阪本順治(映画監督)

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血の通った人間ドラマに定評のある阪本順治監督と、日本を代表する喜劇女優、藤山直美の16年ぶりの顔合わせが話題です。前作『顔』では、実在の逃亡犯をモデルに異色の犯罪ドラマを描き出し、監督賞、主演女優賞を含む映画賞各賞を総ナメにしたふたり。最新作『団地』は、『顔』とはうって代わり監督が彼女のために書き下ろした、完全オリジナル脚本の”しゃべくり”ヒューマン・コメディです。

大阪の庶民劇でありながら、一方で星新一のショートショートのように、驚きとユーモアとファンタジーに満ちた物語。阪本監督へのインタビューは、団地が紡ぐ記憶、映画にかける思い、俳優・演技論、そして死生観へ……。監督いわく、団地には思わずカメラを向けたくなるような魅力があるようですよ。


阪本順治
1958年生まれ。89年、赤井英和主演の監督デビュー作『どついたるねん』が芸術推奨文部大臣新人賞など数々の賞に輝く。00年、藤山直美主演『顔』で、日本アカデミー賞最優秀監督賞、毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞などを受賞。その他の監督作品に『KT』『亡国のイージス』『大鹿村騒動記』『北のカナリアたち』『ジョーのあしたー辰𠮷丈一郎との20年ー』など多数。

『団地』
舞台は、大阪近郊にある古ぼけた団地。半年前に家業の漢方薬局を廃業し、夫・清治(岸部一徳)と2人、引っ越して来た山下ヒナ子(藤山直美)。毎日パートへ出る以外はひっそりと暮らし、清治も植物図鑑を片手に裏の林を散策するくらい。どこか訳ありげな新参者に、住人たちは興味津々。そんなある日、しばらく姿を見せない清治に失踪の噂が立ち始める。殺人だと疑惑の目を向けるマスコミに対し、笑い飛ばすヒナ子。しかし、謎めいた青年(斎藤工)が彼女の部屋を訪ねたことで、事態は思わぬ方向に転がり始める……。

脚本・監督:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工ほか
6月4日(土)より全国ロードショー シネ・リーブル梅田/TOHOシネマズなんば/京都シネマ/シネ・リーブル神戸、他
製作・配給:キノフィルムズ
http://danchi-movie.com

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#1「団地は現代の下町やなって」

―阪本監督は、団地住まいの経験はありますか。

阪本:ないんですよ。団地に住んだ経験はないんですが、住んでる友達を訪ねたことはありました。それは、子どもの頃だったり東京に出てきてからも。

―脚本は、最初に団地を舞台にしたラストシーンが頭に浮かび、そこから書き進めたとか。そのイメージはどこから? 

阪本:僕が小・中学生の頃は大阪万博の時代で、いろんなところにニュータウンが建ちはじめて、それが大きなニュースだった。高度経済成長とともに新しい暮らし、核家族の登場ですよね。若いご夫婦、家族が団地に住まいを移して機能的につくられた室内、システムキッチンが、ある種、未来を感じさせる住まいの典型となっていた。ただ今回はその当時を描くのではなく、あくまでも僕が子供時代に建てられた団地の“今の状況の中”で、この物語を撮りたかった。

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―かつて時代の先端だったという団地へ実際に撮影に入られて、記憶との相違などはありませんでしたか。

阪本:実際に行ってみると過疎化もあるし、独居のひと、エレベーターのない5階は空室だらけ。外国の人もちょっと住んでたかな。課題ははらんでますよ。でも、だからといって、今の団地は問題だらけなのか。一方で、膝は痛めてるけどお爺ちゃんがお婆ちゃんの手を引いて、デイサービスの車に乗せてあげるとか。そういう密な人間関係、夫婦関係も目にしたし。昭和の団地って外廊下のない縦階段でしょ。それって”縦長屋”なんですよね。お隣さんではなく、お向かいさん。ちょっとほかの住宅とは違う人間関係があるんだろうなと。団地って現代の下町やなって感じました。

―なるほど、現代の下町とは、そうかもしれない。

阪本:それまで、映画の舞台がなぜ団地なのかと聞かれても、自分としては瞬間的に思い付いたことなので、答えるのが難しかった。でも、いろいろと取材を受けていく中で、そうか、昭和の団地は現代の下町なんだなと、後付けで気づいた(笑)。僕がよくロケをする通天閣のたもとや新世界とか、そこと同じ匂いを感じてたんだなと。

―また監督は本作について「藤山直美さんと団地だったから、遠くまでいけた」とも。

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阪本:やっぱり藤山さんは市井のひとやし、野田阪神の商店街を自転車で走っているような土着のひと(役柄)が一番似合う。団地という下町に住んでる姿が、この映画の主人公ヒナ子となった藤山さんのイメージにとっても似合っているということですよね。でも映画はそこでは終わらなくて……。

―単なるノスタルジーには終わらせない。そこでカギとなるのが、斎藤工演じる謎めいた青年の存在です。

阪本:そこの団地に何が起これば映画的事件になるのかってことですよね。映画ってもともとお似合いなモノを揃えたってしょうがない。お似合いのカップルよりは、「101回目のプロポーズ」みたいな、どこかで差異がありすぎるものを見たいわけでしょ(笑)。本作では斎藤工くん演じる青年が、ヒナ子のもとにある種の安らぎを持参して訪れる。しかも彼が大都会ではなく、昭和の団地に現れるというのが面白い。詳細を語れないのがツラいけど(笑)。

―確かに、あの驚きは映画館で味わっていただきたいです(笑)。​

阪本:映画館は非日常という言い方もあるけど、やっぱり1本の映画を観たことが、その人のその日の事件になれば一番いい。自分の生活圏では知り得なかったことを知るとか、そういうことも含めて映画の役割なのかと思うと、事件となりうるためにはできるだけ、磁石のプラスとプラスを強引にくっつけるようなことが、たぶん非日常的体験になる。映画のマジックを観てもらうということですよね。

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登場時からいかにも不思議な佇まいの青年を演じた斎藤工、まさに適役

―しかも今回は単に意表を突くだけでなく、監督の幼い頃からの疑問が反映されている。そこには、早くから人の死に触れてきたことが影響しているそうですね。

阪本:実家が仏具店ということもあり、子供の頃から「人は死んだらどこへいくのか」が疑問だった。それに対して大人はいろいろと答えてはくれたけど、そこで気持ちが安らいだり、明確な答えとして受け止められたことはなく、宿題のようにずっと心に残っていた。それを今回の映画で、自分なりに回答を出してみようと。

―その当時、阪本少年の問いに答えてくれた大人もいたんですね。

阪本:「魂となって宇宙に漂っている」「あなたのすぐそばにいるよ」という答えでしたね。それも一つの安らぎかもしれないけど、もうちょっと僕なりに表現してみたかった。どう言えるかわからないし、どう感じるかも分からないけど、本来、人間のあるべき姿はじつは、逝ってからなんだと。肉体を持っている僕らっていうのは、結局、欲の塊であり、誰かから何かを奪いたいと思っている。その延長線上に戦争があったり、矛盾と欺瞞の中で生きている。そういう自分たちは、やっぱり本来の姿ではないということですよね。

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ゴミ集積場でのちょっとしたやり取りも集合住宅ならでは

―シリアスにもユーモアにも描ける題材を得て、監督はユーモアに舵を切りました。

阪本:宗教家みたいな人がとうとうとシリアスに述べるより、斎藤工のような謎めいた青年にユーモラスに語らせた方が伝わるんじゃないかな。

取材・文:石橋法子 写真:佐伯慎亮 編集:竹内厚

*映画『団地』劇中カットはキノフィルムズ提供、©2016「団地」製作委員会


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