アサダワタル(日常編集家)

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#2 30年ローンの意味がわからない。

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アサダ:僕は、今まで賃貸住宅に暮らしていて、この家ももちろんそうです。
これはあまり面白い話じゃないですけど、安いからっていう理由だけではなくて、この先もどこに住むかわからないんですよ。これまでも転々としてきたし、関わるプロジェクトによって仕事先もどこが主になるかわからない。そうやっていろんな土地に自分が渡り歩いていくときに、賃貸だと家を選ぶってことをいい意味で軽くしてくれるんです。
暮らしにまつわることをカスタマイズしていくにあたって、軽く選べるということは、自分にとってとても重要で。

―どこかの土地に落ち着けて、腰を据えてというのではなく、アサダさんは、かなり意識的に土地を移り住んでいるんですね。

僕の場合はそうですね。借り暮らしっていう感覚が家だけじゃなくて、いろんなことにあるんですよ。それは仕事の分野でもそうですし。
たとえば、今は滋賀の近江八幡にある、社会福祉法人の事務所へ週1回通ってますけど、それも自分としては腰掛けというか、間借りの感覚があります。

ー週1回ということ以外にも、間借りの感覚がある理由ってなにかあるんですか。

事務所へ行くたびに「今日はこの机が開いてます」とか、「会議室が空いてるので使ってください」って、固定された机を持っていないんですね。
住んでいる家にしても、だいたい3年に1回は引っ越しをしてるんですけど、たぶん感覚としては通底している部分があると思います。逆に当たり前すぎて、賃貸ということを特別に意識したことはなかったかな、この取材を受けるまでは(笑)。
自分の生活のすべてにおいて、借りと仮との両方の側面があるので、暮らす土地や家にしてもそのときどきで選びとっているという感覚です。

ー賃貸ということばを使うと、どちらかというと金銭的な側面がつきまとうような印象もあります。

確かにそうかもしれません。
これはちょっと極端な話ですけど、家を買うために30年とかの単位でローンを組みますよね。その意味が僕にはよくわからないんです。1年や2年の単位で計画を立てても崩れていくのに、30年というスパンで物事を決められるって、すごいなと。僕にはまるでそのイメージができない。絶対に無理(笑)。

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ーきっと誰もが30年先を見通せているわけじゃなくて、「まあ、そういうもんだ」くらいの感覚でしょうね。

これまでがそういう時代だったんですよね。
先を見通せるというのは、つまりは、未来のイメージがある程度の共通認識としてあって、みんなが共通の平均値をイメージできる時代だったんでしょうけど、今ではまず、それが難しいじゃないですか。
未来のイメージの平均値っていう大前提、地盤がグラグラになっているのに、その上に30年ローンが乗っかってくると、そのことにどうリアリティを保つんだろうって思います。

ーわかります。けど、話の本質とは別ですけど、「ローンが嫌だ」ってなかなか発言しづらくないですか。まだまだ子どもだという感じがして(笑)。

僕は言いますけどね、モラトリアム全肯定なんで(笑)。
学生の頃から30年ローンなんて…というのは思ってましたけど、その頃に比べるともうちょっと理屈が追いついてきました。まあ、言ってることは相変わらずチャラいというか、「その年になってもまだそんなこと言うてるの?」って話ですけど。

ーローンで家を買うものっていう、世間の常識みたいなものがあると抗うのはなかなか大変。

でも10年前、20年前に比べたら、その向かい風は随分弱くなっている気はします。それほど賃貸で住み続けることに肩身が狭いってこともなく、ひとつのライフスタイルとして当たり前になってきていますよね。
もちろん、家を買うっていう人のことを否定するつもりは全くありませんし、かぎりなく一括に近い形で支払えるなら、僕も家を買うという選択は考えると思います。頭金でほとんど払ってしまって、のこりは3年くらいで収められるならアリですね、僕の場合は。

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ーお金の面以外で、家を買わない理由ってありますか。

飽きるってこともあります。定期的に家や環境を変えてリフレッシュするという、最高のゼイタクみたいなことの味を知ってしまっているから。
だから、引っ越しをする予定もなく物件を見てしまったりして、「ちょっとこの家、よさそうやから見に行こか…いやあかんあかん、見たら引っ越ししてしまうわ、今はやめとこ」とか(笑)。

ー引っ越しって面倒くさいけど、実は楽しい面も多くて、それも賃貸に付随する魅力かもしれません。

たぶん、一所に留まることに対する覚悟が、なかなか持てていない。
「住み開き」の方に話を引き戻すと、「うちは賃貸だから、住み開きできないですよね」って言われることがよくありますけど、まったく関係ないです。
今、僕が住んでいるこの家も賃貸ですけど、大家さんともそういう話をしてあって、夏場は「住み開き」のイベントをしたりして、自由にやってます。20人も入ればいっぱいですけど。
自分の持ち家だから自由にできると思うのは自然だし、事実そうなんでしょうけど、賃貸っていう条件の中で工夫してやれることもやっぱりあります。
「うちの家、3人しか入れなくて」というなら、じゃあ3人でやればいいとも言えるので。『住み開き』の本でも、賃貸でやってる人はたくさん紹介していますから。わかってくれる大家さんも少なくないですよ。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。