川﨑仁美(盆栽研究家)

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#1 「お預かりしている」盆栽の世界

女子高生時代に学生服姿で飛びこんだ盆栽展。そこで盆栽の強い魅力に惹きつけられると同時に、盆栽雑誌にナビゲーターとしてスカウト! という運命的な出会いからはじまって、現在は、盆栽研究の道を突き進んでいる川﨑仁美さんが今回のゲストです。

盆栽の存在は誰もが知るものながら、その実情と醍醐味、文化的背景はなかなか知られていません。しかも、借り暮らしな要素をその本質に持っているなんてことも…。

川﨑さんは1年間のアメリカ〜イギリス留学を終えて、京都へと戻ってきたばかり。盆栽で海外留学!? そんな話も合わせて、おどろくべき盆栽の世界へとご案内します。


川﨑仁美
1980年生まれ。京都出身。高校3年から盆栽雑誌のナビゲーターを務め、その後、独学で「現代盆栽」を主宰。現在は、京都工芸繊維大学博士課程に在籍、美術の観点から盆栽研究を行っている。
http://www.gendaibonsai.com/

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五葉松 銘「青龍」/さいたま市大宮盆栽美術館所蔵

―盆栽はどれくらい海外でも知られているんでしょうか。

川﨑:日本文化のひとつとして、お茶、生け花、歌舞伎などと並ぶようなレベルで、「ボンサイ」をご存知の方が多いですね。うちの盆栽を見にきてほしいと言われて訪ねると、だいたい広大な日本庭園をつくられていて、石庭や池や灯籠があって、盆栽が並んでいるというような感じです。

―海外での話ですよね。驚きです。

民族性と風土が出るので、国ごとに違っておもしろいです。昔は、単に日本の盆栽を輸入して、そのままマネをする方がほとんどでしたけど、いまでは地元の木を盆栽に仕立ててつくっていくような、その国オリジナルの盆栽が見られます。風土になじまないと枯れてしまうので、持続可能なやり方になってきました。

―盆栽にお国柄が出ているんですね。

たとえばインドでは、デリーに愛好家の方がいらっしゃって、国立公園の中に盆栽ガーデンをつくらはったんです。初めて見たんですが、ゴムの木の盆栽がありました。盆栽鉢も「クリ」っていう、チャイを飲むのによく使われている素焼きの器がありますけど、あれでオリジナルの鉢をつくられていて、すっごい照明も用意されてました(笑)。

―盆栽の定義がわからなくなってきますね(笑)。

そうなんです。私も、何でもありになっている世界の盆栽を見ていると、盆栽として譲れないコアは何か考えさせられました。結局、最も大事なのは長寿性、骨董的価値観ということかなと。

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―どういうことでしょう。

簡単に言うと、長く生きれば生きるほどいいということ。生きた骨董品とも呼ばれますけど、無理なデザインを強制すると、結局、枯れちゃうんですね。そうではなくて、健康状態を見ながら、形を整えて、時代を超えて長生きさせるという思いのある鉢植えの木であれば、それは盆栽じゃないかと思います。

―長生きがものの価値として織りこまれているのは、むしろ新鮮です。

それも、ただ古いのがいいということじゃなくて、育むというのかな。そこが骨董に通じるところで、使えば使いほどよくなっていくという。お家もそうじゃないですか。

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蝦夷松 銘「轟」/さいたま市大宮盆栽美術館所蔵

―ものを大事にとはよく言われますけど、時間とともに育んでいくという価値観は、そのさらに一歩先ですね。確かに、家というのもそういうものだったかもしれません。

ただ、そこまでの話になると「重い」って言われたりして(笑)。なかなか伝えるのが難しいですね。

―盆栽をやっている方だと、骨董的価値観や長寿性のことは常識なんでしょうか。

意識の差はあります。お商売の都合上、目先の利益を追求される方もいらっしゃるので。ただ相手が生き物なので、無茶したら枯れてしまうでしょ。どうしても、先のことは考えざるをえないものですね。なかでも樹齢100年以上の樹になると、「伝承盆栽」と呼ばれて、一般の人ではなかなか手入れができない樹になるんです。

―100年以上ってすごいです。

樹齢300年とかだと数少ないですけど、樹齢100年くらいの樹は普通にありますよ。徳川家光が愛蔵していた松の盆栽も東京にあります。

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幅1.8m、高さ1.6mにも及ぶ盆栽。五葉松 銘「千代の松」

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岸信介首相が愛蔵されたことで知られる「いわしで」

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盆栽愛好家でもあった、大隈重信愛蔵とされる黒松の逸品

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根津嘉一郎、佐藤栄作、岸信介らによって、代々愛蔵されてきた花梨/以上、さいたま市大宮盆栽美術館所蔵

―何百年の木って神社くらいでしか見たことないかも。

私も初めて盆栽を見たとき、「ご神木が鉢に入ってる!」と思って、びっくりしたんですよ。そう見れば、すごい文化じゃないですか。

―なるほど。そう思えば、「伝承盆栽」が一般には手入れできないというのもわかる気がします。

ひと枝間違うて切ってしまったら、また30年やり直しという世界ですから。昔は、ご自分の庭に並べられて、盆栽職人さんに来てもらったり住みこんだりさせるような旦那さんがいはったけど、いまは、もうひと握りの方ですね。だいたいは、職人さんに預けられて、ときどき見に行かはるんです。

―自分の盆栽なのに、預けておくんですね。

オーナーのあり方としては、競馬の馬主さんと似ています。馬は調教師さんに預けはるでしょ。盆栽も同じで、職人さんに預けて管理、培養をしてもらって、展覧会があればオーナーさんの名前で出品をして、賞をもらうことで格式を上げていく、そういう世界なんです。

―100年以上という歳月を知らされると、人間よりも長生きなんだと改めて思わされます。

そうですよ。伝承盆栽は受け継がれていくものなので、愛好家さんの中にも「ぼくの盆栽」じゃなくて、「お預かりしている盆栽」と言わはる方もおられます。京都でいえば、お寺さんとかもそうですけど、自分よりも長くあり続けるのが当然だという意識があるかないか。そこで、ものの扱いかたが変わります。受け継がれてきた時代や意志、思いを尊重すれば、すべてを自分の思い通りにするということにはならない。骨董でも、家でもそうやと思うんですよ。

―こと骨董になるとなんとなくそう思えますけど、盆栽、そして家のことになると、なかななかそこまで意識するのは…。

骨董でも自分の名前を入れたりされる方もいますけど。自分のものとしてどこまでをよしとするか、その境界線はなかなか難しいですよね。

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文:竹内厚 写真:平野愛
取材協力:長楽館(京都・円山公園内)

樹は自分より長く生きる。だから、「お預かりしている」。そう思えるものが身のまわりにどれだけあるか…。盆栽ってシビれる文化です。次回、あのキュー王立植物園でも働いていたという、川﨑さんの留学生活にも迫ります。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。