家をせおって歩く
村上慧さんは何を考えているのか。

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#3 家を自分の手に取り戻すこと

―村上さんは家を背負って歩くことを通して、周りに何かを伝えたいということも考えていますか。

村上:メッセージとしてという言い方はあまり好きじゃないけど、自分のやっていることをちゃんと伝えたり編集して見せたほうがいいんだろうなと、最近になってかなり考えるようになりました。本や展覧会にすることもそうだし、少しずつネットで日記も公開しはじめていて。昔の自分からすると、かなり恥ずかしいと思ってたことなんですけど。

―「土地を貸してください」って家を背負って歩いていけば、相当いろんな出来事にも遭遇すると思うのですが、『家をせおって歩く』の絵本ではあまりそこのことは書かれてませんでした。

村上:意識的ではないけど、あまりその話は出せてませんね。ものすごく苦労して移動を続けてることからも伝わることはあると思いつつ、そこは、いずれ日記を本にすることで伝えられたら。京都では全然敷地を貸してもらえなかったり、大阪では子どもに石を投げられたり…土地ごとにいろいろあるんですよ。総合的に伝わればいいので、アウトプットの方法はあまり選ぶ必要ないなって。ただ、頭だけで飛びすぎないようにはしたいですね。自分の体を動かしながら、血を通わせたものにしないと。

―「間取り図」と呼んで、家を置いた場所と銭湯やトイレが借りられる場所を記した、街の地図も描かれていますね。

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村上:1年目は必死に家を引っ越しさせていましたけど、2年目以降は、ひとつの土地に2週間くらい滞在したりして、街を歩きまわっています。自分の感じた感覚を人に伝えるやり方として、日記のほかにも地図という方法があると思うんです。まだ測量法が生まれてない頃の古い地図を博物館で見るのもすごく好きで。好きというか憧れかな。今はなんでも数値化されて、それが現実だということになっている。自分の感覚を信じられなくなってますよね。

―そういえば村上さんの描いた日本地図、いわゆる日本列島の形ではまったくありませんでした。

村上:自分の眼で見た土地を、感覚だけで描きましたから。最近読んだ本の中に、歌と発語が分かれていなかった時代のことが書いてあって、必ず声に出さないと文字が読めなくて、本を読むというのは言葉を聞くことだったと。つまり、本を開いたら、声が聞こえてきたそうなんですね。それってすごいイマジネーションだし、そう思うと、今はちょっと頭が固まりすぎてるんじゃないかとも思います。

―どこまで自分が本当にわかっていることなのか、あやふやなものが多いかもしれません。特に、家のことはその代表的なものですね。村上さんは、家の外観をスケッチされたりもしています。

村上:リサーチも兼ねているんですけど、学生の頃から、近所のなんでもない家を片っ端からドローイングしていました。何かがそこにありそうだなと思って、なかば無意識にやり続けていることですね。手前にある電信柱や隣りあう家などはすべて排除して、1軒の家だけを描くようにしています。

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―いろんな家のフォルムが気になっているんでしょうか。

村上:フォルムのことではないと思います。そこにも何かがあるとしか言いようがないんですけど…。今年、スウェーデンで滞在制作をしたとき、ひとつすごいなと思ったことがあって。週末になると、夫婦やみんなで家のペンキ塗りをしているんです。向こうでは、だいたい家のまわりに庭があるから、家の四方がすべて見えていて、その1面ずつをたとえば2年ごとに自分たちの手で塗り重ねていく感じで。「洗車と同じ感覚だよ」って向こうの人は言ってたけど。

―日本の都市部は密集しすぎていて、四方の壁が見えている家も少ないし、ましてや自分でペンキを塗り直す人も少なそうです。

村上:イスやテーブルとかの延長という感じで、家が自分のものという認識を持っていると感じました。日本は、いつまでも自分の家じゃない感じがする。自分の手を離れたシステムに委ねてる状態ですよね。

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―借家、持ち家関係なく、そういう状態ですね。家をもっと自分のものにしていかないと。

村上:「借り暮らし」ということでいえば、僕自身は賃貸で生きていけばいいと思ってますけど、一方で、不動産の強さも思うんです。不動産を持っていれば、人からいろいろ言われずに発信することもできる。だから、機会があるなら不動産を持ってみたいとも思います。

―住まいというよりはメディアとしての強さ。不動産をその観点で捉え直すことは面白いですね。

村上:あと、「借り暮らし」って移動みたいなモチーフと結びつきやすいと思うんですけど、移動することと気持ちがふわふわとしてるかどうかは無関係ですから。ふわふわとアイデアだけを残して去っていくような人たちがいますけど、ちゃんと土地に対する責任をとる態度がなければいけないとは思います。移動することと根づくことを両立させるというのかな。

―「借り暮らし」という語感で無責任を代弁するなと。

村上:妻の実家が農家をやっていて、まさに土地とともに生きていく職業ですよね。たとえばの話ですけど、僕がやっているような活動と農業をどうすれば同時にやっていけるかを考えるのは、ひとつのヒントがあるかなと思います。共同体として生きていく感覚さえ持っていれば、やっぱり移動してるかどうかってあまり関係ないと思いますね。

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文:竹内厚 写真:モモセヒロコ(村上さんポートレイト)


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。