度目の鳥取暮らしです。その間は東京と名古屋に、学生時代は京都にいました。

―けっこう転々とされてるんですね。でも、また帰ってきたってことは、やっぱり鳥取が好き? 将来的にはこっちで落ち着きたいとか。

赤井:そういうのは全然ないです。ただ、鳥取をベースに働いたりいろんなプロジェクトをやっていくと、長期的にきちんと根をはってやっていくのもいいかなとは思います。実際、県立の美術館ができるっていう話もあるし、アーツカウンシルを立ち上げようみたいな話もあって、やることはいっぱいあるなーと。でも、わりと軽い感じで考えてます。

―じゃあ、どうして2回も帰ってきたんですか?

赤井:1回目は、たまたま仕事が見つかったというだけの理由。そもそも鳥取市にはそれまでほとんど来たこともなかったから、正直に言えば、町のことにもほとんど興味がなかったです。その頃、京都にボーイフレンドがいたので、休みのたびに関西へ行ってましたね。2回目の時は、こっちでアートプロジェクトを立ち上げないかって誘われたのがきっかけでしたけど、状況もいろいろ変わっていたし、一緒にやっていけそうな人もいたので。

―状況が変わってたっていうのは?

赤井:うーん、なんだろう。あらためてそう聞かれると答えるの難しいですね。ただ、鳥取で何か面白いことを始めようとしている人たちと知り合いだったのは大きいです。たとえば、本間(公)君という同じ歳の家具職人がいて、店舗のリノベーションとかもやるんですね。実は、ここも彼にお願いしてカウンターをつけてもらったんですけど、彼が、UターンとかJターンで鳥取に帰ってきて、お金はないけどお店やりたいっていう若い人と一緒に、DIY的に新しいお店をどんどん作っていたんですね。しかも、美容院を作って、近くにカフェがあったら良いのにねーみたいな話になったら、自分で物件を探して、カフェをやりたい人も探してきて、結果的にカフェをオープンさせるという、そんな人。

―それ、ほとんどまちづくりですよね。それも個人で。

赤井:でしょ。具体的に何をどう一緒にやろうって話があったわけじゃないけど、本間君と出会ってなかったらたぶん戻ってきてなかったとは思います。それ以外にも、めちゃくちゃ美味しいものを作る料理人とか、ゲストハウスを立ち上げようとしているアーティストとか、以前は出会うことのなかったそういう魅力的な人とタイミングよく鳥取で会えたっていうのは、大きい。

―その時期にそういう人が鳥取に集まってきたってこと? 逆を言えば、それまではあまりそういう動きがなかったと。

赤井:もちろん何もなかったわけじゃないと思いますよ。ただ、私自身は知らなかったというか、まったく見えてなかったです。

―単純にチャンネルが違ったんでしょうね。アートが積極的に町に出て、何かを仕掛けていくっていうことも、今ほど盛んではなかったですし。

赤井:それもあると思います。でも、私自身は、別に町のことをやっているという意識はまったくないです。私はわたしの興味でしか動いてないし、ただその時々で面白いなという方向を向いて、目の前のことをやっているというか。
あえて言うなら、自分が暮らしてる状況を良くしたいとは思ってますね。私が楽しい状態を私が作る。そういう意味では、鳥取はそれが作りやすい。お金もそれほどかからないし、人の多さもちょうどよくて、おもしろくなりそうな場所もたくさん空いている。それらを組み合わせて、より心地よい状態を作ってる感じかな。

文:岩淵拓郎 写真:田中良子


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