家をせおって歩く
村上慧さんは何を考えているのか。

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2016年3月、児童書といえばの福音館書店から『家をせおって歩く』という写真絵本が発売された。発泡スチロールでつくった家を背負って(というか、かぶるようにして)、全国の街を歩いている村上さんによる初めての著作だ。

ひょこひょこと家が道路を歩いて行く姿はかなりのインパクト。だが、それにもまして、その移動を“引っ越し”と呼び、各地で家を置くために“土地を借りる”と表現されていることも気になった。決して、ただ家のような格好で旅をしているのではなく、ほんとにちゃんと家なのだ。

現在、自宅があるという長野県松本市に村上さんを訪ねた。


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村上慧
1988年生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。アーティストとして各地のグループ展や芸術祭に参加している。
http://satoshimurakami.net/

※トップの写真は片山さん撮影、上の写真は北嶋さん撮影。
その他、家の写真は村上さんから提供いただきました

 

#1 家とは船である!?

―村上さん、今、あの家はどこに?

村上:ちょっと熊本に置いてるんです。熊本のマンションに住んでる友人がいて、その家の中に入れさせてもらっています。家に家がある変な風景なので楽しいって言ってました。

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―いつも家を持ち歩いてるわけではないんですね。

村上:2014年の4月からはじめたことですけど、その年は182カ所移動させました。2日に1回くらいの感覚ですよね。もう家につきっきりで、ずっと力が入ってたなと思って。夢中で反復横跳びをやり続けているような状態。だから2年目は、もうちょっと力を抜いて、というか自然に力が抜けてきました。2年目の引っ越しは60数回で、3年目の今年にいたっては、香川県の小豆島から熊本まで移動させて、あとは少しずつ動かしながら、松本や東京とその家を往復する状態です。家といっしょにいない時期が増えています。

―自宅とは別にもうひとつの家がどこかにある。なかなか不思議な状況じゃないですか。

村上:そうですね。でも、家を動かしている時間はやっぱりすごく大事なんですよ。ひとりでいろんなことを考える時間だったり、知らない街へ行くことも心にいいと思っていて。家が2つあるようなものですけど、今の社会で当たり前にある家とはレベルがちょっと違っていて、船とか乗り物に近い感じかな。

―2拠点生活というよりは、移動させている家は船という感覚なんですね。ちょっとわかる気がします。

村上:陸の船ですね。実際に、僕が背負ってる家を見た子どもは、「乗りたい!」って言ってくるんですよ。背負うとかなり重いんだけど、でも、その「乗る」という感じもよくわかるんです。

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―いかにも家という見た目であると同時に、細部までちゃんと作りこまれているところも村上さんの家の特徴です。

村上:2011年4月に、東京で同じようなことをやったことがあって、そのときに浅草橋の道路に家を置いて、ちょっと銭湯へ行って戻ってきたら、警察官が僕の家を取り囲んでたんです。不審物だっていうので何度も通報されたみたいで。警察には「今すぐ解体しなさい」と言われて、でも、「友だちの家が近所にあるからそこまで運びます」ってその場は収めたんですけど、そのときに、家を置くためには土地を借りるということをしないといけないって気づきました。日本はどこまで歩いていっても、基本的にすべての土地が誰かの持ち物じゃないですか。

―好き勝手に家を置ける場所はなかなかないでしょうね。

村上:だから、土地を借りるためにも、誰の目から見ても家だというものにしなきゃいけなくて、しかも、簡易的なものではなくて、瓦があって切妻屋根で…って細かく作りこむことで、人の信用を勝ち取れるんじゃないかなと。「ちょっと家、持ってきちゃったんですよ」と言ったときに、「よくわからんけど、技術あるな」ってなればいい。感覚としては、家に化けるような感じかな。

―テントを持っての野宿旅とは、まったく違っていると。

村上:そうですね。だからこそのやり取りも面白いと思っていて。少しの期間、土地を貸してほしいといった話になるけど、そんな制度は整ってませんから。お寺だから固定資産税がかかってなくて、それを借地にしちゃうと固定資産税がかかってしまうので貸せませんと言われたり。

―ちゃんとした理由で拒絶(笑)。

村上:ひと晩でも貸せないと。まあ、貸したくないってことなんですけどね(笑)。

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山口県岩国市のお寺の境内に土地を借りた。

フェリーに乗って移動したときも、この家が乗り物なのか、手荷物か、預けるものか、制度上は当然決まっていないんです。だから、船長とも話しあったりしながら、これまで3回フェリーに乗った中では、2回は手荷物、1回はお金を払って貨物扱いということになりました。制度にもマニュアルにもないことなので、いろんなことを対面のコミュニケーションで決めていくしかない。

―まさか誰も家が歩いてくるとは思ってない。

村上:そうそう。だから、家をつくって歩きはじめた時点で、いろんなことをやる羽目になっているんです。

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奈良県大和郡山市ではマンションの玄関前に。

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福島県いわき市では津波の被害を受けて解体された家の敷地に。

―家のディテールの話を続けますが、シンプルな家に見えてちゃんと神棚がありますよね。

村上:なんだろう…神さまみたいなものを家に置いておくというのは、とても大事なことだという直感があって。背負って歩くんだから、重量にはとてもシビアですけど、ただ合理的に荷物を減らしていくのも違うなと思うんです。だから、広島でもらったアサラトという楽器も家といっしょに持ち歩いていて、そういった「ちょっといいよね」というものも置いておきたい。

―そのあたりの感覚も家っぽいです。構造は合理的でも、家の中って理屈で割り切れないものだらけですから。

村上:もらったものだからというのもありますね。神棚は「家なんだからお守りがいるだろう」って、人にもらったものなんですよ。長野の戸隠神社の神さまと岩手の山田町の八幡さまがいますけど、今のところは悪い感じじゃないですね。

―なるほど。

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松本といえばの名喫茶「珈琲まるも」で話を聞きました。

村上:家を背負って歩くことで身をもってわかったことはたくさんあって、たとえば、庇(ひさし)の力。ちょっと庇を深くすることでも、窓から雨が入ってこなくなりました。いまの家って、垂直にたちあがる壁と窓によって外と中を分けていますけど、庇を深く出すことで、外との間にもうひとつ、緩衝する余白の空間が生まれるんですね。

―普段の生活では庇のことをそこまで気にしない。ちょっとした装飾くらいに思っている人も多いかも。

村上:僕もちょっとナメてましたね。

文:竹内厚 写真:モモセヒロコ(村上さんポートレイト)

→#2 家とは屋根と壁である!?


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