真福院で暮らす
四井雄大(美術作家)

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金沢のまちなかに佇む、小さなお寺・真福院。
普段は住職さんがおらず、代わりにNPO法人アートグミ*が一部アートスペースとして利用している現役の寺院に、今から4年前、とある一人の陶芸家が住みついて、時たまカレーを振る舞っている。
そんな噂を聞いた私は、居ても立ってもいられず、ちょうど2015年に開催されていた「住人の振る舞い」というイベントに、足を運んだのでした。

お寺に入って目にしたのは、弘法大師像のあるミニマムな本堂。どちらかと言えば、人に参拝意識を煽るような、色濃いお寺らしさはあまり見当たらず。その代わり、広い陶芸用のアトリエがあり、そこにはあるのはなんだかわからない「変わった陶芸」の数々。また、綺麗に改修された台所からは、鼻孔をくすぐるカレースパイスの香り。そこで「いらっしゃい」と声を掛けてくれたのが、まさにこの寺の住人・四井雄大さんでした。

なんだか仙人のようなおじいちゃんを想像してしまうかもしれませんが、四井さんは、まだまだ若き20代の健全たる男子!しかも、かの岡本太郎の意志を継ぐ現代アーティストに贈られる「TARO賞」に入選した、実力の持ち主です。

人々が集うお寺に住まう彼の視線の先には、一体どんなワールドが広がっているのやら。
そんな未知なる世界を知りたくて、今回、再びお寺の門をくぐってまいりました。


四井雄大
1987年、岐阜県出身。中学時代に「スタジオレコード陶芸教室」で陶芸に出会う。金沢美術工芸大学工芸科卒業のち、現在は、真福院に住みつつ制作。「第18回 岡本太郎現代芸術賞(通称TARO賞)」入選以来、菊谷達史くんが相方。ひそかな特技は「餅まるめ」。

*NPO法人アートグミ
2009年に設立された、金沢の文化芸術を育むNPO法人。北國銀行武蔵が辻支店の3階というユニークな場所を拠点としながら、北陸のアート情報発信からアートセンターの運営、クリエイティブツアーの企画など、アートを切り口にまちと人を繋ぐ多彩な活動を行っている。
http://gallery.artgummi.com/

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#1 家賃というより“お寺へのお布施”です。

ー率直な疑問です。そもそも、なぜ、お寺に住むことになったんでしょう?

四井:僕、もともと金沢美術工芸大学の出身なんですけど、卒業後は一度実家がある岐阜に戻ってたんですよね。そこで陶芸教室で働きながら、制作も続けてたんですけど、2年ほど経ったときに制作スペースが借りられなくなる事態と、陶芸教室のバイトの契約を見直す時期が重なってしまって…。「次どうしようかなー」って思ってたら、金沢のとあるアート団体から、「今度企画する展覧会のゲスト作家として制作してくれないか」って、声が掛かったんです。それで、金沢に足を運んだときに、流れで「今後の身の振り方決まってないんですよね」って軽く雑談してたら、そこに居合わせたアートグミの代表が、「あ、もしかしたら住めるお寺があるかもしれないですよ」って。

ー雑談が、本当になっちゃったわけだ。普通、一般人が住んでるお寺って、ないですよね。しかもその住人が陶芸家だなんて…、なんとも絵になる住まい方ですね。

四井:題材としては面白いでしょ。でもね、僕がここに住んでるのは、あくまで家賃が安いからで(笑)。

ーえ…?大前提は、そこですか?ちなみに家賃はいくらぐらいなんですか?

四井: えっとね、もはや実費しか払ってないんじゃないかぐらいの安さ(笑)。それで、これだけの場所を好きに使っていいぞ、と。もうね、家賃じゃなくて、「ここに住まわせていただいてありがとうございます」っていうお寺へのお布施みたいなもんですよ。僕、単純に荷物が膨大にあって、本堂にも作品が入った段ボールがいっぱいあるし、原料なんかもあるし…。だからアパートじゃ無理なんですよ。ちゃんとした家を借りようと思うと、家賃ベースだったらもっともっと田舎になる。まちの中で、広く場所が使えるこんな好条件、他には見つからないんですよね。

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展覧会後なので、これでも「今は作品がほとんどない状態です」とのこと(!)

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失敗作にまぎれて、菓子箱や空き缶がちらほらと。ここまで違和感なく馴染むものだろうか…

ーじゃあ、絶対的に金沢の地に固執してるわけじゃないってことだ。

四井:そうそう、同じような条件のところがあるのなら、別に来月にでも引っ越してもいいくらい(笑)。作家性とか、趣味みたいのが中心にあって、そのために場所を紐づけているのではなくて、あくまでもいい話があったから、それ中心に今後の僕は考えますよっていうスタンスです。

ーたまたま、偶然に従っただけだ、と。

四井:岐阜の生活拠点がなくなるタイミングで、金沢で生活拠点が提供されるっていう話がきたから、「あ、これは行けっていうことなんやろうなぁ」って。ただ、この真福院に住めるようになったのは、本当にいろんな人のつながりがあったお陰だとは思っています。

ーアトリエとか台所とかかなり綺麗に手直しされてますけど、一人でやれる範囲じゃなさそうですもんね。

四井:もともとアートグミが、アート関係のイベントがあるときに使わせてもらってたらしいんですけど、でも普段は住職さんがいないお寺だし、人が住む前提ではないので、初めて来たときはもっとボロボロでしたね。開かずの間に古い家具が詰まってて、電気もつかないし、恐ろしい空間でした(笑)。そこを、アートグミに登録しているボランティアスタッフさんたちに声を掛けて、改修のお手伝いに来てもらったりして。たくさんの方に助けていただいて、今僕はここに住めているという。

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真福院の改修時のようす/四井さん提供写真より

ーお寺って、本来は時代の最先端を発信しつつ、人の拠り所でもある場所だからかもしれないですけど、そうやっていろんな人を受け入れる真福院の住職さんの懐、かなり広そうな印象を受けます。

四井:たしかにそうだと思います。真福院の住職の北原さん曰く、「ここが、金沢で育つ若い芸術家の“トキワ荘”みたいな場所になれば」という思いでいらっしゃるようなんですよね。ただ、北原さん自身は、今、能登にあるお寺にいらっしゃっるので、僕がお会いするのは月1回の法要に来られる際に、タイミングが合えば、くらい。あ、でもちょうど3日くらい前かな、土間に「陶芸用の窯を入れたい」って相談したんですよ。

ーえ…、窯、ですか。

四井:そう、お寺に、窯(笑)。そしたら「最低限、歩くスペースさえ確保してくれればいいよ」って、前向きな返事をいただきまして。

ー北原さんという理解ある住職さんがいて、信頼されている仲介役のアートグミがいなければ存在しない、レアなお寺としか言いようがないですね。となると、元々住む場所じゃないところに住むがゆえの苦労みたいなものも、あったり?

四井:最近は壁とか仕切りをつくったのでストーブ焚けば温かいですけど、昔、初めて迎える冬場が寒すぎてね…。特に台所がやばくて、当時の同居人と夜に台所で喋ってたとき、お互いの吐く息で、お互いの顔が見えなくなるっていう現象が起きましたね。

ーなんですかその現象は(笑)。

四井:僕らもね、「うそやろ? なにこれ?」って。もうね、息じゃなくて煙ですよ、煙。それ見て笑うと、小刻みに鼻から出る息が全部視覚化されるという、あれはすごかったなぁ。あとは…、台所の床が凍ってて滑ったりとか、天井や床が斜めなので扉が閉まらなかったり、古い建物なので背が高いと頭ぶつけたり。部屋の中でくつろいでたら、なぜか部屋の中に猫やらネズミが歩いてて「おぉ!」ってなったり。そういうことが日常に起きても忘れるくらいじゃないと、ここに住むのは難しいですね(笑)。

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ーさっきから思ってるんですけど、いろんなことを、さらりと受け入れてますよね。そもそも、「住めるのがお寺です」って言われたときも、普通だったらその段階で躊躇するところなのに。

四井:うーん、躊躇ねぇ…。

ーなかった、と。

四井:それも面白いかなってくらい。いや、だからといって面白さに期待するわけでもないな。ほんとに普通に、「え、安いっすね、それやったら広く使えますね」っていう感じでした。

ーたしかにお寺って、馴染みのない人にとっては、場所に対する敷居を勝手に自分で上げちゃってるとこ、ありますよね。

四井:「お寺ってこわいですよね」とは、よく言われます。

ーやっぱり。つまるところ、それって何に対しての怖さなんでしょう。

四井:うーん、オバケとか?「お墓あるの?」とか聞かれますね。まぁ、たしかに隣の寺の墓がすぐそこにはありますけど。

ーなるほど。それはすごくわかりやすい図式ですね。葬式仏教じゃないですけど、寺=お参り=供養っていうイメージだけで見てる人が多いんでしょうね。合掌のような作法にしても、数珠のような仏具にしても、簡単に触れちゃいけない、気軽さからはかけ離れた場所っていうイメージがあるんだろうなと、ひしひし感じました。

四井:若い人だとまぁ、特にそうでしょうね。でも、お寺のお花を替えたりするためにお隣さんが玄関の鍵を持ってたり、毎月20日の法要日には檀家さんがいらっしゃったり、なんだかいろんな人が勝手に出入りしてますからね。そういえばこの間なんて、帰宅したらなぜかトイレの便座カバーが外されてたりしました。誰だこんなことするやつって(笑)。そうやって、本来はもっと人の生活に密着してて、みんなで守っていく場所なんですよね、お寺って。

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文:喜多舞衣 写真:山田康太

ふらーっと縁に導かれるようにしてお寺に住むことになった四井さん。次回、彼がなぜ陶芸を生業にしているのか、それが「カレー」と「お寺」とどう絡んでくるのか、その理由について伺っていきます。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。