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#2 フラットハウスと団地

#1 はこちら

―集合住宅である団地とアラタさんが激オシする平屋、フラットハウス。かなり真逆のものだと思う人も多そうです。
OURS.はUR都市機構と運営しているサイトで、今日の取材にもURの方とご一緒しているのですが、アラタさん、団地もOKなんですか。

アラタ:先日、建築関係の仕事をしている拙著の読者ご夫妻から、「都下の立川市にある古い団地を買ったので見に来ないか」と誘いを受けたんですが、すごくよかった。すでに古いFLAT HOUSEを買い大改築して住んでいるこのご夫婦、今回は一目惚れ半分使命感半分で購入したようなんです。当時のままのパーツを残す空き団地を見て、今度は「復元」したくなったんじゃないかと。
おおむねは新建材を使って手直ししているものの、オリジナルデザインを尊重して自然にリノベートされていました。水廻りなどは新しくしていましたが、昔のままでは暮らしにくい部分は今の技術と自らのアイデアで住みやすくするというのはアリだと思いましたね。彼らはそのあたりのバランス感覚が実によく、キチンと塗装や質感を合わせるなどして非常に上手く溶け込ませていました。ああいう配慮ある改修ができる内装屋や工務店がもっと増えるといいんだけど。

取材は「FLAT HOUSE villa」で。ざっくばらんに進行しました。

―敷地全体で見れば、団地とフラットハウスの共通性が見えてくる。

アラタ:向かいの建物との間が公園になっていてね。大きな樹がそびえていて、その間にオブジェのような遊具があって何とも幻想的なんですよ。借景としても成立するようキチンと計算されている。
こういうのは今の集合住宅にはほぼない部分でしょうね。申し訳程度に猫の額のような「公園もどき」をつくったり。住人のメンタルな部分ヘの配慮については時代が逆行しているように思います。

「FLAT HOUSE villa」のベッドルームは2部屋あり。いい夢見られそう。

ーそうした団地のいい部分、意外と住んでる方も意識してないことが多いですね。

アラタ:そこの団地の平均賃料が5万円前後らしいんだけど、8万円強で募集してもすぐに借り手が決まったというんですよ。建て替えたがっている居住年数の長い住人たちが知って「ここがそんな金額で貸せるのか!?」と驚いていたそう。
住んでる本人たちが住宅の魅力に気づいてないというのはよくあることです。だから、改修後の部屋の様子を動画に撮って上映会を開いて、この団地の良さや改修の仕方をほかの住人たちに知らしめたらどうかという提案をしました。古い=害悪くらいに考えてしまっているんですよね、みんな。しかし、時代は変わってきている。開発のスピードに比べたら地道ですが、そういう草の根的活動がしいては古い建物の保護につながります。

家具や建具も雰囲気に合わせて揃えられている。

―時間を経てきた建物の価値って、なかなか伝えるのものこすことも大変。アラタさんのこちらのフラットハウスも、借り受けた段階では今みたいにいい雰囲気ではなかったでしょう?

アラタ:倉庫として使われてたくらいですから、すごい状態でしたよ。窓も腐っちゃってガラスもほとんどなし。代わりにベニヤ板や段ボールが打ち付けてあり2部屋は真っ暗。壁面には聚落壁がびっしり張られていたり、天井には半壊した古い照明器具がぶら下がっていたりと、いわゆる「お化け屋敷」状態。普通の人が見たらまず引くでしょうね(笑)。
そんな瀕死状態を家具職人の相棒と一緒に、近隣の平屋仲間のヘルプも受けつつ時間をかけてじっくり改修しました。だけど、僕らはやらないでいいところは極力触らないし、やらなければいけない部分も手を加えたとわからないようにやるんです。つまり「復元」に徹するわけ。ところがプロの大工さんだといかにも「ここやりました」と直しちゃう。「やった」とわかるようにしないとお金をもらえないと思ってるというか、プライドが許さないというか、そんなふうに刷り込まれちゃってるから。なんていうのかな、「寸止め」ができないんでしょうね。なのでどこの現場に入っても同じようなマンション風の仕上げになってしまっているという。
でも、それは古家にとっては必要なことではないんですよ。刷新する必要はまるでない。改修でする「キレイ」はぱぱっと新品に取り替えるだけのことですから。住処に趣きを求める住人にとっては、風合いを損ねてしまうマイナス面の方が強い。それより本当に必要なのは「徹底的な清掃」や「きめ細かな修繕」だったりするんです。業者や職人がやりたがらないレベルのね。そこが大家、不動産屋を含めまったくわかっていない。まあ、わかろうとしないというか。

このフラットハウス改修の過程を紹介した、『月刊シティ情報ふくおか』のアラタさんの連載記事。

―借りる前の状態を見ても、アラタさんにはきれいに改装した後の状態が見えてるわけですか。

アラタ:FLAT HOUSEならよっぽどでない限りはね。ドラマやマンガのフォーマットを揶揄する例として、メガネの生徒会長的な女の子に「キミはメガネをとって髪の毛ほどいたらキレイなんだよ」みたいなのってあるでしょ。あんなカンジかもしれない。なので内覧中に「いい家だなあー」なんて声に出して褒めまくりますよ(笑)。不動産屋や大家さんからは不思議そうに見られますがね。こんなボロ家のどこを見て言ってるんだこの人はというような目で(笑)。で、正体を明かすと急に態度が変わってちょっと警戒されたりね。
でも次に「最近はイマドキの建物に飽き飽きした人たちがこういう古い平屋に殺到してるんですよね」なんて突っついてみる。「へーそんなもんなのかね」という空気になるので「このまま残して貸した方がむしろおカネになりますよ」とたたみかける。ここでちょっと顔をほころばせる大家さんは案外いますね。
やはり本心では壊したくないものなんですよ。建て替えや改修となれば大金が出ますし、思い出だって詰まっている。だけど不動産屋の方は大抵ダメ。金勘定のツジツマが彼らの頭の中では合わないんでしょう。経験値自体が古いんですよ。「儲からない」が先に来ちゃう。彼らのこの思考順路が元凶です。

―大家さんには古い平屋がこうやって再生されるってわからないですもんね。

アラタ:若いオーナーだと「本持ってますよ」となる場合もあって、話が早いケースもしばしばあります。また、拙著を貸し出して勉強してもらったり。「折伏」ですね(笑)。
「じつは自分も古いものが好きなんだ」なんて告白してくるオーナーも結構います。このゲストハウスの家主はまったく拙著を知らないようでしたが、古家に対する理解はある御仁でした。このあたりに空き家が出るとすぐに買っちゃうという面白い人でね。ただ、買った後がちょっといただけない。ここみたいに倉庫にしちゃうとか結構放ったらかしにしちゃってる。なので、こんな味わい深い平屋なのにもったいないからなんとかしましょうよってアプローチしたんです。

日当たりのいいキッチン。

―もとは米軍兵士を住まわせていた平屋なんですよね。

アラタ:そうです。通称「米軍ハウス」。この界隈はもともと炭坑の街だったんですが、戦後すぐ米軍基地「キャンプ・ハカタ/ブレディ・エアベース」ができ、しばらくはベースタウンとしてその特需で潤った。なので往時は映画館や遊技場、米兵相手のバーやレストランもあって、アメリカがそのまま移ってきたような一角がそこかしこにあったそうです。まあ、それはここに限らず全国の基地の街はみんな同じですけどね。

水道水は近くの立花山山系の湧水だそう。

―博多から博多湾をはさんだエリアに、そんな歴史があったんですね。

アラタ:地形からも合っていたんでしょうね。余談ですが、ここは、最初の夫ジョー・ディマジオとの新婚旅行で来日したマリリン・モンローが、朝鮮戦争の慰問前に立ち寄ってるんですよ。どうやらこのキャンプ・ハカタを経由して朝鮮半島へ渡ったようでね。その時のスナップと街の様子が写された往時の写真が公民館に展示されています。

―米軍ハウスと呼ばれるものはわりと各地にありますね。

アラタ:米軍ハウスというものには、どうやら決まった建て方というのはないようなんです。前回の東京五輪後に代々木公園となった「ワシントンハイツ」は、選ばれた建築家によって国策的に建てられたこともあっていくつかのパターンで統一されていたようですが、その他の地域のものは不明です。造れば結構な額で借りてもらえるぞというような話から地元の農家などが建てるにいたり、じゃあどうしたものかといった中「知り合いにアメリカで設計やってたやつがいるよ」なんて紹介から図面を引いてもらってたケースが多いみたいですね。だから少し離れた土地のハウスでも、これは同一人物が手がけたんじゃないかというほど似てることがあるんですよ。図面が流用されていたという可能性も充分ありますね。

―ワシントンハイツや米軍ハウスを間に置いて考えると、団地とフラットハウスがつながってきますね。

アラタ:そういう部分もあるかもしれない。ハウスも当初は大きな集落で建っていましたからね。
じつは僕も築半世紀の古い団地に1年間だけ仮住まいしたことがあるんですが、棟と棟の間がとってもゆったりと建っていてすごくよかった。まあ、それを一度体験したくて入った部分もあったんですが、芝生の共有地が潤沢にあり、当然のようにアローワンス(遊び)を設けることをやっているんですよね。今のように定められているから仕方なくつくるのではなく、おそらく自発的にでしょう。
ただ、残念なことにそこがほとんど活用されていない。完成当初から住んでいるという上階の年配女性に「ここでお茶を飲んだりしないのですか?」と尋ねたところ、そういうことはあっちの児童公園でやるのよという返答。「それはもったいないですね~こんなにきれいな芝生の広場がたくさんあるというのに」というと、う~んというような迷い笑顔が返ってきました。
まあ、日本人は四角四面でマジメなんですね。僕は一度だけテーブルと椅子を出してやりましたけど、欧米人ならきっとみんな普通にやってると思う。彼らはこういう日常の無償で楽しむことには貪欲だから(笑)。

アラタさんが住んでいた団地でのスナップ。写真提供:アラタ・クールハンド

―団地にコーポラティブな空間があっても、うまく活用しきれてないところが多いかもしれません。

アラタ:ただただ高層化していくマンションに比べたら、小さくても楽しく住んでいこうという心意気の見える昔の団地は好きですね。しかし集合住宅は個々の世帯にファサードというものがないから「これが我が家だ」という認識が持てない。良くてせいぜい通りからベランダが見える程度。そこが平屋に比べて大きく物足りないところです。

―自分の家という認識。アラタさんが平屋に求めるものですね。

アラタ:それだけではもちろんないけれど、自分にとって「建物のシルエット」というものが決定的に重要なんだっていうのも、団地に住んでみてわかったことでした。住処の「外側」で自己主張をしたいという欲求があるということに気付いたというか。自分でも意外でしたね。

―住まいの何を重視するか。そこは人によって違うはずなのに、意外とその嗜好を自分の中に意識するって機会がないんですよね。

アラタ:こと外観においては、体裁ばかりでなおざりにされていると痛感します。

MDがまだ現役。アラタさんのマイMDを聴きながらの取材となりました。

 
#3 まずは仕事をやめてください へつづく(近日公開予定)

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。