大倉曉(白川村地域おこし協力隊)

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#1 世界遺産の合掌造りに住んでみた、その理由

借り暮らしのヒントやその魅力を求め、さまざまな人たちへインタビューを続けている企画「ボロワーズ」。

今回は、関西をびゅんと飛び出し、“日本のへそ”なる場所・岐阜県へ。向かったのは、世界遺産登録地区としても名高い、白川郷です。そこで、地域おこし協力隊として自由自在に!? 縦横無尽に!? 都会と田舎を行き来しながら活動しているのが、大倉曉さん。

“普通ならありえない”と言われる、合掌造りの一軒家にて、悠々自適に借り暮らし中。世界遺産と現代の若者の融合が随所に生きた暮らしは、なんとも興味深いものばかり。

大倉さんの借り暮らしの模様、そして愉快な仲間たちとの活動をお伝えします。

なお、白川郷では今週末、
村全体を舞台にした『CINEMA CARAVAN in 白川郷』が開催されます。
そちらもぜひー!
→ http://shirakawa-go.org/kankou_info/8878/


大倉曉
1981年生まれ。2014年4月より岐阜県の白川村地域おこし協力隊に着任。観光マーケティングプランナーとして都会と村をつなぐべく、全国を東奔西走中。半月間は、東京や名古屋など都会圏で過ごし、半月間は白川村にて過ごす、多拠点生活スタイル。また日本山岳ガイド協会認定・自然ガイドとしての一面もあり。

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―地域おこし協力隊として、白川郷、合掌造りっていう世界遺産に住んでいる。間借りとはいえ、“ここに自分んちがあるんだよね”って言える感覚、やっぱりすごいですよね。

大倉:うん、たしかに(笑)。いま、集落人口が1,700人ぐらいなんですけど、そのうち60棟弱の合掌造りに人が住んでるのかな。屋根とか茅(かや)、柱も全部、まわりの里山から採ってきた天然資源だし、三角屋根のことを「切妻造(きりつまづくり)」っていうんですけど、これは全国的にみても、白川郷と五箇山にしかないんですよ。

―まさに“日本のよき原風景”という感じがします。

ぱっと見ると、奥ゆかしい風景だなって思うでしょ? でもね、実はすごく合理的に造られているんです。朝日から夕陽まで使って屋根を乾かし、永くもたせるために、そして横を流れる荘川に沿って、吹く風の抵抗を受けないように、屋根が全部同じ方向を向いているんです。

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―のどかさの裏には、建築的にも地理的にも、合理的な一面がある。

屋根になっている合掌材も、、先端が固定されてなくて、いわば鉛筆の先に乗っかってるようなピン構造とかね。風とか雪に煽られても大丈夫なように、受け止めて吹き流せるようにしてある。だから、風が吹くと家が結構揺れたりしますし、大きいクレーンがあれば、屋根ごとポコって外れるくらいの柔軟な構造になっている。もうね、トリビアだらけですよ。

―遺産級の建物の話となると、それこそ小学生の頃に行った博物館とか歴史の教科書じゃないですけど、「こういう暮らしをしていました」っていう印象が強くて。だけど、実際に生活していらっしゃる方々がいるんですもんね。

先人たちの知恵や技術を、村民みんなで伝承して助け合って暮らす。互いの家の屋根を葺き替えて、互いの手を貸し借りするというか。屋根はほとんど釘が使われていないし、接続するのも木の枝や縄を使って結んでますから、そうやって住みながら暮らしていく文化含めて、トータルで“世界遺産”なんですよね。

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―なるほど! 木の枝を使って結ぶってすごいですね。わりと新しいように見えますが。

この家屋の屋根はおととし替えたばかり。今はだいたい20~30年に1回で葺き替えるらしいんです。昔は、囲炉裏で火を焚いていぶすことで、屋根を乾かして防虫対策をしてたみたいなんですけど。今はもうこの家、火気厳禁になっちゃって。

―え、火気厳禁?

そうなんです。だから、キッチンがIHなんですよ。

―世界遺産にIH。なんだろう、ここにきていきなり、ぐっと生活感が出てきました(笑)。ちなみに水回りはどんなかんじですか?

冬が厳しいので断熱ヒーターが入っています。ちなみにね、お風呂はヒノキ風呂です。

―ヒノキ風呂! 今日は、いろいろ想像の範疇を超えてきますね(笑)。それでいえば、家に入ってすぐ気になってたんですけど、居間にある自転車やスノーボード、シューズたち。あのアウトドアグッズが放つ存在感たるや、ものすごい。

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畳や囲炉裏が風情を醸す部屋の一角には、スポーティーなアイテムがずらり

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昔からトレイルランニングや、スノーボード、ロードバイクやMTBが好きなんですよ。だから、シューズ、ヘルメット、ボード…って見ての通り(笑)。冬になると、朝、雪山でひと滑りしてから出勤したりしてますし。

―サーファーみたいな生活だ。

そうそう。この豊かな自然資源を、観光として生かすための“趣味と実益”を兼ねてる部分もあるんです。日本人が当たり前だと思っている水や食べ物って、実は世界の中ではすごく貴重だし、そういう自然を守りながらも仕事にできるような、そんな新しいライフスタイルのカタチが、地域には結構あるんじゃないかって思っています。

―じゃあ、合掌造りに住み始めたのも、その“新しいライフスタイル”という意味で?

僕ね、最初住むつもりは全然なかったんです(笑)。ただ、地域おこし協力隊として、村の空き家の活用について考えていくうちに、他の地区も含め、この世界遺産地区でも空き合掌造りがあることがわかってきた。ただ、白川郷には、空き家を「売らない・貸さない・こわさない」という三原則があるんですよ。だから、誰かに簡単に貸したりすることもできない。でも、移住とか観光の側面から考えると、空き家は大切なリソースになってくる。だから、「売らない・こわさない」というのはそのままに、「たとえば住んじゃえばいいんじゃない?」って、冗談半分で聞いてみたんです。

―冗談半分で聞いてみた。大胆ですね。その相手というのは…。

この家(旧寺口家)を文化財として取得している「公益社団法人日本ナショナルトラスト」と、この世界遺産地区(荻町)の地元住民で結成している「荻町の自然環境を守る会」という団体です。

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―大家さんが2人いる? なんだか気難しそうな表情をした“二重の壁”が浮かんできました(笑)。

でしょ? でもね、地元側としても、合掌造りの空き家は課題だという認識があったのと、ナショナルトラストさん側としても、日本全国にある文化財の新しい活用方法を模索している中で、それぞれの考えていることがうまくハマって、“ぜひ、住んでみたらいいよ”って。

―おお、意外にスムーズな交渉というべきか、運命的だったというべきか。
それにしても、空いてる合掌造りを活かすとなると、わかりやすくオシャレな施設やお土産屋さんに改装して、地域にお金を落とす、みたいな活用をしがちかな、と思うのですが。わざわざ“住む”というところに行き着いた理由が、気になります。

恒常的に人が入って、建物をケアしてあげる方法としては、住まないと中途半端になるんですよね。あとは、今までこの白川村は、外との関係がなかなか積極的でなかったというか。だからこそ守られてきた部分もあるんですけど、僕たちみたいな“よそ者”が入ってきたことで変わってきたという、いい流れもある。それを持続させるには、“通い”では難しいんですよね。いつまで経っても他人事でしかないので。

―建物としての保存と、文化が変わっていくきっかけ。この“守りと攻め”がうまくクロスするところが“住む”という選択肢だったと。

そういうことかな。ここでの役回りと自分の生き方、そしてタイミングが重なったというか。でも、僕が協力隊として着任した当初は、鉄筋コンクリートの村営アパートに住んでましたからね。これから、その地区に案内しますよ。

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がっしりとした立派な梁。江戸時代から続く歴史を感じさせてくれる

文:喜多舞衣 写真:山田康太

観光でちらと訪れるだけではわからない、白川郷での暮らし。次回、大倉さんの仲間とその住まいにまで迫ります。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。