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「途中でやめる」の山下陽光さんを訪ねた際、最近、福岡に移ってきた面白い人がいると聞いて、その足ですぐに向かったのが「ノックの帽子屋」。

各地を移動しながら帽子を販売している「ノックの帽子屋」の名前、みなさんも見かけたことがあるかもしれませんが、そのノックさんが福岡を新たな住まいに定めたというのです。

山下さんから教わった住所は、住宅街のど真ん中。果たして「ノックの帽子屋」とは…。


教わった住所は福岡市中央区六本松1-7-32。
たどり着いた「ノックの帽子屋」は、一軒家のガレージを改装したお店だった。

―「はじめまして!」とノックさんに突撃取材。そもそもどうして福岡に住まいを定めたんでしょうか。

ノック:なんでかな。前は東京の墨田区に住んでいて、実家も千葉なので。ずっと関東圏だから、何かしら理由をつけないと東京を出る機会がないんです。東京ではまたいつでもできますし。

―これまでに帽子を売り歩いて縁のあった土地から引っ越す先を探した感じですか。

ノック:そうですね。大阪とかも考えましたよ。国際線がある方が便利かなとは思ってたので。福岡のここは、知り合いの夫婦が住んでた家で、出るきっかけで紹介してもらったんです。

―海外での販売機会も多いのですか。

ノック:ちゃんと売ってるわけじゃないけど、旅行がてら韓国へ行って、知り合いの喫茶店で売ったりとか。こないだは台湾でも。ちょっと売って、観光してという感じです。

―福岡にはいつから。

ノック:今年の6月から。約1カ月かけてここを改装しました。大家さんが少し補助してくれたから、ちゃんとしないといけないなって。
でも、福岡に来てからも、7月はちょっと店を開けて、8月はイランへ行ってたので、店としてはまだあまり開けられてないんです。来週からも大阪、岡山、京都、東京へ行くので。

―結局、どこに店があってもいないことが多い。

ノック:拠点、作業場を福岡にした感じです。年の半分くらいはどこか行ってますので。

そんな移動しきりのノックさんがこちら。名前の由来はもちろん? 横山ノックから。

―店を構えるというよりも、作業場がどこかに必要という感覚なんですね。

ノック:以前は一式すべて持ち歩いてたんですけどね。だんだん木型も増えて、80キロくらいになってきたので。40キロは行く先に送って、40キロは抱えて歩いてたんですよ。ミシンも持ち歩いてたから。

―それは大変、というか無茶ですね。車移動でもなく?

ノック:車ってしんどくないですか? 移動手段はバスとか電車、飛行機…人に委ねたほうがいいなって思ってます。

―ところで、帽子って木型でつくるんですね。

ノック:いろいろなやり方がありますけど、僕は木型がいいなと思って。木型はお願いしてつくってもらうものと、古いのを直したりして使ってるのとあります。古いのは1900年代はじめ頃、ドイツやアメリカの木型もありますね。
帽子屋らしいかなと思って、木型はつい買ってしまうんです。だから、木型を買ったはいいけど、小さすぎて今の人の頭には入らなくて、帽子としてはひとつも売れてないのもありますから。

棚には使いこまれた木型がずらり。
異国で何十年も前につくられた木型がここノックさんの手もとに引き継がれているかと思うと、帽子屋という職業にがぜん興味が湧いてきた。

ノックさんの仕事は帽子のデザインやパターンなど、形をつくりだすこと。編んだりするのはまた別の職人に依頼する。
一度つくった帽子の素材や色目を希望にあわせて変えたり、オーダーにも応じている。

―やっぱり店で販売しているより、行商的に移動しながら売る方がいいんですか。

ノック:僕はずっと店にいるって経験の方をしたことがないので、うーん、どうなんでしょう。今のところは、それでうまくいってます。
前の東京の店も結局、作業している時間は開けられなかったり、場所も辺鄙なところだったので、だったら自分のタイミングで、こっちから行くほうがいいかな。
あとは、店を毎日開けるのって疲れるじゃないですか。

―それはきっと店をやっている方の共通の悩みですよね。そこを行商スタイルを足すことでクリアした。

ノック:クリアかどうかはわかりませんけど、まあ、移動も旅行も好きだし、知り合いの店を転々とするのもいいかなって。自営業ですし。

―好きにやらせてくれよと。

ノック:最初は山梨、京都、大阪、岡山の4都市でやってましたけど、だんだんやらせてもらう場所が増えてきて、今は20カ所くらいかな。一度にばっと回って、売りながら受注もとって、帰ってきてつくって、また出て、の繰り返し。

―通販や卸し売りではダメなんですか。

ノック:一時期、通販もやってみましたけど、返品を受け付けてしまうので向いてないなと思って、やめました。卸しも特にしてないです。
別にこだわりはないんだけど、今のところはそれでやってます。

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文:竹内厚 写真:平山賢


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