小川諒、由岐中みうる、内木洋一
(TAKIGAHARA FARM/滝ヶ原ファーム)

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#2 自分が楽しめれば、続けられる。

生きるのに心地がいい場所として、「TAKIGAHARA FARM」にたどり着いた3人。
その中のひとり、小川さんに案内されたのは、先ほどのカフェから歩いて1分ほどのところにある、大きな古民家。ここが3人の暮らす家であり、様々な人が訪れるファームの拠点でもあるそうです。
はてさて、小川さんはここでどんな日々を送っているのでしょうか。

#1 はこちら

―わぁ、すごい開放感。襖もないし天井も抜いてあるから、家全体がひとつの空間みたいですね。

小川:でしょ。しかもこの建物、実は130年経ってるんです。そうは見えないけど。とはいえ、やっぱり生活してみて初めて、古民家を管理するのは大変なことなんだっていうのが実感できましたね。掃除機かけたら終わりってわけじゃないし。でも掃除をすればするほど家が光るから、それはすごく嬉しいかな。

―まさに、家は生き物って言いますしね。手をかければかけるほど、愛着も湧くし育っていく。それでいえば、外に広がっている一面の畑にも、同じことが言えそうですね。

小川:そうそう、僕の毎日はいつも畑に行くことから始まるし、午後も外に出ない日は引き続き畑作業をする。それはやっぱり、TAKIGAHARA FARMの根幹に、農と食というキーワードがあるからなんですよね。
畑で土に触れる時間は、自分にとってどんなに忙しくても大切で、いろんなことに立ち返ることができる瞬間っていうのかな。だからこの場所での生活って、僕の中ではアートワークだと思っているんです。

―おぉ、この生活自体を“自身のアートワーク”と言い切ってしまう。

小川:自分の心を整えるために、家自体をきれいにするっていう気持ち的な面もあるだろうし、畑で、何をどこに植えるか考えながら作業する、そんな環境的なデザインにしてもそうだしね。
なんていうか、自分とこの場所が、ある意味シンクロしてる感覚かな。
それに、「朝早いの大変だね」って言われるけど、僕は起きた時間にやるんですよ(笑)。ただ、片手間でやるということではなく、畑って絶対こうあるべきっていうのでもなく、基本的には、自分の性格にあったスタイルで畑と向き合う可能性があってもいいんじゃない?って。

―たしかに、昔は、晴耕雨読の生活っていうのが、すごく身近なものとしてあったはずですよね。

小川:こんな感じでいいんだ、こんなに自分らしくていいんだ。こんなにかっこよくていいんだ、って。やっぱり自分が楽しめないものは、きっと誰にとっても「いいな」って思わないと思うんですよね。なので、それを僕自身がこの場所で体現してみようって思ってるんです。

―だからこそだとは思うんですが、さっきから伺っていて思うのは、ビジネス第一主義ではなさそうだということ、そして自分、時間、自然とのそれぞれの向き合い方が、肩肘張っていないということ。これら全部をまるっと含めて、なんていうか、海外のコミュニティっぽい気がするんですよね。

小川:農業を生業にしてきちんとマネタイズしている農家さんの知り合いもたくさんいるし、美味しいものを提供してお金を稼ぐというビジネス思考はもちろん大切。ただ、ここに関しては、それだけを最優先にはしてないというのかな。場をつくり、野菜をつくり、カフェでそれを美味しく食べてもらう。また、東京のファーマーズマーケットに持って行くことで、「美味しい」と言ってもらえた言葉を持ち帰ってきて、地元のおじちゃんやおばちゃんに伝えていく。加えて、東京や海外から来たシェフやゲストが、リアルに地元の生産者たちと出会える場として、双方の顔がみえる関係性をつくっていく。そういう循環を生み出せる場をつくっていきたいなって。

―なるほど。目に見える貨幣だけではない、オルタナティブな対価や価値の良さに改めて気付ける場所でもある、と。それをわかりやすい言葉で表現するとしたら、図らずとも「丁寧な暮らし」とか「豊かな暮らし」みたいなところに分類されてしまいがちかなと思うんですが…、小川さんの豊かさの基準、ちょっと聞いてみたいです。

小川:うーん、豊かさねぇ。豊かさかぁ…。ただ、今のこの自分の生活は、豊かだとは思ってます。

―そこは、断言できる、と。

小川:この間ね、東京に行ったとき、ふと考えることがあったんですよね。「東京のみんなは何を求めて、何のためにここで生きているんだろう」って。もちろん、東京自体は数えきれないほどの面白さを生み出してて紛れもなく楽しいところだし、僕も大好きだから悲観してるとか非難するという話じゃない。ただ、そういう楽しみの一方で、ここにある自然たちも、人間を幸せにしてくれることがたくさんあるなぁって、そこにも改めて気付いたというか。

―幸せを感じる “心の満足度”の振れ幅が、もうひと回り増えた。そんな感覚のようにも聞こえます。

小川:鳥が鳴いて季節の花が咲いて、旬のものを食べることができる。ここは自然から与えてもらえるもの、受け取れるものが周りにいっぱいあるんです。還元と循環の中に身を置く自分に気付き、その恩恵を最大限に生かしてみんなでシェアしていく。そのシンプルさこそが、豊かさの基本なんじゃないかなって。だから最近、この暮らしのもう一歩先には、一体どんな“次なる豊かさ”があるんだろうって思ったりするんです。ただ、わからないなりにも、その一歩を今、僕たちがこんな素敵な空間でトライしていけること自体、とにかくスペシャルだなって思うんですよね。

文:喜多舞衣 写真:シミズカナエ

→#3 もらうことは与えること。
「都会と田舎、両方知っているからこそ気付けることがある」と語る、小川さん。
最終回は、都会で暮らした経験のある3人が、どんな想いでTAKIGAHARA FARMと向き合っているのか、聞いてきました。


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。