森麻奈美(『はならぁと』マルカツ担当キュレーター)

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#1 町と空き家と演劇と

丘を越え行こうよ 口笛吹きつーつ!で、到着しました奈良県宇陀市。
戦国時代に栄えた城下町の趣を今に伝える町家の中で、一風変わった演劇プロジェクトを準備している東京娘がいるというので、ささやかな情報だけを頼りに、彼女を訪ねました。

近頃、劇場を飛び出した演劇が脚光を浴びつつあるそうで、その流れを宇陀松山でもというのが、今回の試みらしい。

具体的にはどんなことをするの?と聞けば、江戸末期の町家を丸ごと一軒使い、観客はその中をぐるぐる巡って〈観たり〉〈観られたり〉。俳優はその時々で〈いたり〉〈いなかったり〉。
住人が残した家具や気配、時には亡霊まで(!)を利用した劇体験になるという。
ええー! それって何かの謎かけ? みんなが想像している演劇とはまったく別物かも!?

今年の『奈良・町家の芸術祭 はならぁと』の一環として上演されるという
彼女の試みの真相を探るべく、準備中の現場を訪ねていろいろと聞いちゃいました。


森麻奈美
1987年東京生まれ。多摩美術大学中退、立教大学映像身体学科を昨年卒業。卒業論文は「現代日本社会における観客と作品の関係性」。横浜・黄金町バザール2014での演劇センターF『演劇パビリオン』でのドラマトゥルクをはじめ、町中での演劇や展示式の演劇など、観客と作品の関係性を捉えなおす活動を続けている。

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EVENT DATA

『奈良・町家の芸術祭 はならぁと2015』 
こあ 2015年10月24日(土)~11月3日(祝)
開催エリア:宇陀松山、八木札の辻、今井町
ぷらす 2015年10月10日(土)~10月18日(日)
開催エリア:生駒宝山寺参道、五條新町
http://hanarart.jp/2015/

※森麻奈美さんが担当しているのは『はならぁと こあ』の宇陀松山会場です。
『マレビトの宿る社 at マルカツ』
日時:10月24日(土)~11月3日(祝) 
会場:宇陀松山・マルカツ(近鉄榛原駅からバスで約20分)
参加アーティスト:アムリタ(演劇集団)、渡辺瑞帆(セノグラファー)、武田力(俳優/演出家)
http://hanarart.jp/2015/uda-marebito

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〈観る〉〈観られる〉という体験

―奈良の山あいの町、宇陀。その松山地区には、江戸から昭和初期の町並みが広がっています。その中の1軒「マルカツ」は、江戸末期に建てられ、しばらく空き家になっていた建物。森さんは東京からここへ9月末にやってきて滞在制作、『はならぁと』の準備を進めています。
森さんは、もともと里山暮らしですか?

いえ、全然そんなことはなくて。出身は東京・多摩の田舎の方でしたが、普段は東京で演劇の活動をしています。それとは別に母の実家が長野にありまして、そこは曾祖父母が結婚のお祝いにもらった家なんですけど。

―家をもらうなんてことがあるんだ。

昔はそういうこともあったようです。ただ、今は住む人もなく空き家状態で、たまに親戚の誰かが掃除に帰るという感じ。親族の間でも思い入れが強く、誰も売る気になれなくて。
今思えば、今回のプロジェクト(『はならぁと』…奈良の空き町家を利活用した芸術祭)に関わったのも、無意識に長野の家を気にかけていた部分とリンクしたのかもしれません。いつかは私が住んで、何とかしたいという気持ちもあるので。

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―森さんは「ドラマトゥルク」という聞き慣れない肩書きで活動されています。どういうお仕事ですか?

本来は、演出家のために戯曲を読み解いたり、歴史や文化的背景をリサーチする知識のブレーン役。なんですけど、私が実際に現場で行っていたのは、演出家と俳優のコミュニケーションを円滑にする手助け。両者の間で齟齬が起きているな、と思ったらサポートしていました。

―大変な役割ですね。

なんか、“つないでいく”作業をずっとしていました。
去年関わった横浜の『黄金町バザール2014』では、かつて風俗店街だった町の空スペースを会場に、滞在制作するかたちでアーティストらが作品を発表しました。私がドラマトゥルクとして参加した演劇センターFの『演劇パビリオン』という作品は、空き家の1階に俳優が立つカウンターをつくって、そこを訪れた人とコミュニケーションする中で、お芝居を立ち上げるというもので。

―どんな感覚なんだろう?

お客さんからすれば、普通におしゃべりしているだけなんですけど、いつの間にかそこに劇性が立ち上がってくる…。言葉ではなかなか説明しづらくて。お客さんの中でも、すんなりいく人といかない人がいました。

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―劇性が立ち上がったというのは、何か感じるものですか?

んー、それはわからないですけども。たとえば、そのカウンターの中にいつの間にか地元の子どもたちが入り浸るようになったんですけど、その場を訪れた観客は、当然何かの展示だと思ってその子どもたちを見る。その瞬間、子どもたちとお客さんの間に〈観る〉〈観られる〉の関係が立ち上がる。その関係性こそが、最初の演劇行為、起源だと捉えているんです。

―なるほどー。子どもたちの様子を観て、「自分もこんなことして遊んでたな~」とか、思いを巡らせることも劇体験だと。

もともと、シアターの語源である「テアトロン」とは、「見世物」を表すことば。演劇というのは、何かが起きている主体とそれを受け取る者という関係性から生まれるものなんです。
そんな黄金町バザールでの経験をきっかけに、もっと演劇を生活に根差した、身近なものとして発表したいと思うようになりました。

地域アートの抱える問題

―それでどうして、奈良の芸術祭『はならぁと』に参加することになったんでしょう。

じつは黄金町バザールのときに、自分の中では不完全燃焼な部分があって。
最近、地域でアートという活動が急増していますけど、問題がたくさんあることもわかっています。たとえば、有名なアーティストを呼んで、観光客は喜んだとしても、一方で、地域の人が置き去りにされていく。逆に、地域に貢献しようと地元のアーティストを多く取り上げると、知名度やクオリティの問題が出てくる。いつもこのふたつの問題の板挟み状態。

―『はならぁと』はそこを解決しようとしていた?

『はならぁと』では「こあ」というキュレーターが手がける会場と、地域のアーティストが担当する「ぷらす」という会場を分けることで、多様性を担保しているのを知って気になっていたら、ちょうどキュレーターを公募していたんですね。しかも、今年に限ってアートのジャンルが限定されていなかった。いつもはビジュアルアートが中心なんですけど。

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―だったら、演劇もアリなんじゃないかと。

はい。まあ、どうせ通らないだろうから、プレゼンの練習だと思って応募したら、なぜか通ってしまって。え、ほんとに!? と、驚きました。

―『はならぁと』は奈良各地が会場になっていますけど、そんな中、森さんの担当は宇陀の古い町家に。見えない力に呼ばれているようですね。

そう、めちゃくちゃ呼ばれてるんですよ! ここでやってもらう3組のアーティストや会場にしても、選ぶ段階で「導かれている」と思えることがたくさんあって。これは追い風かもしれないから、私はまだまだほんとに力不足だけれども、その力を借りて良いものが作れたらいいなって思ってます。

移住者にも人気の城下町

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こちらが会場となるマルカツ

―「マルカツ」と呼ばれている町家は江戸末期の建物なんですね。

この建物は、玄関から奥へ向かってどんどん建て増しされた構造で。入口から台所までが江戸。台所の先から庭の手前がたぶん昭和初期で、一番奥の離れが昭和40年代だといわれています。

―すごい、時代のグラデーション!

その時間の差が面白くて。どうしても古い玄関側の建物から床が傷んでくる。この家に入った当初、入口付近の床板はぐわんとUの字にたわんで踏めないほどでした。庭の手前も半分は張り替えています。

―東京から宇陀にやって来て、まずは床を張り替える作業から始めたんですね。

実際の張り替え作業は、地域の田川さんご夫妻が色々と面倒を見てくださいました。奥様は、この家を預かる宇陀市の文化財課の方でもあって。家主からは家を手放したいと相談を受けたそうなんですが、ここが「重要伝統的建造物群保存地区」なので景観を守るためにも残したい。田川さんいわく、今年の『はならぁと』が、この建物を買い取ってもらう人を見つけるラストチャンスかもしれないと。芸術祭を通して、この家を魅力的に感じた方に買い取ってもらいたいという、切実な思いがあるんです。

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―今年、「破城400年」を迎えた宇陀松山城の城下町、実際に移住される方も多いと聞きます。どのあたりが好まれる理由だと感じますか?

まず自然が豊かですよね。こないだ早朝に城跡へ続く山道を登ったんですが、途中でとてもキレイな鹿と遭遇しました。こんなに自然が豊かなところなんだ! と嬉しくなっちゃって。昔から温泉や薬草の名地で知られ、療養の方も多いみたいです。薬草粥とか「吉野葛」の産地としても有名ですよね。

―逆に暮らしてみて、苦労に感じる部分は?

じつは台所の横壁に大きな穴が開いていて、今は大きな板でふさいでいますが隣の空き地が丸見えだったり(笑)。近くには町家を再利用した美味しいカフェや、観光するところもたくさんあるんですけど、どこも閉まるのが早い。マルカツにはお風呂がないので、すぐ先の大宇陀温泉「あきののゆ」に毎日通っているんですけど、そこも20時半最終受付の21時閉館なので、生活面で大変な部分もありますね。

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―家の壁に穴が開いてるのはなかなかサバイバルな印象ですね。

朝晩は冷え込みが厳しいので、お湯が出るマホービンが生命線です(笑)。今回、参加アーティストを選ぶ際も、タフであることを重視しました。参加してくれる「アムリタ」という劇団は昨年、若手の登竜門と言われる『利賀演劇人コンクール』に参加して奨励賞を受賞しています。リフトシアターという夏のスキー場、つまり野っぱらで清水邦夫の『楽屋』という女優4人のドロドロとした芝居をやったんですけど。あいにく雨が降ってきて、だったらいっそ泥の中でやろう! と、さらに水を足して泥の中で女優4人が取っ組み合いの芝居をやってました。タフなのは間違いないです。

[会場となるマルカツ探検]

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森さんと3組のアーティストが入れ替わりで滞在制作中

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この日、アムリタのメンバーが1人、新たに到着

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マルカツの内部を案内中。奥へ奥へと広い

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かつてはお茶屋だったらしい

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制作期間中は、2階が女性の宿泊部屋に

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家に残されたままの古道具もそのまま活用

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中庭からの眺め

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ウワサの「生命線」

文:石橋法子 写真:平野愛 編集:竹内厚

空き家と演劇の可能性は、聞けば聞くほど広がるばかり。次回、宇陀松山のささやかな案内もあります。


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。