大阪の古本屋さんが
瀬戸内海の猫の島でホテルを開くまでの話。

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数少ない映画専門の古本屋さんにして、カフェのような居心地のいい店づくりでも知られた大阪天満宮門前の「駒鳥文庫」。その店主・村上淳一さんが店を閉じて、瀬戸内海の佐柳島(さなぎじま)へ移住、島でホテルをオープンするという話を聞いたのは昨年の秋のことでした。

実際、「駒鳥文庫」は昨年末に“店内すべて50%オフ”の売り尽くしセールをもって閉店。村上さんは、春からの島暮らしに向けて着々と準備を進めています。

引っ越し業者の見積もりがやって来たりとか、まさに引っ越し前夜といった状況の中、大阪の木造一軒家に暮らす村上さん宅を訪ねました。移住と物件にまつわるあれこれの話、村上さんの「借り暮らし」論をどうぞ。

 

#1 島の木造校舎と出会ってしまった。

ー移住の計画は前から準備されていたことなんですか。

村上:たまたまですよ。島でやるのも本屋じゃなくて、宿泊施設だからこれまでとは畑違いですし。ちょっと思いついたので企画書をつくっていたら、とんとん拍子に決まった感じです。

ーそんなことってありますか!?

村上:あるんですよ(笑)。佐柳島というのは、実はうちの父方の田舎なんですけど、子どもの頃、自分の乗り物酔いがきつくてしんどかったこともあって、とんでもなく遠い場所にあると思ってたんです。それが、いつの間にか「猫の島」と呼ばれて、写真家の岩合(光昭)さんも来られるような島になっていた。そのことを最近知って、僕も猫好きなので、すごく久しぶりに島へ遊びにいってみたら、思っていたよりも全然近くて。

ー子どもの頃の印象のままで止まってたんですね。

村上:瀬戸大橋が四国へつながって、大阪からでも日帰りで行けるようになってるのも発見でした。ただ、島に行くと猫はいるんだけど、休憩できるような場所も何もなくて、自販機すら見つからない。そこで見かけたのが木造の小学校。もう学校としては使われてなくて、ここをカフェとかにすればいいのになぁと思ったのがきっかけといえばきっかけです。

こちらがその旧校舎。手前は瀬戸内海がすぐそばに。

ーそうは思っても、なかなか自分ではやらないでしょ。

村上:だけど、僕がちょっと思いついてしまったから、簡単な企画書をつくってみて、周りの人にも相談をしてたら、だんだんやれそうな気になってきたんです。

ー島の学校を借りるというのもハードルが高そうです。

村上:そこなんです。伝手をたどっていくと、瀬戸内芸術祭に関係している人まではたどり着くけど、佐柳島は瀬戸芸に参加してないから…というところで立ち止まっていたら、たまたま大阪で「香川県移住セミナー」という催しがあって、佐柳島のある多度津町のブースも出ていると。そこで企画書を見せると、「これはいいですねぇ!」って、多度津町としてもまさに来年度から町おこしに力を入れていこうというところだったので、ちょうどいいタイミングだったんです。

ー校舎というのも貸していただけるものなんですね。

村上:びっくりするくらい、そこからはスムーズに進みましたね。一応、その校舎は、島の「自然体験センター」という施設になっていたので、それをやめることや家賃のことなんかも町議会にかけてくれて。これが1年前や1年後だったら、多度津町にも他の話があったかもしれないし、自分も動けてなかったと思います。ほんとにタイミング。

ーちなみに、佐柳島というのはどれくらいの人が住んでる島なんでしょう。

村上:100人強です。猫は誰も数えてないですけど、島民と同じかそれよりも多くて。アクセスは、香川県の多度津町からフェリーが1日4往復、60分かかります。

取材の合間に引っ越しの見積りも。引っ越し先が離島なので料金もなかなかシビアそう。

ー村上さんの実家もまだ島にあるんでしょうか。

村上:お盆に帰るための小さな家はのこしてますけど、親戚みんなもう島を出ていて。だけど、小さな島なので、親父の名前を言ったら、みんな知ってます。面白いのが、それぞれの家にあだ名みたいなのがあって、うちの呼び名が「マンガ」。島で床屋をやってた、うちのおじいちゃんが面白い人だったらしくて、「マンガ」になったみたいで、だから「あー、マンガの孫か」って言われます(笑)。

ーそんなあだ名!?

村上:あだ名とは別に家の屋号もあって、それは「デンシ」。

ーマンガでデンシ!

村上:由来とかはよくわからないんですけどね。島では、まだ土葬の風習があって、埋葬するお墓とお参りするお墓、両墓制といってふたつのお墓をつくるんです。だから、僕もおじいちゃんを埋めましたよ。

ーそうやって聞いていくと、離島ならではのことがいろいろとありそうですね。

村上:そうなんです。とはいえ、島に人が行き来するようなことを考えていかないと、今は1日4本のフェリーが何十年後でも維持されているかどうかわからない。だから、島にいる人たちのことを見とっていくような気持ちもあるんです。僕が嫁と島に移り住むことでできることなんて限られているけど、ほんの少しでも島の手助けになればいい。島の猫にとっても、誰か面倒みてくれる人がいるほうがいいわけですから。

大阪の村上さん宅もなぜか周囲はノラネコだらけ。窓の外からガリガリやってるのは近所のノラネコ。実はこのページのトップの写真、門柱の向こうにも別のネコの額がちらっと見える。

ー人が移り住むってことの意味はささやかなようで、大きな可能性があるんだと気づかされます。

村上:それが僕じゃなくてもよかったんだけど、地縁血縁があって、自由に動けて、若くはないけど年寄りでもない…って、いろいろ考えていくといちばん条件に合っているのが僕だったというだけ。だから、これはもう、運命かなって。

ーこれで佐柳島の運命も変わるかも、ですね。

村上:わかりませんよ。島の人に受け入れられず、数年経ったら泣きながら帰ってくるかもしれない(笑)。もしそうだとしても、まだ大丈夫だと思ってるんです、この年齢だったら。ぎりぎりですけども。

文:竹内厚 写真:平野愛 

→#2 だいたいのことは物件から決まる!?
移住にまつわる話はこれでおしまい。この続きは移住後に…なんですが、村上さんの背景に写る住まいのこと、気になりませんか? 実は、村上さんの生活は、ほぼ家や物件ありきで決まってきたという、村上さんの「借り暮らし」論を次回、お届けします。
なお、移住は3月。そこから旧校舎の改装に手をつけて、宿の開業は6~7月頃を予定。


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