大川輝(POS建築観察設計研究所)
と大阪・此花の今

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あなたがアーティストで大阪市内にアトリエ兼自宅を構えたいと考えているなら、此花区、とりわけ今も下町風情が残る梅香・四貫島は、魅力的な選択肢かもしれません。このエリアには2008年頃から美術作家や音楽家、衣装デザイナー、ダンサー、写真家、料理人など主に20~30代のアーティストが拠点を持ち始め、今では自由で風通しのいいコミュニティを作っています。さらにその状況が高齢化と空き家化が深刻だった町の空気を少しずつ変えはじめています。

そんな此花の町の一角にある元タバコ屋、今は小ざっぱりとしたカフェになっている建物の2階にPOS建築観察設計研究所を構える大川輝さん。彼はこの町の新しい立役者のひとりであり、アーティストたちの頼れるお兄さん的存在。実際、大川さんを通じてこの町に移り住んできたアーティストもたくさんいるとのこと。少し謎に満ちたさまざまな活動と、変わりつつある此花の今について聞きました。


大川輝
1977年生まれ、大阪府守口市出身。大学で建築・都市計画を学び、コンサル、工務店を経て2009年にPOS建築観察設計研究所を設立。大阪市此花区を拠点に、住宅・店舗の改装など工務店業の傍ら、地域と若者の暮らしを結びつけるさまざまな活動を行っている。

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#1 仕事と割り切れない町のことをいろいろ

―まず最初にお伺いしたいのですが、大川さんが代表を務めるPOS建築観察設計研究所っていうのは何屋さんなんですか。いわゆるまちづくりコンサル?

大川:いきなりど真ん中な質問ですね(笑)。2009年に事務所を立ち上げた時には確かにそういうイメージで名前をつけたんですが、今は住宅や店舗の改装を受けることが多いので、そういう意味では町の工務店です。ただそれ以外にもいろいろやっていて、特に此花に関しては僕自身が町の中に入り込んでいて、単に仕事と割り切れないような部分でも動いてたりします。だから一言ではちょっと説明できないですね。

―「仕事と割り切れないような部分」とは?

大川:簡単に言えば、お金にならない町のことをいろいろやってます。例えば物件紹介。此花を拠点に活動したいと考えているアーティストや、これから此花で何かを始めてみたいという若い人に、比較的安くて自由が効く物件を紹介しています。と言っても僕は不動産屋ではないので、不動産屋が扱わないような物件を見つけてきて、貸す人と借りる人との間に調整役として入る感じです。

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―不動産屋が扱わない物件とは具体的にはどういう物件なんですか。

大川:いろいろありますけど、一番多いのはイニシャルコストの問題で賃貸にでないまま放置されている物件です。一般的に物件を誰かに貸す場合、大家さんはそれなりにきちんと使えるよう補修しなければいけない義務があります。ただそのためのお金がない場合は、そのまま放置されることが多い。そういう物件を見つけてきて、現状のままでいいし、雨漏りもこっちで治すから代わりに安く貸してもらえませんかと調整をしていくわけです。あとはやたらベランダだけが広いとか、そもそも間取り的に借り手がつかなさそうな物件を、作品制作のために少し広い作業スペースのある家に住みたいというアーティストに紹介する場合もありますね。

―この辺りにはそういった物件が結構残ってる。

大川:そうですね。此花はいわゆる臨海工業地帯として発展した地域で、梅香・四貫島はそこで働く労働者の住宅地もしくは繁華街として栄えてきました。でも80年代以降は工場が衰退してしまって、人の流出も多く、空き家も増えてます。
でも見方を変えれば、地元の人で賑わう商店街や常連客の集まる居酒屋、夜遅くまで営業している銭湯などが残っていて、実は住んでみるとけっこう暮らしやすい町です。昔ながらのご近所さんづきあいも残っているし、物価も比較的安い。なにより梅田や難波といった大阪中心部へのアクセスもいい。いわゆるスマートでオシャレな町暮らしとは違うけど、自分で部屋を改修して面白く使いたいとか、お金はないけど自分の場所を持って何かを始めてみたいという人には悪く無い選択だし、そういう人が入ってくることで町全体が少しずつ元気になっていけばと思ってます。

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POSが事務所を構えるモトタバコヤ、その1階は曜日によってカレー屋になったり喫茶店になったり。

―物件紹介以外にはどんなことをされてるんですか?

大川:町のイベントを企画したりすることが多いです。大きいところでは「見っけ!このはな」という年に1度のお祭があって、アーティストのアトリエやギャラリー、カフェ、オルタナティブスペースを拠点に、新しく来た人たちの活動を町の人たちにお披露目するということをやっています。2008年から続いていて、最近では此花以外からも興味を持って来てくれる人も増えました。
それ以外にも地域のお餅つきや盆踊りのお世話をしたりしていますね。ただそれも普通にただやるんじゃなくって、ちょっとした隙間を見つけては、実は近所に住んでるミュージシャンに、即興音楽や民族音楽などの普通の人はあまり馴染みのない音楽をやってもらったりしています。
そうやってちょっとずつ昔からの住民と新しい住民を混ぜていくことで、お互いの距離も縮まるし、そこからまた面白い動きが生まれるかもしれませんから。

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取材・文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:平野愛


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