大阪の古本屋さんが
瀬戸内海の猫の島でホテルを開くまでの話。

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#2 だいたいのことは物件から決まる!?

大阪都心部からもほど近く、最寄り駅から歩いて5分。商店街までも目と鼻の先という立地にして、前庭、裏庭、サンルームなどもそなえた木造民家が、いまの村上さんの住まいです。
佐柳島への引っ越し直前、村上さんの住まい論をお聞きしました。

ーとても落ち着く住まいですよね。

村上:いいでしょう。引っ越しがなければ、もっと庭の手入れをしたり、いろいろやりたかったことがあるんですけど。庭にはみかんもなってるんです。

ーこれまでどんな家に暮らしてきましたか。

村上:小さい頃は団地っ子でした。小学校くらいまでかな。団地の棟ごとにグループがあって、野球で対決したりとか。それから実家は一軒家に引っ越しました。僕は、働きはじめてから、戦前からある阿倍野の長屋に5年ほど住んで、その次がここでまた5年くらいです。

ー団地、長屋、木造民家、そして今度は離島の元小学校へ。なかなかすてきな家の履歴ですね。

村上:ずっと畳暮らしなので、フローリングの家へ行くと足が痛くなります(笑)。そして、ちょっと揺らぎのある部屋に慣れてるから、新築の家に行ったりすると緊張しますね。まっすぐや!って(笑)。

ー村上さん、田舎のおばあちゃんのような発言になってますよ。猫はずっと飼ってられるんですか。

村上:長屋に住みはじめてからですけど、そこネズミが出たんです。それで、ペット不可の物件だったけど、大家さんに相談して、「猫を飼ったらネズミも出てこないと思うんです」って言うと、「ええよー」って。実は、大家さんも猫好きで、猫を飼ってたんです。

ー言ってみるもんですね。なんて名前の猫でしたっけ。隠れて出てきませんけど。

村上:「てんちょう」です。ちょうど古本屋をはじめるタイミングで飼いはじめたので、「オマエが店長な」って。けど、ものすごく人見知りなんで、人が来たら絶対に出てきません。そうそう、その阿倍野の長屋には、2階建ての土蔵もついてたんです。それもあって古本屋をはじめたんですよ。

村上さん宅のサンルームにて。「てんちょう」は訪問時、こたつにじっと隠れていたが、その後、猛ダッシュで脱走。隠れてしまった。

ーどういうことでしょう。村上さんの「駒鳥文庫」は、2010年に開店。最初はオンライン書店でしたね。

村上:もともと僕は老舗の古本屋で働いていて、人件費削減とかの流れでそこを辞めることになったときに、家に土蔵があるから、そこに古本をストックしてやれば古本屋として独立できるかなって思って、はじめたのが「駒鳥文庫」なんです。

ー計画的な開店ではなかったと。

村上:流れのままに、ですね。古本屋をやりたいから物件を探す、見つかったから開店するというのが普通だと思いますけど、僕はだいたい逆なんです。その後で実際の店舗をオープンしたのも、「鉄道広告社ビル」といういい感じのビルを区画割りで借りている友人のところに遊びにいったら、ちょうどその日に空きが出たので「借ります!」って入れてもらって。

ー鉄道広告社ビルでは1坪ほどのひと区画を間借りという感じでしたね。

村上:だから、家の土蔵にストックを置いたままで、注文が入るごとに家まで取りに戻って発送してっていうのが大変だなと思ってたら、今度は「鉄道広告社ビル」の近所の「タツタビル」に空きがあるよって聞いて。紙もの雑貨の「夜長堂」さんも入るというので、また「僕も借ります!」って。

ーさらに、そのタツタビルから天満宮門前へ、もう一度、店を引っ越してましたよね。それも…。

村上:はい。いい物件空いたよって聞いたから。

天満宮門前にあった「駒鳥文庫」の様子。この頃の村上さんは、古本屋店主らしくヒゲ姿。

ー短期間にお店の面積がどんどん大きくなってるじゃないですか。物件を借りるのも結構な決断だと思うんですけど、なんか気軽ですね。

村上:毎回そうなんですよ。計画的というよりは、まず物件や場所が目の前に来て、その縁に乗っかっていくとこうなった(笑)。積極的に物件を探した覚えもないんです。

ーちょっと「わらしべ長者」ノリですね。その先に離島でホテル、でしょ。

村上:ほんまやわ。言っても、小さな部屋が4つだけのホテルですけど、気づけばホテルオーナーですから(笑)。自分のやりかたとして、ゼロから立ち上げていくというよりも、手持ちにある物件、ある物を使ってどうするか考えていて、それでなんとかなってるから不思議ですよね。

ーそれって結構、借り住まいならではという感じですね。借りた場所に合わせて、うまく自分も生活も転がっていく。

村上:そうかも。だから、自分には家を買うっていう発想はあまりないんですよ。買ってしまうと動けないから。ただまあ、いつもお金がない(笑)。でも、いつも周りに恵まれているから、莫大な借金抱えてるわけでもないので、細々とは暮らしていけるかなって。
この先、島に移住するだけでも大変なのに、ホテルを開くというまったく未体験のことばかりなので、正直、どうなるか全然わからない。ただ人の縁は大事にして、義理人情を欠くようなことがなければ大丈夫かなと思ってます。

取材時、テレビから流れていたのはウディ・アレンの自伝的映画『ラジオ・デイズ』。村上さんの住まい遍歴、これからの物語も楽しみです。

文:竹内厚 写真:平野愛


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