美術館の貸し借り事情
鈴木慈子、相澤邦彦(兵庫県立美術館)

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#2 作品の貸し借り、そのバックヤード

―少し聞きにくい質問ですが、美術館が作品を貸し借りする際、いわゆる借用料のようなお金のやり取りはあるんですか。

鈴木:一部例外もありますけど、ないことの方が多いですね。特に公立の美術館同士の場合は、国内外にかかわらず、貸し借りそのものに対して支払いが発生するということはないと思います。

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インタビュー当日は、京都市美術館より貸し出していた作品の返却日。事前に空調が入れられた広くて真っ白な搬入口に、作品を載せたトラックがゆっくりと入ってきます。

―それはどんな作品に関してもですか。例えば、何億円もするような名画でも?

相澤:公立館の場合では、基本的にどんな作品もですね。そもそも美術館は非営利というか、公共性を前提として運営されています。具体的には、作品を未来へと受け継いでいける状態で管理・保存しつつ、多くの人が見ることができるように展示し、さらには研究を通してその文化的な意味や価値について掘り下げながら、教育などさまざまな方面にも役立てる――そういう理念があるわけです。だから作品を貸す代わりに対価をもらうといったことは根本的に馴染まないし、ましてや同じ理念を共有する美術館からお金を取ろうという発想はありません。

―すいません。でもやっぱり気になったもので……。

相澤:いえいえ(笑)。まあ実際に貸し借りするとなると、美術品という性質上いろいろとかかる経費もあって、それについては借りる側が負担することになります。それぞれの作品にあわせた箱を特注で作るとか、美術輸送のノウハウを持った運送会社にお願いするとか、あとは万が一の時のために保険をかけるとか。特に保険に関しては、作品の評価額に応じて金額が変わってくので、作品によってはなかなかの金額になることもあります。それこそ50億のゴッホなんて借りようものなら、大変なことになります(笑)。

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―さきほど作品の返却の現場を見学させてもらいましたが、双方の美術館の方の立ち会いのもと、運送会社の専門スタッフが数人がかりで、とても慎重に積み下ろしをされていたのがとても印象的でした。やっぱり美術品を扱うというのは、いろいろと大変なんだなと。

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トラックは美術輸送のための専用車両、温度や湿度を保ち、振動も最大限抑えるよう設計されているとのこと。青いシャツの人は京都国立近代美術館の学芸員さん。

―なんとなく貸し借りのリスクの話ばかりになってしまいましたが、逆に作品を貸し出すメリットは何かありますか。

鈴木:自分の美術館の常設展で展示しているのとはぜんぜん違う文脈で紹介してもらえたり、思いもよらなかった視点から作品に光を当ててもらった時は、お貸ししてよかったなって思いますね。あと、お貸ししたことを機に新発見があったりとか、純粋に知らなかったことを教えてもらったりとか、具体的なフィードバックがあるのも大きいです。所蔵館の学芸員としては当然その作品について知識は持っているんですが、展覧会の切り口によって調べておられる部分も違うので、図録に掲載された論文を読んで「えー、そうだったの!?」って驚かされたりすることもありますよ。

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鈴木:いろんなところで、いろんな文脈で展示されるというのは、作品にとってたくさんいいことがあります。展示されることで評価が上がることもあるし、直接評価に繋がらなかったとしても、どの展覧会に出展されたかというのは、その作品に蓄積されていく歴史そのもので、大事な情報です。だから作品を貸し出すことっていうのは、ある意味で作品を育てていると言えるかもしれません。


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。