大家さんと賃貸住宅、まちの話
青木純(大家/都電家守舎)

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#3 賃貸住宅にもっとOBを

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#2 はこちら

―前の住人の痕跡を消してしまうのではなく、うまく住み継ぐって賃貸住宅ならではの可能性だと思います。ただ、やり方を法則化できないところもあるので、なかなか難しいですよね。

青木:ですけど、手間暇さえかければ絶対にできます。逆に、その瞬間の手間さえいとわなければ、後からが楽。極端に言えば、壁紙が傷ついていても、そのままでOKだったりするじゃないですか。

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青木:ロイヤルアネックスの住人の中には、住みながら自分の家の情報をどんどん公開して、次に住む人のことも知りたいし、自分が引っ越した後、また遊びに戻ってきたいって言う人もいるんですよ。自分が住んでいた場所であることをちゃんと自分の中にのこしておきたいからって。それは、すごく健全な考えですよね。

―確かに、自分がかつて住んでいた家に遊びにいくって、楽しいでしょうね。

青木:そうなんです。ロイヤルアネックスのfacebookでは、現役の住人にOBを含んだグループも立ち上がっていて、出て行った人ともまだつながっています。そういう愛着を住み手がどれだけ持てるかじゃないですか。

―うわっ!賃貸住宅に対して、OBという発想はなかったですね。

青木:うん、OBです。ブルースタジオの大島(芳彦)さんなんかもよく言ってますけど、良い賃貸住宅ほど学校であるべきなんです。そこで住まうことで暮らしが磨かれていって、出て行った後もOBとしてそこに戻ってきて、そのときの住人=後輩が活動しているのを見守りながらアドバイスを送る、みたいな。

―いいですねー。

青木:逆にいえば、賃貸住宅は卒業していくものだからこそ、その瞬間的な価値をすごく高めたいと思うし、そのときに住んでいる隣人とのコミュニティもいいものにしておきたい。そう考えると、すべて健全な方向でスパイラルがまわっていくんです。そこが、借り物で、単なる寝床で、出て行く場所だからって感覚だと難しい。

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青木:そういう意味では、カリグラシという言葉、「仮暮らし」という意味にもとれるからちょっと危険なところもあるなと思います。

―そうですね。賃貸住宅は仮のものと思ってる人にとっては、賃貸でOBや愛着という話は、まずピンとこないでしょうね。

青木:そもそも、家を買う派、借りる派って話がありますけど、それもよくないと思っていて。

―その単純な二分法もまずいと。

青木:買ってる人でもすぐに売ってしまって、住まいを次々移っていくなら借りる派に限りなく近かったりしますし、それぞれの価値観が違っている。なのに、買う人は永遠にマイホーム、借りる人は数年で転居するって前提になっているのがイヤだなと。賃貸の方が安くなきゃいけないという風潮もありますけど、極端なことをいえば、賃貸の方が高くても僕は、全然いいと思います。

―確かに! 賃貸住宅に値打ちがあればそうなりますね。

青木:そうですよ。短期滞在のホテルのことを思えば、1日あたり、ふつうの住宅より高く払うのは平気ですよね。だから、人生を旅にたとえてみれば、賃貸で暮らす時間のことを短期滞在のホテルで特別な体験をしている期間だと考えてみることもできますよね。

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―賃貸住宅でそこまで言えたらほんとにすごい。

青木:豊かなコミュニティがあるとか、単身者だからこそできる体験があるとか、賃貸に住む時間をそう捉えていけば、全然ありえますよ。ただあの場所に住んでみたいという気持ちだって、十分な動機になりますから。

―青木さんが2014年から始めた共同住宅「青豆ハウス」は、まさしくあの場所に住みたいで選ばれる賃貸住宅になっていますね。3階建てのメゾネットが絡まり合うように配置された全8戸の木造住宅。

青木:最近、第2期の住人が入ってきたんですけど、実は、青豆ハウスのほんの近くに住まれていた方で、青豆ハウスができるところからずっと興味を持って、見ていたそうなんです。それが、もう住みたくて我慢できなくなったって、申し込んでくれたんですよ。めちゃくちゃうれしかったですね。だって、家賃も高くなってるはずなんですけど、それでも青豆ハウスを選んでくれたってことだから。

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青豆ハウスでは、夏にご近所さんを呼んで夏祭りが開催される。

―ちなみに青豆ハウスは、青木さんも家族と入居していて、大家にして住人という形をとられています。

青木:シェアハウスの文化が東京で広がって10年くらい経ちますけど、たとえば、結婚するとシェアハウスには住み続けられなくて、結局、分譲マンションだとか、コミュニティのない世界に飛びこんでしまう“シェアハウス難民”が結構いるんですね。そういう人たちの受け皿としても青豆ハウスは発想しました。だけど最初は不安のほうが大きかったんです。二人暮らしの住人に向けた共同住宅って、聞こえはいいけど、まだ世の中にそんなに数もないから、うまくいくのかなって。だからこそ、住人たちの生のコミュニケーションを肌身に感じてないと不安で、自分も住まなきゃと思いました。
ただ、同時にワクワクしていたのも事実で、こんな共同住宅ってまずないし、賃貸住宅はこうあってほしいという自分の考えを形にしたのに、そこに自分が住まないなんてもったいない! って思いもありましたよ。

―実際に、いち住人として暮らしてみた青豆ハウスの住み心地はどうですか。

青木:楽しいですよ。住人みんなで大事にしているモットー、家訓があるんですけど、「無理せず、気負わず、楽しもう」。これだけなんです。コミュニティの話をすると、徒党を組んでる感じがするとか、みんな一致団結してとか、よく誤解されますけど、逆ですね。むしろ、個人主義で、個人が自立しているからこそ、たまにまじわることも楽しめるんです。がんばりすぎてたら、「無理してない?」って他の住人から注意されますから(笑)。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。