正置友子(青山台文庫)

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#3 0歳児と絵本から教わったこと

大阪・千里にある青山台団地。その集会所のなかに設けられた青山台文庫は、毎週水曜日に開館しています。開館中にはさまざまな集まりもあり、ちょうど取材に訪れた日は、月に2回の「だっこで絵本の会」が行われていました。0歳児から1歳児、2歳児と、年齢別に集まって行われているそう。0歳児に絵本!? 

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ー青山台文庫での「だっこで絵本の会」、この活動はいつからでしょう。

2001年ですね。イギリスのバーミンガムで1992年から、「ブックスタート」という活動が始まりました。これは、ヨーロッパの移民の問題や、若い人の国語(英語)がちゃんと育ってないということもあって、言葉を育てるためにも、3カ月検診のときに、保健所と図書館がチームを組んで、赤ちゃんに絵本を無料で配るという試みとして始まりました。

ーイギリスのブックスタートがもとになっているんですね。

そうです。日本に入ってきたのが2001年で、多くの自治体などでも導入されています。「NPOブックスタート」のウェブサイトを見ていただければ、全国どこで実施されているかもすぐにわかります。自主的に、独立して活動されている自治体やなんかもありますので、それがすべてではないんですけども。

ー正置さんはイギリスに留学されていたので、さぞお詳しい…。

そう、よく聞かれるんですけど、私が留学していた6年間はビクトリア時代の絵本に夢中でしたから。留学中はまったく関心がなくて、日本に戻ってきてからブックスタートのことを知りました。その後、イギリスを何度か訪ねて、ブックスタートを主宰しているブックトラスト本部を訪ねたりもしました。だけど、日本では「文庫」の活動がそれよりもずいぶん前、ずっと歴史も長く行われていますから。

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*青山台文庫で行われている「だっこで絵本の会」はどのように行われているのか。取材に訪れた2015年10月14日の様子をご紹介します。

-10時、0歳児とお母さんたちが集まってきます。この日は4組でした。文庫のスタッフは正置さん、青山台文庫の現代表・飯田妙子さん、わらべうたの会の山本直美さんの3人です。

-「今月の詩」をみんなで読みます。今月はまど・みちおの「りんご」。103歳まで生きた詩人、まど・みちおについて、正置さんから簡単な紹介もありました。

-輪になって、わらべうたを歌いながら、「〇〇くん、おはよう」と一人ひとりに声をかけていきます。0歳児の子どもたち、とてもうれしそう。

-正置さんが絵本を読んでいきます。配布されたプリントで「今日の絵本」として紹介されていたのは8冊。そのうち、『いないいないばあ』『せんべ せんべ やけた』『かお かお どんなかお』『おべんとう』『ばいばい』が読まれました。

-『ばいばい』の後に、もう一度わらべうたでちょうど30分。「風邪引かないようにして、また2週間したらお会いしましょうね」。

-お母さんと子どもたちが借りてかえる絵本を本棚の前で選んでいると、今度は、1歳児とそのお母さんたちがやって来ます。同じようにして30分の集まりを終えると、今度は2歳児たちの番。3つの集まりそれぞれ、準備されていることは同じですが、子どもたちの反応はさまざまなので、臨機応変に対応していきます。

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詩に合わせた絵は文庫のスタッフが描いたもの

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0歳児たちとの時間

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1歳児たちと。ひとりが絵本を取りに走ると、みんな一斉に駈け出した

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2歳児になると読まれる絵本にツッコミが入ったりも

―0歳児、1歳児、2歳児と1年違うだけで、子どもの様子が全然違ってくるのも面白いですし、だけどどこか共通する子どもたちの反応もあって。とても楽しいですね。

長らく文庫の活動をしてきましたけど、「だっこで絵本の会」を始めることで0歳児、1歳児、2歳児に出会って、はぁっ! 生きることってこういうことか、こんなにすばらしいことなのかというのを、あの子たちから教えてもらいました。2001年に始めたとき、ほんとは0歳児だけのつもりだったんですけど、1年たったら別れられなくてね、最終的に3歳児までやることになりました。

―どの年齢にも走り回ってる子がいましたけど、この青山台文庫のある集会所が広々とした板張りの部屋なので、その気持ちもよくわかります。

ここは、ほんとに開放的でいい場所でしょ。子どもたちもうれしいだろうなと思います。学校じゃないので、座りなさいとは言いたくないので、その難しさはありますけど、きっとそのうち座って聞いてくれるようになると思います。

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ここに来ている子たちを3年間見ていると、きっとこの子は大丈夫だって思えるんです。これからいろんなことがあるかもしれないけど、絶対に生きていってくれるだろうって。そういう希望みたいなものを持てるようになりました。だからいままた、大阪大学大学院の哲学科に通って、人間形成にとって絵本とは何かということを研究して、博士論文を書こうとしているんです。

―0-3歳児との出会いを通して、絵本のさらなる力に気づかれたんですね。

絵本はとっても低く見られているところもありますね。だけど、絵本にはひとつの世界があるんです。絵と、言葉と、物語がある、総合芸術ですよ。しかも、すぐれた絵本のデザインは、表紙から見返しから装丁もぜんぶ、しっかり考えられてますから。すごいですよね。それを1冊、自分のものとして一生大事にできる。絵本というのは、読んでもらった子ども、読んだ親、双方の宝物なんです。

―親にとっても、なんですね。

どんな風に生きていってほしいかだとか、言葉にしてなかなか言えないじゃないですか。だけど、絵本に描かれた絵と言葉と物語を通してなら、なにか伝えることができるかもしれない。美意識や価値観を共有できるかもしれない。

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この日の正置さんのオススメ絵本は、レオ・レオニ『あおくんときいろちゃん』

―ただ、絵本ってものすごくたくさん出版されています。

だから、選ばなければいけないって私はいつも言っています。99%はペケですよ、私にとってはね。いかにも子ども受けのする、若いお母さん受けのする絵本がたくさんある。よく講演会なんかでも新しい本を紹介してくださいと言われますけど、子どもにとって新しいって何なのか。何十年前に出たすぐれた絵本に太刀打ちできるくらい、すぐれた絵本がいま出ていればいいですよ。だけど、それはなかなかありません。

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青山台文庫のある千里青山台団地のようす

―すべてのお母さんお父さんが絵本を読み比べて判断する機会があるわけじゃないので、絵本を選ぶというのも難しいのかもしれません。

幼稚園の先生方でも全然ご存知ないですよ。だけど、それは先生が悪いんじゃない。絵本のことをちゃんと教えられる教育課程になってませんから。なのに、幼稚園の先生だから絵本くらい読めるでしょうということでされるので、100円ショップの絵本で読み聞かせをされてる先生だっていますから。

―それが現実…。

そうですね。青山台文庫の本は、まず大丈夫だと思ってます。公立の図書館になるともうちょっと幅広い選書になるかもしれない。だけど、まあ選ばれています。本屋さんになると、もっと売れ筋のものが平積みになってきますね。

―絵本にかぎらず、本を選ぶって大変なこと。そこに図書館の役割もありそうです。

ですので、ぜひ青山台文庫に来ていただいて(笑)。
本を読むというのは、別に教育的にいいとか頭が良くなるとか、そういうことじゃなくて、本って文化財なんですよ。ものすごい可能性を秘めている。それを読むことの楽しさ。そういう認識をみなさんに持っていただけたらいいなと思います。

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文:竹内厚 写真:平野愛

DATA
青山台文庫●青山台団地C42棟集会所2F/毎週水曜日15:00~17:00/年会費500円/本の貸出は5冊まで/団地住まいの方でなくても利用できます
※「だっこで絵本の会」は年間登録制で4月に募集。他にも、絵本学講座やこども読書会などの会もあり


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。