大川輝(POS建築観察設計研究所)
と大阪・此花の今

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此花での大川さんが手がけている町の動きはほんとうにさまざま。
でもOURS.的に聞きたいのはやっぱり「貸し借り」について。そこで飛び出してきたのは、あまり馴染みのない「借地権」の話でした。

 

#3 「ネオ借地権」という土地の活用法

―ここ数年、アートで町を活性化させようという動きは全国で起こっていますが、此花はそれらとは少し違いますよね。ビエンナーレみたいな大きなイベントがあるわけじゃないし、全体として何かプロジェクトが動いているわけでもない。

大川:そうですね。別にアーティストにとって特別な発表の場や機会があるわけではないです。むしろそれぞれの理由で、それも一時的な足がかりじゃなくそれなりに長い目で、この町を拠点にしようと思った人たちが集まってる感じです。
こういう状況は、実は「アーツファーム構想」の頃からビジョンとしてはありました。と言うのも、そもそも空き家が増えてきたからなんとかしようと言い始めたのは、この辺りの土地を持っている土地会社なんです。土地会社は土地の賃料が主な収入なので、借地権を持っている大家さんに安定して建物を運用してほしいわけです。となると、やっぱり短期じゃなくてそれなりに長期で住んでくれる人の方が嬉しい。

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―つまりアートで町を盛り上げようということよりも、まずは住む人が増えて欲しいと。

大川:もちろんアートがきっかけで町が盛り上がって結果的に土地の価値が上がればという期待もあるとは思いますけど、それには時間かかりますからね。いずれにせよ土地会社には好意的に理解もしてもらってるし、実際いろんなかたちで協力してもらっています。
ちなみに借地権の話で言うと、最近結婚して子どもができたのをきっかけに、借地権を買って新居を構えたアーティストもいますよ。

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借地権を買って新居を構えたアーティストのミズタマさん一家。改装工事は大川さんが担当。

―へー! 変な言い方ですけどアーティストなのにきちんと人生設計してますね。借地権を買うメリットは?

大川:家の賃料より土地の賃料の方が圧倒的に安いです。あと、ちょっと一般的なケースじゃないですが、空き家を持ち続けている大家さんの中にはタダでもいいから借地権を手放したいという人もいます。持っているだけで賃料はかかるし、地主に返還するにも更地にするのが原則。だったら建物ごと誰かもらってくださいと。その場合は地主に数十万の名義変更料を払うだけです。

―なんだか裏ワザ感すごい!

大川:でしょ(笑)。ちなみに僕らのあいだではこういうのを「ネオ借地権」と呼んでいて、お金はないけどこれから何かを始める若い人にとって、まだいろんな活用の余地があると思ってます。ちなみに最近、僕も借地権を買って、自分で手を入れました。今はパン屋を始めたいという20代後半の人に貸してます。

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―大家さんになったんですね。

大川:そういうことですね。気分的にはようやくこの町の人になったなぁという実感が湧きました。
いろいろやってますけど、僕の興味のあることを此花の町を借りていろいろ試させてもらっているという感じです。僕にとっての此花は、最初は大して縁もない町だったけど、いろんなことを始める上でいい場所になったし、それ以上に今は自分の町だと思えるようになりました。だから若いアーティストたちにとっても、この町が何かを始めるいい出発地点であり拠点になればと思っていて、僕はそのためのお手伝いをこれからもいろんなかたちでしていきたいですね。そして、そんなふうに志を持ってがんばっている若い人が増えたら、たぶん町もすこしずつ活気づいていくんじゃないかと考えています。

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取材・文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:平野愛


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