川﨑仁美(盆栽研究家)

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#2 盆栽とガーデンに通じるもの

世界に広がっている盆栽文化。その本質には、骨董や住まいにも通じるような、長く育んでいく価値観がありました。知ってるつもりで何もわかってなかった、盆栽の魅力を再発見!

#1 はこちら

―川﨑さんは1年間の留学を終えたばかり。盆栽で海外留学というのもちょっと不思議です。

川﨑:海外で盆栽が流行していることもありますけど、世界の園芸の現場で、伝統園芸の専門家が求められているんです。最先端の現場で、盆栽のような伝統の技術の価値が高まっているんですね。

―最先端は伝統へと向かっている。

アメリカでもニューヨーカーの間でオーガニックがブームになっていますけど、オーガニックってつまり、有機栽培ということ。盆栽もいまは化学肥料が圧倒的ですけど、それ以前の油かすなどを使う有機栽培だった歴史が長いです。いまも「昔づくり」として、化学肥料を使わずにされている方もおられます。

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―そういう流れから、海外のひとが盆栽に目を向けているというのもあるんですね。ところで川﨑さんは、実際に留学先では何をされてたのでしょう。

アメリカだと、フィラデルフィアにある「ロングウッドガーデン」という植物園で、朝の7時から4時まで肉体労働です。

―体を動かすほうですか!

ガーデナーとして留学しましたので。イギリスではナショナルトラストに所属して、「ヒドコート・マナー・ガーデン」「キュー王立植物園」など、ナショナルトラストが維持管理しているいくつかの庭でイギリス式ガーデンを学びました。そこでも肉体労働を(笑)。

―いまの着物姿からなかなか想像できません(笑)。

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ロングウッドガーデンでのオオオニバス、スイレンの手入れ

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ヒドコート・マナー・ガーデンでのヘッジカット(剪定) 以上、川﨑仁美さん提供

図鑑片手に植物を同定しながらの作業もしましたよ。ナショナルトラストって、文化財レベルの庭園やお城を保存して、活用しているNPOなんですけど、現在、550件もの物件をすべてオーガニックで管理されているんですよ。つまり、有機的にガーデンの維持をして、建物をクリーニングする洗剤なんかもオーガニックなものを使って、併設するカフェではオーガニックな地産地消の野菜が使われていました。

―徹底していますね。

古いものをどうのこしていくか、その現場すべてでオーガニックを実践しているのは、とても勉強になりました。

―まさに、最先端がオーガニックに向かっている実例ですね。盆栽とガーデナーというのは、どうつながるのでしょう。

海外の愛好家さんは、盆栽と庭をセットでやられている方が多いので、盆栽の専門家だといっても、庭のこともよく尋ねられるんです。だから、日本の庭師さんのところで研修させてもらったこともあります。

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キュー王立植物園で熱帯ナーサリー(温室)の手入れ

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ロングウッドガーデンで千輪菊の輪台付け 以上、川﨑仁美さん提供

―すべてが盆栽研究のため。

現場を知っておくほうが説得力がありますよね。あと、日本の手入れはきめ細かくて、盆栽も庭もハサミで仕上げたりなんですけど、海外だと、チェーンソーのような道具を使っているイメージがありますよね。日本の植物関係の方で「海外の大雑把なやり方とは違って」というように、海外の庭のことをネガティブな引き合いに出される方もいます。だけど、本当に日本だけが優れているのか、ずっと疑問に思っていたんです。

―実際に海外でガーデナーとして働いてみた結論はいかがでしょう。

やっぱり各園それぞれすごいんですよ。そもそも風土がぜんぜん違っていて、イギリスは粘土層の土なので、掘り起こして、土を耕すという作業自体がとても大変。だから、道具も大きくて重いものになるし、反対に、日本の土はとても豊かなんですよね。それに、イギリスには氷河期があったので、固有種がいったん絶滅してるんです。だから、大航海時代にはプラントハンターと呼ばれる人たちが、世界中の植物を持ち帰ってきた。自分の国にはないからこそ、その欲望が生まれてきたし、体系化をする博物学の伝統も生まれてきたんだと感じました。

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―盆栽に通じるような精神性もありましたか。

哲学がありました。学問的に体系化されているってすごいことで、要するに書物や理屈がちゃんとあるので、説明がわかりやすい。向こうのガーデナーは、哲学、色彩学、心理学、歴史、デザイン、それぞれの観点からきっちり教えてくれるんです。

―職人芸にちゃんと言葉がついてくる。

日本だと勘や感覚、暗黙の了解に委ねられている部分がどうしても多いので、初心者にはわかりにくい面があります。そこは、やっぱりもったいないですね。

―イギリスよりも日本の自然が豊かだというのも、実感としてはありませんでした。

日本の植物園でも働いたことがありますけど、集客が大きなテーマなんですね。周りの自然が豊かだから、わざわざお金を払って植物を見なくてもというのが前提にあるので、日本では“世界一大きな花”とか珍しいものが喜ばれます。

―たしかに、食虫植物とか変わったもの見たさに植物園へ行っていたかも。

日本ほど自然が豊かじゃない国だと、植物園に足を運ぶのがそんなに特異なことじゃないんです。

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―日本の自然が豊かなことは、あちこちの団地へよく行くようになってからも感じるようになりました。住棟のあいだが植物にすっかり覆われている団地や、前の住人が育てていた花の種がのこっていて、住人が越した後も季節ごとに花が咲くというような話をよく見聞きします。

団地は、贅沢に計画されてつくられていますよね。建物と建物のあいだの敷地にすごくゆとりがあって。

―なんのために空けた場所なのか、よくわからない空き地化しているところも見かけましたけど。

管理の難しさがありますよね。アメリカの街が進んでいるなと思ったのは、公園などの共有スペースにひとりずつガーデナーがついてる地区があるんです。これまでは行政が管理していたところを、ガーデナーに任せて管理してもらって、ボランティアが手伝いながら身近な公園をつくっていくというやり方がとられています。

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取材場所となった「長楽館」は、たばこ王・村井吉兵衛の別荘だった近代建築。観光地の京都・円山公園にあって、独自の時間が流れる別天地

―いいですね。ガーデナーの個性が、そのまま公園の個性にもなりますし。

そういうことです。管理のことだけを考えると、入札制で安くて早いところが請け負うことになるので、どうしても画一化されちゃうんですけど、ガーデナーにまかせることで個性が出るし、植物好きのボランティアともコミュニケーションが生まれてくる。そういう公園では、ガーデナーの名前がエンブレムでちゃんと掲げられていました。

―一律に管理するというのは、植物になじまないですよね。

そう。ガーデナーを活かしていくのは、きっと日本でもできることですよ。

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津山檜/さいたま市大宮盆栽美術館所蔵

海外留学だけでなく、庭師や植物園への出入りなど、積極的に現場へ足を運んでいる川﨑さん。実は、超一級の盆器(盆栽の鉢)をその目で見るために、クリスティーズ香港まで足を運んでいるそうですよ。スゴイ! 次回、盆栽のことをさらに詳しく教わります。


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