小川諒、由岐中みうる、内木洋一
(TAKIGAHARA FARM/滝ヶ原ファーム)

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ひっそりと、石川県小松市・滝ヶ原に誕生した「TAKIGAHARA FARM」。
そこでは、都会から移住してきた若者3人が、農的生活を探求しながら暮らしている。
そんな話を耳にしたのは、たしか2016年のことでした。

とはいえ、ワンクリックでなんでもわかるこの時代、
「どんなことをやっているんだろう」と思いホームページやSNSをチェックするも、
うーん、わかるようで、わからない…!?

“農”と“食”の新しい可能性を探求する活動コンセプトは明確だし、
飾らない、イイ顔した人たちが楽しそうに写っている。
しかし、イベントの告知みたいなものはどこにもない。
それなのに、ゲストがひっきりなしに訪れている模様。

「え、なにここ。一体、どういうところ?」。
わからなすぎて気になってしまうという作戦に引っかかったわたしは、
モヤモヤを抱えたままTAKIGAHARA FARMに突撃(笑)。
しかしそこには、都会の雰囲気を纏い、カラッとした笑顔で迎え入れてくれる3人の姿がありました。


滝ヶ原ファーム
「Life with Farm」をコンセプトに、クリエイターやデザイナーの3名が、農的生活の可能性を探求するプロジェクト。青山ファーマーズマーケットの新拠点として、多様な人やモノをつなぎながら、里山と都市との橋渡しを担っている。
http://takigaharafarm.com/

 

#1 惹かれることに、理由なんていらなくないですか?

―畑が一面に広がる、のどかな集落から、中に入れば一転、スタイリッシュな内装に、みなさんが醸す空気感。なんだか、田舎と都会がゆるやかに交差する不思議なグラデーションのある場所ですよね。ここはみなさん3人だけで運営してるんですか?

小川:この「TAKIGAHARA FARM」自体は、東京・青山でファーマーズマーケットを企画している団体「ファーマーズマーケットアソシエーション」が母体になっています。これまで東京を中心に、イベントを通してつないできた生産者と消費者を、もっとリアルな場でつなげていこうと。それで、団体のオーナーが縁のあったこの滝ヶ原に、農家、料理人、職人、そして都市に暮らす人々が集える“コミュニティ”をつくろうということで生まれた場所なんです。

―なるほど。じゃあみなさん、ファーマーズマーケットのスタッフさんなんですね。

小川:あ、それが、そういうわけでもないんですよね(笑)。たしかに僕は「ファーマーズマーケットアソシエーション」に所属してるんですけど、もともとスタッフだったわけじゃなくて、ちょうどこの場所が立ち上がったということで仲間になったんです。場所はあるけど誰がやるのか決まってない。そこに仕事を探していた僕が現れた。「だったら滝ヶ原に行かない?」って感じで声を掛けられたんです(笑)。

右から小川諒さん、由岐中みうるさん、内木洋一さん

由岐中:それで諒くん(小川)が連絡くれたんだよね。「滝ヶ原っていうとこあるから遊びに来なよ~」って。

小川:そのとき、みうる(由岐中)が鳥取にいるって聞いてたんですね。でも、「鳥取もいいけどさ、石川もいいところだから1回おいでよ!」って。

由岐中:鳥取県で地産地消のレストランのお手伝いをしつつ、住む場所を探してた矢先だったので、誘われるままに滝ヶ原に来てみたんですね。そしたらなんとなく「あぁここいいなぁ」って思って、いつの間にか今に至っているという(笑)。

―小川さんの策略に、まんまとハマってしまった。そんな解釈でいいでしょうか(笑)。とはいえ、遊びに来たつもりがそのままどっしりと腰を据えてしまう。そんなこと、普通はなかなかないですよ。ね? 内木さん。

内木:いや僕もね、ほぼ同じようなもんなので(笑)。

―え、ちょっと待ってくださいよ。まさか…。

内木:3日間だけの滞在のつもりが1週間になり、それからここに移住したいと思うようになって、みなさんにお願いしたりして、そのままいつの間にかずるずると(笑)。

―なんですかここ、一度足を踏み入れたら二度と帰れなくなるなにかがあるんですか。

内木:僕の場合は、鎌倉をベースに写真や企画の仕事をしていた関係で、ファーマーズマーケットにいる知人から、イベントの写真や原稿を頼まれたのがきっかけだったんです。昨年2016年7月に、都市部の人たちと小松市にいる地元のひとたちが一緒に里山を巡るツアーがあって、そこに参加したら完全にしびれちゃって。だから、具体的に“なにか”っていうよりも、この土地の印象や目に見えない力みたいなものに引き寄せられた、みたいなことかな。

―うーん、たしかに「わけもなく惹かれる」っていうのは、理屈じゃなくて、もっともっと人間の根本にある感覚値だったりしますよね。そんな場所で、みなさん一体なにを?

小川:僕はこのファーム全体を俯瞰する立場なので、母体のある東京やサポートしてくれている小松市とのやり取り、それからここを訪れてるゲスト対応とか、そういった外部との橋渡し役というのがひとつ。その一方で、毎日畑に出て耕し、野菜を育てていくファーマーでもある。ざっくり言うとそんな感じかな。

内木:そのファームの一角で、僕は世界中の薬草を集めたハーブガーデンをつくろうとしてるところです。実は鎌倉で漢方茶のお店もやっていたこともあって、いつか薬草園をやりたいなと思ってたんですよね。それでこっちに来たら、周りは休耕田だらけでしょ。ここはもう、僕にとってパラダイスにしかみえなくて(笑)。

個性的なフォルムの「レイズドガーデンベッド」。どこでも農業を気軽に始められるキットとして開発中。

由岐中:私でいえば、もともと食べることに興味があったんですけど、こっちに来てから次第につくることに関心が出てきたんですよね。だってこのまち、飲食店がひとつもないんですよ。それに近所の人たちがいつも野菜を持って来てくれる。となったら、食べるにはつくるしかない(笑)。そうやっているうちに、当初はなかったカフェ構想が持ち上がり、今、このカフェができて、私はここの店長になってしまったという。

小川:そうそう、2016年12月に構想ができて今年5月にはオープンしてるから、ほんと急ピッチだったよね(笑)。それで東京や新潟、石川の、設計やデザイン、施工チームに協力してもらいながらリノベーションしました。僕らが今住んでいる母屋も同じくね。

―あ、母屋があるんですね。ということは3人でひとつ屋根の下、寝食を共にしているということ?

小川:僕は納屋に自分のスペースがあるんですけど、二人は決まったスペースがあるわけじゃないから、それぞれ母屋をうまく使いながら自分の場所をつくっている感じかな。

―他人と一緒に住む、暮らすということって、これまでにも経験があったんでしょうか。

小川:ここに来る前、千葉に3年半ほどいた頃から自分でシェアハウスを運営していて、常にいろんな人を迎え入れ見送ってきたので、ここでも同じようなことをやっているなぁってくらい。

由岐中:私は大阪出身なんですけどずっと実家育ちで、去年鳥取にいたときも、“暮らし”というより“滞在”だったから、正直ここまでガッツリ他人と住むのは、実はここが初めてなんですよね。

―え、そうなんですか? 実際のところどうでしょう、抵抗はない?

由岐中:いや、全然ないですね。違和感もなにもない。

―ちょっと遊びにきたつもりが、ここで暮らすことになった。そのうえ、初めてのシェア生活。それなのに、違和感がない。

由岐中:うーん、ここにいようって思った理由も、特に「これがこうだから」っていう確固たる理由がなくて、ほんとにただただここの居心地がいいんですよね。自分が生きやすいというのかな。まちの人も、食べ物も、環境も、自分に合っててここは生きるのに居心地がいい。そんな感覚なんです。

―じゃあ、住む場所や暮らし方うんぬんではなく、自分がよりよく生きる場所という中に、今回、たまたま“シェア”というスタイルがあっただけだと。

内木:実は僕も、住む場所をシェアする環境は初めてなんです。でも、これまでベースにしてきた鎌倉は、ゆるやかなつながりのある仲間と一緒に、生活や仕事が全て延長線上にあるような環境に身を置いてきた。その経験から言えば、住む行為は、生きることそのものに直結してるなと思ったんですよね。
そう考えたら、この滝ヶ原という場所は、暮らしも生業も全部含めて一直線上にあるような、もうこれ以上のところが見当たらないと思えるくらい、素敵な場所だなって。だからこそ、この場所を求めていろんな人が集まってくるんじゃないかなぁ。

小川:そうかもしれないね。じゃあ、ちょっとこれから母屋に行ってみましょうか。僕たちの畑も見てもらいたいし。

文:喜多舞衣 写真:シミズカナエ

→#2 自分が楽しめれば、続けられる。
ということで、次回のインタビューは母屋からご紹介!
いとおしそうに畑を愛でる小川さんから、“ファームのアレコレ”について、紹介&案内してもらいます。


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