柴山留佑(レンタサイクルえむじか/ナミイタアレ)

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#1 キング・オブ・ポップレンタサイクル!

借り暮らしのヒントを求めて、
さまざまに活躍する人たちへのインタビューを進めている企画「ボロワーズ」。

今回は、場所の貸し借りにおいて、なかなか表には現れない「大家さん」の面白さを見つけるために、京都は左京区の玄関口、出町柳を訪ねました。レンタサイクル店「えむじか」をはじめ、フリーすぎる複合バラックスペース「ナミイタアレ」など、柴山さんの運営するスペースが出町柳の駅前に集まっています。

レンタサイクル店からはじめて、次々と新しい試みを打ち出している柴山さん。
その根底には、貸し借りへの熱い思いが流れています。

貸し借りマイスター、柴山さんの活動とことばをお伝えします。


柴山留佑
1974年生まれ。06年から、京阪・叡電出町柳駅前でレンタサイクル店を開業。12年、出町柳駅裏に「ナミイタアレ」「DBC(出町柳文化センター)」、14年、「えむじか四条河原町」をオープンさせた。3月にはゲストハウス「エムジカノイエ」も開業。

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―「レンタサイクル えむじか」は、まず安くて、丁寧で、自転車愛があって、時にスタッフもお客さんもわからないくらいに入り混じって楽しそうにしているという、いわゆるレンタサイクル店とはまるで違ったゴキゲンな店。柴山さん、どうしてレンタサイクルをはじめたんでしょう。

柴山:自転車がいちばん身近にありながら、邪険に扱われているでしょ。ボロボロになるまで乗り倒されて、そのへんに放置されて、簡単に捨てられて。

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―今でこそ自転車ブームですけど、開業された約10年前だと、自転車のイメージはそんなものでした。

いやいや、今でも自転車のことなんか、誰もちゃんと見てないよ。僕らの生活を支えてるのに大事にされてない、雑巾で拭かれもしない。そういう自転車の存在が好きなんです。僕は子どもの頃、ゴミを拾い集めるようなことをずっとやってたので(笑)。

―捨てられているものが放っとけない?

そう、僕が大学を出るまで住んでた武庫川団地は、31号棟まであったからね、夜になったら動きやすい格好に着替えて、順番にそれぞれのゴミ箱を見まわってました。レコードとか使える服とかたくさんあったけど、おかんには「あんた、もうやめといてよ!」って、いつも怒られて。そんなに貧乏でも大金持ちでもなく、ちゃんと食べさせてもらってたんですけど、昔から捨てられてるものは気になってたんですね。

―えむじかの自転車も決して新品ではない、というより、見た目はボロなものもありますよね。

初めて貸したお客さんに、ボロい自転車やなと思われるかもしれないけど、一番うれしいのは帰ってきた時に、「めちゃ乗りやすかった!」と言われること。ほれ見てみーってね(笑)。うちの自転車はボロやけど、元気なお爺ちゃんみたいなもの。僕らは、戻ってきた自転車を常に1台ずつメンテナンスしてますから。

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―まさに元気なお爺ちゃん! 実際、えむじかの自転車は最良にチューンナップされていると思います。とにかく乗りやすい。

自転車って、普通に乗っていてもどんどんつぶれていくけど、みんなその意識がない。ガシャガシャ変な音をさせながらでも、とりあえず乗れるからね。それで修理に持っていっても、すぐに「買い替えたほうが安い」って言われてしまう。いやいや、直したらええやん、子どもが病気になったら治すやろうって思いますね。

―えむじかの自転車は1台1台に名前がついてるんですよね。何百台とあるのに、名前を書いたラベルを見ないでも、スタッフの方はすぐに○○号と識別できたりして。自転車ながら、まさに子どものようなもの。

そうやね。だから、寝る前に、名前を思い浮かべて「あージョン元気かな」って(笑)。貸した自転車が返ってきた時にも、「おかえりー!」って言い甲斐あるでしょ。

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―自転車を返却した時には「おかえりー!」って必ず言われますけど、あれは自転車に言ってた!?

そうそう(笑)、無事に帰ってきてよかったなーと。お客さんに預けてるみたいな感覚もあるかもしれない。

―それくらい愛おしまれていることは間違いなさそうです。ちなみに自転車への命名はいい加減なものですよね。

「ジョン」はジョン・ボン・ジョヴィから。ジョン・レノンちゃいますよ。ビートルズやったら「ジョージ」はあったかな。「南正人」とかもあったけど、貸し借りの帳面に書くのがすごい大変やから。「山」「川」とか、ひらがな1文字とか、シンプルな名前もあります。でも、同じ名前はひとつもありません。

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この日見かけた自転車の名前。ちなみに、「さいこ」は出町柳店店長の彼女の名前

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本文中の「南正人」とは精力的に全国をライブで回り続けているミュージシャン

―ジョン・レノンは好きではないんですね(笑)。柴山さんをはじめ、スタッフも音楽活動をされてる人が多いとか。

店自体、バンドをやってるつもりなんです。もともと自分が音楽をやってる時に*、バンドが嫌で、何人かでいっしょにやることが苦手、お勤めに行くのも苦手やと思って、ひとりでレンタサイクルの店をはじめましたけど、やっぱりバンドになってしまった。ひとりでできることには限界があるんですね。

―店の面々によるCD「CYCLE and MUSIC」も2枚発売されています。

それは一昨年かな。せっかく音楽やってる人がたくさん集まってるからと思って作ったら、実は、スタッフのやってる楽器がドラムとベースのリズム隊ばっかりやったので、なかなか歌が出てこない(笑)。

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―自転車の命名、CDの発売だけでなく、商売とは直接関係のなさそうな遊びの要素がえむじかにはあふれています。

「えむじか」はキング・オブ・ポップレンタサイクルの店だからね。

―ポップも大事。

もちろん。キング・オブ・レンタサイクルだと強圧的というか、王様意識が強すぎるやん。どこよりもポップなレンタサイクル店という気持ちなんです。

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入れた荷物が傷つかないよう、自転車カゴには使えなくなった自転車チューブが貼られていた。この優しさ!

*柴山さんの参加していたバンド「ちぇるしぃ」は伝説のバンドと語られることも。バンド名で検索すれば当時の映像なども出てきます。

文:竹内厚 写真:平野愛

#2「仕事は、場所に線を引くだけ 」は3月6日更新
「レンタサイクルえむじか」以上に驚きに満ちた「ナミイタアレ」のヒミツに迫ります。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。