西尾孔志(映画監督)

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OURS.サイトの動画記事「カリグラシTV」で、これまで4本の作品を撮影いただいた西尾監督。劇場映画第3作目となる『函館珈琲』がついに公開されます。

北海道・函館の「イルミナシオン映画祭」をきっかけに生まれた『函館珈琲』は、巷にあふれる観光映画とは一線を画して、古い洋館アパートに集った若者たちの出会いと葛藤を描いた、王道のヒューマンドラマとして完成されました。

しかも、映画の主な舞台となる洋館アパート「翡翠館」は、共同アトリエ&住居という設定で、「カリグラシTV」を彷彿させるところも。
映画のこと、カリグラシのこと、そしてこれからの作品について、西尾監督に話を聞きました。


西尾孔志
1974年大阪生まれ。10代より京都の撮影所で録音見習いとして現場を体験。2005年、「シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビション(CO2)」 で第1回大阪市長賞(グランプリ)受賞。2013年、『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年の『キッチンドライブ』に続く、劇場映画第3作『函館珈琲』が2016年秋公開。OURS.ではサイト立ち上げ時から、カリグラシTVを担当。

函館珈琲
「函館イルミナシオン映画祭」によるシナリオ大賞映画化プロジェクト第1弾作品。函館の西洋風アパートで暮らす小説家、装飾ガラス職人、ピンホール写真家、テディベア作家、それぞれの人生が交錯する。
監督:西尾孔志 脚本:いとう菜のは
出演:黄川田将也 片岡礼子 Azumi 中島トニー あがた森魚 夏樹陽子
公開は、シネ・リーブル梅田10/29~
その他の公開情報は→http://hakodatecoffee.com/

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© HAKODATEproject2016

 

#1 職業監督としての欲望

―『函館珈琲』というタイトルを聞いたときは、もっとザ・函館映画なのかと思いきや…。

西尾:映画製作の発起人となっている「イルミナシオン映画祭」の意向もあるんです。映画祭を開くごとに、集まった監督やスタッフと夜通し飲みながらずっと映画の議論をしているような人たちなので、当たり障りのない描写とストーリーで、観光地ばかりが出てくるような映画にだけはしないでおこうと。

―『函館珈琲』だけでなく、函館で撮影された映画が続々公開されています。佐藤泰志原作の函館3部作(山下敦弘監督『オーバー・フェンス』が現在公開中)だとか。

西尾:『世界から猫が消えたなら』もそう。けど、映画の中の函館ってわりと暗いイメージで描かれることが多いけど、実際はそんなに鬱々としてないから。僕の印象では、北海道の中ではわりと関西に近いというか、ラテン気質かなと思う。飲んでて話がまとまるようなところもあるし、したたかで陽気。だって港町やで。ようわからんけど「よう!」ってやって来る変なおっちゃんとかいっぱいおるよ。

―今回の映画で喫茶店のマスター役を務めた、あがた森魚さんのような。

西尾:そうそう。だから、大阪人としてこの街なら映画を撮れるという気持ちもありました。

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お酒を飲みつつ港へ、の場面。『函館珈琲』より。© HAKODATEproject2016

西尾:ただ、すごく不安やったのが、『ソウル・フラワー・トレイン』だったら、笑いあり涙ありで反応がわかりやすいけど、今回の作品はそういうものでもない。変な表現やけど、まずは“しっかりした普通の映画”を目指して、その上で自分のやりたいことも盛りこもうとしたので…なかなか大変でした。

―『函館珈琲』は、脚本が先にあったんですよね。

西尾:そうです。シナリオ大賞を獲った脚本が先にあって、あらかじめ決まったキャストで撮るという、ほとんど初めて職業監督として撮った作品です。けど、それはすごくやってみたいことだったので。僕が仲のいい監督には、宮本杜郎監督(『太秦ヤコペッティ』)、濱口竜介監督(『ハッピーアワー』)、三宅唱監督(『Playback』)とか、作家性の強い監督が多いけど、自分はそのタイプじゃないと思ってるんです。逆に彼らがやらないような、藤山寛美みたいな世界を僕がごそっと自分のものにしたい(笑)。

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『函館珈琲』の主人公は洋館のひと部屋に古本屋を開業。写真に写る「丸椅子」も劇中では重要な役を果たす。© HAKODATEproject2016

―意外とそんな欲望があるんだ。西尾監督といえばインディーズ映画の人だと思ってる人もいそうです。

西尾:それは、「CO2」というインディーズ映画祭でディレクターをやってたから。だから自主映画もたくさん見てるし、すごく好きなんやけど、ただ、自分の原点として、撮影所で働いてきたという経験もあるので、やっぱり撮りたいのは誰もが見られる娯楽映画。大型時代劇とかチャンスがあったら撮ってみたいわ。

―『ソウル・フラワー・トレイン』の時には、“娯楽映画の王道”を目指したと言ってましたね。

西尾:社会の暗部を描くとか、人の心を抉るみたいな映画が苦手やねん。生臭すぎてエグみのあるのは、ちょっと自分では撮れません。

―ますますメジャー監督っぽい資質じゃないですか。

西尾:それをもっと言っといて(笑)。

―意外とね(笑)。

西尾:僕は昔、大阪が嫌いやったんやけど、大阪ってなんかブルース文化があるでしょ。黒人ブルースじゃなくて歌謡ブルースね。「悲しい色やねん」とか「やっぱ好きやねん」とか、男が女の人の肩をがさっと抱くような。そこに対する反発がむちゃくちゃあった時期があるんです。

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―それって大阪特有のこと? 「やっぱ好きやねん」な人は多いかもしれませんが。

西尾:うちの実家がスナックやから、余計にそういうのを見る機会が多くて。

―なるほど、そうか。

西尾:けど、僕らの学生時代の大阪にはミニシアター系の劇場がたくさんできて、そこに僕は中学校の頃から通ってたから。自分をいちばん育ててくれたのは、その頃に見たヨーロッパ映画なんです。

―たしかに、大阪、やしきたかじん、スナックとは真逆の世界かも。

西尾:もちろん、自分の原体験はジャッキー・チェンやスピルバーグやけど、わりと好きな映画は、フランス映画とかが多い。

―ヨーロッパ映画に惹かれて、卒業後は京都の撮影所へ。まっすぐ映画人生ですね。

西尾:そうやってメジャー映画を見ながら、マイナーなものもめっちゃ好きやからね。けど、そこが東京に出ないで、大阪にいる意味かもしれない。純粋培養で一直線にいくんじゃなくて、あれもこれもやって、いろんなジャンルの人とつながりがあったりするのが、大阪のよさだと思ってるから。OURS.の「カリグラシTV」でも、東京の監督ならもっとストレートに生活してる姿を撮って、ドライに編集すると思うけど、出てくれる人が嫌がるかもしれへんような遊びや演出をわざわざ入れて、面白がってるというのは、やっぱり大阪やからできること。

―仕事と割りきらない、その塩梅ですよね。「カリグラシTV」といえば…

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アトリエを共有する面々が珈琲を片手に……これもシェアスペースあるある!? 『函館珈琲』より© HAKODATEproject2016

文:竹内厚 写真:倉科直弘


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。