黄瀬徳彦(TRUCK FURNITURE)

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今や日本全国、世界からも注文が届く大阪の人気インテリアショップ「TRUCK FURNITURE」は今年で20周年。その原点は、20年前に椅子職人の黄瀬徳彦さんとイラストレーターの唐津裕美さんが、玉造の幽霊ビルを借りて自らの手で解体、改装したところにあります。

リノベーションという言葉もまったく聞かなかった時代。パイオニアだった2人はどうやって住まいとショップをつくったのか? そして今の暮らしは? 人間力あふれる黄瀬さんに話を聞きました。

 

#1 解体はバール1本で

―20年前、黄瀬さんの家もショップも拝見したのですが、もう衝撃的で。自分たちで古ビルを改装するなんて、それまでにない発想だなと思いました。

黄瀬:あの頃、『ゴースト/ニューヨークの幻』という映画があったでしょ? 冒頭でデミ・ムーアとパトリック・スウェイジが、自分たちの部屋を解体して作り直しているシーンがあって、その気分やったんですよ。

―ニューヨークでは普通だったのかもしれませんが、当時の日本では珍しい。

黄瀬:家と店ができあがってすぐ、『ポパイ』などの雑誌によく紹介してもらいました。最近、有名なリノベーションの会社を営んでいる人が、「あのときの[TRUCK]を見て、今この商売をしてます」と言ってくださったりします。

―何から何まで二人でやるというのは大変だったんじゃないですか?

黄瀬:いや、もう楽しくてしゃあなかったですよ。解体するのに使ったのはバール1本だけ、柱は飛び蹴りで倒してましたし(笑)。天井を抜くときに電気線がブチっと切れて真っ暗になったり。後で電気工事の人に「もうスレスレやったで。火が出るとこやった」と言われましたけど。

解体に取りかかった頃の写真。いずれも黄瀬さん提供

―どれぐらい時間をかけてつくりあげたのですか?

黄瀬:家は1カ月でつくりました。かなり激しかったですよ。寝る時間もないぐらい。でも最高に楽しかった。

―それだけ夢中になったビルをどうやって見つけたのですか。最初から玉造に照準を絞っていた?

黄瀬:いえいえ、ありとあらゆるところを探しましたよ。最初は、倉庫のような物件が多い平野や矢田の方を見て回ったんです。そこを借りて、シャワーでもつくって住んだらどうやと。『フラッシュダンス』が好きで、ジェニファー・ビールスが倉庫に住んで踊ってたじゃないですか。あの世界に憧れていたので。

―アメリカ映画がひとつの参考になってるんですね。そうした物件はどんな風に探すのでしょう。

黄瀬:車に自転車を2台積んで、現地に着いたらくまなく探す。いいなと思った物件があったら、登記簿を調べたりして持ち主を見つけて。いきなり「あの建物気に入ったので貸してもらえませんか」って。

―不動産屋の仲介もなく。

黄瀬:そう。ここ借りたいと思ったら、直接大家さんに手紙を書いてアピールしたりしてました。物件を探してる過程でいくつか候補が出てきて、何回か盛り上がりがあったのですが、結局、あの玉造のビルに縁があって、それがよかったのかなあと思います。玉造のビルに決めたのは、2階に住めそうだったのと、1階に工場を設けて店もできるというのがいいなと。

―縁はすんなりと結ばれた?

黄瀬:借りたビルは、金属会社所有の建物やったんです。もともと2階が寮かなんかで。家賃もかなり高かったから、僕らみたいなガキンチョが行っても相手にされない。「お父ちゃんに聞いといで」って(笑)。だから、2人で目いっぱい大人っぽい格好をして行ったり…。そんな状況で部屋を解体したいなんて言い出そうものなら、「つぶす? 何言ってんねん」ってもんですよ。リノベーションって発想が当時は全くなかったですから。説得するため、そこはすごく頑張りました。知り合いのデザイナーにダミーの設計図を描いてもらって、ちゃんと考えてるという姿勢を見せて、なんとか貸してもらえました。

―できあがった空間を見ると、大家さんも納得したのでは?

黄瀬:10年間ほったらかしになってたビルだったから、価値は上がったと思いますよ。

黄瀬さん提供

―大きな長堀通に面していたのもよかったですね。

黄瀬:そうですね。長堀通は結構人通りが多くて、店を開けてからもお客さんがゼロという日はなかったです。けど、初めて商品が売れたのは開店1カ月たってから。関西で活躍されているスタイリストの方がフラっと来て、「これください」って。虚を突かれて、「えっ、今なんて言いました?」って感じですよ(笑)。慌てて2階へおつりを取りにいきました。

文:蔵均​ 写真:佐伯慎亮 編集:竹内厚

‎#2 大きな木を拾う
玉造から現在地へ移転した際、黄瀬さんが最も大事にしたもの。そのために黄瀬さんがとった行動は、かなり桁外れなものでした。


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