富山の小さな文化施設LETTERを
始めた3人それぞれの理由

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#2 ひらすま書房・本居淳一さんの場合

ひょんなことから“元郵便局”だった場所を引き継ぎ、大家さんとなってしまった永森志希乃さん。「1階には、本屋さんがあったらいいな」というひそかな構想を抱く中で、目をつけていたのが「ひらすま書房」でした。しかしこの本屋さん、今まで実店舗を持っていなかったという謎のスタイル。
神出鬼没? それとも気まぐれ営業? いやいや、それなのにどうして”LETTER”の一員になったの?
「ひらすま書房」のご主人でもある、本居淳一さんに直撃してみることにしました。

#1 はこちら

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―初めから、永森さんは「1階にひらすま書房さんを」と考えていたそうですね。そんなある日、偶然お二人が出会う機会があった、とお伺いしたんですが。

本居:そうなんですよ。実はね、僕の後輩がたまたま永森さんに仕事の依頼をしていたそうで、彼と永森さんが打ち合わせをしていたある日、ちょうど「この元郵便局の跡地をどうしようか…」っていう相談を永森さんからされたみたいなんですね。それを聞いた後輩が、「これは!」ということで僕を紹介してくれた、と。

―それは、急に降ってきた話なんですか?

それがね、まさにミラクルなんですよ。というのも、その話をもらったちょうど3日前に、僕と後輩が「東京蚤の市」というイベントに出店してて、その帰り道に「自分たちの母校みたいな木造校舎残ってないかなぁ…。趣のある場所が地元にあったら、そういう場所でお店持てたらいいよなぁ」なんて話してたばっかりで。
そこから3日後、なんと後輩が「元郵便局であるこの場所でお店持たないか」って話を持ってきたわけです。「え、そんな偶然ある?」って。

―えー! なんですかその偶然。

いやー、本当に。僕と後輩がそんな話してなかったら、後輩が永森さんにお仕事を依頼していなかったら…。いろんな縁と縁がつながってここに辿り着いた、っていう感じですかね。

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でも、この仕事を始めてからすごく“縁”っていうものを感じるようになってきたんですよね。自分も無意識にそこに向かって動いているからだとも思うんですけど、なぜかいいタイミングでいい話がくる。

―いいタイミングでいい話がくる。あれ、でも「ひらすま書房」さんって、お店持ってなかったですよね?

そうなんですよ。実は移動販売を中心に、ひと月に何日かだけ自宅の玄関を本屋にする“隠れ家本屋”。あとは、置き薬みたいにカフェなんかに本を置いてもらう“置きブック”っていうスタイルで営業してました。
ただ、移動販売だと1日しかその場にいないですし、自宅の玄関もスペースが狭くて、お客さんも来づらいでしょ(笑)。だから、もっと広くて気軽に来れるところに実店舗を構えたいなと思って、実はいろいろ物件を探してたところだったんです。

―すごい、本当にまさしくのタイミングだったんですね。しかし、移動販売に隠れ家本屋、置きブックだなんて、あまり地方にはない書店のカタチだと思ったんですが、ずっと書店のお仕事をされてたんですか?

いや…、実は前職は小学校の教員でした。

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―え? まさかの先生? これまたどうして本屋さんに…。

それは、「放浪書房」っていう男に出会ってしまったからですね(笑)。僕、ちょっと休職してたときがあって、人に会わずに本ばっかり読んでた時期があったんですよ。
それで、働き方とか生き方の本をいっぱい読むにつれて、段々と自分で何かやってみたいなって思うようになってて、そのとき本を売りながら旅をしている「放浪書房」が富山にやってきたんですよ。偶然ね。

―また偶然、ですか。

そうそう、偶然(笑)。彼が自分で屋台をつくって、古本屋として出店してる姿を見たときに、“自分らしく自由な生き方をしてる人”に初めて出会ったような気がして、衝撃を受けたんですよね。
その影響もあって、自分で選んだ本を自分らしく売るっていうことをやっていく中で、本を介してなら、人と喋れるようになってきた。だったら、本を売ることを生業にしようと思ったのが、一番のきっかけかな。

―移動販売にしても置きブックにしても、“富山の薬売り”って昔はそういう行商の仕方でしたもんね。実はそういうスタイル、富山では自然な生業のカタチだったのかも。

そうかもしれないですね。それに、これだったらあまりお金をかけずして商いを始められるでしょ。

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さすがは富山の放浪書店。寅さんのごとく、トランクと共にあちこちに出没しているのです。

今って、本当に“働き方”の転換期で、いろんな人がいろんな立場で悩んでいる。自分が教員やってるときは、教員以外の仕事って全くわからなかったけど、この仕事をすることで、本当にいろんな生き方をしてる人がいるんだなってつくづく感じてるんです。
それを、この場所で紹介していけたらなとも思っていて。だから、セレクトしている本も、普段本を読まない人が手に取りたくなったり、他には置いてないような本を置いたり、そうやって“自分で考えるヒント”になることを発信していけたらいいな、と。

―なるほど。 でも実は、場所を持たず身軽に移動し続けていくのが「ひらすま書房」らしさかと思っていたので、こうやってひとつの場所を構えて、しかも人とシェアするなんて、もしかして“清水の舞台から飛び降りる”くらいのことだったりしたのかな、って思ったんですけど。

うーん、正直ね、だいぶ考えました(笑)。やっぱりシェアとなると、あんまりうまくいかないんじゃないかっていうイメージがあって。でもね、やっぱりこの物件がとても魅力的でしょ。そしたら、別の人がここで本屋をやってるなんて考えたら、それは絶対いやだなって思っちゃったんですよね(笑)。やらなくて後悔するより、とりあえずやってみてから考えようって。

―こんな場所、どこを探しても他にはないですもんね。

場があることで、いろんな人たちが集まってくる。以前の自分がいろんな縁によって視野や人脈が広がったように、ここに来る人たちもまた、その人なりの縁で繋がっていける場所になれたらいいなって。そんな化学反応が起きるような伸びしろをつくれたらと思ってるんです。

―然るべく遇うと書いて、偶然と読みますし。

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そうそう。僕だって、正直、最初話がきたときは、まだ永森さんのことも、2階でデッサン教室されてる樋口さんのこともほとんど知らなかったわけです。でも、顔合わせで1回だけ、3人で食事しながら話したときに、「あぁ、この人たちとならばなんとなくやっていけそうだ」って、そう感じたんですよね。

―この人たちとならば、やっていけそうな気がする、と。

それはもうなんというか、感覚としか言いようがないですけどね。
実際、この場所に3人がそれぞれの立場やペースでいるけれど、自分のやりたいことができないっていう状態じゃない。そりゃ、全て自分のやりたいようにやれるっていうわけじゃないですけど、とてもいい距離感。こんな距離感であるという出会いも含めて、すごいことだと思うんですよね。

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店内奥の本に囲まれた一角。この場所が、本居さんの定位置です。

文:喜多舞衣 写真:山田康太

→#3 帰る頃には、違う自分になっている“かも”しれない。
まるで導かれるように出会った、大家の永森さんと古本屋の本居さん。そんな二人が口を揃えていたのは、「いい距離感」という言葉です。果たして、その感覚は3人全員に共通するものなのか!? 最後は、2階でデッサン教室を構える樋口さんに、“LETTER”に流れる空気感や目指す先について伺ってみました。


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。