店の上に住まう借り暮らし
宮武裕右、元永彩子(TORI FOOD)

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店の上に住まいがあるという姿を、昔は良く見かけましたが、
最近は商店街でもその数は、随分減ったように思います。

生活から仕事や職場が切り離され、通勤が当たり前となった今、
元・広告営業マンの夫と画家の夫妻が小さな古ビル1棟を借りて、
「タンドール料理専門TORI FOOD」をオープン。
その階上に住居をつくって、新たな暮らしにチャレンジしています。

…なんて大げさかもしれませんが、
自分たちらしく暮らす、そのひとつのアイデアとして、
ふたりの新生活をのぞいてみました。


宮武裕右 
(株)トリ風土研究所代表トリ締役。広告代理店勤務を経て独立。広告業から転身し、飲食業の世界に飛びこむ。2016年、大阪・堺筋本町に「トリと野菜。タンドール料理専門TORI FOOD」をオープン。
トリ風土研究所→http://www.torifood.jp
  
元永彩子 
京都市立芸術大学卒業後、ウェブデザイナーを経て、2011年、画家として本格的に活動。ファッションブランド「ミナペルホネン」での展覧会をはじめ、ANdo、代官山蔦屋書店など幅広い場所で精力的に活動中。
元永彩子→http://ayakomotonaga0527.tumblr.com

 

#1 お店の2階を自宅にした理由

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―新しくお店をオープンするだけでなく、住まいも同じ建物にということですが、まずはその経緯について聞かせてください。

宮武:もともと、広告会社で働いていまして、その後、独立して広告業で起業したんです。その仕事がきっかけで、養鶏をされている方と知り合って、鶏を商材に広告業ではない仕事をはじめたいと思ったんです。だから、一旦、フィールドを変えて、6次産業化プランナーとして加工販売などのお手伝いをしていました。

―なるほど、1次、2次、3次産業の融合をはかるというお仕事ですね。

宮武:そんな流れから、最初はグラフィックデザイナーと作った「鶏の教科書」という簡単な問題集を作って、お客さんに解いてもらって、その後、1匹丸ごと鶏をさばいて、それを食べるというワークショップをしていました。そうして、鶏への関心を高めてもらいつつ商売を広げていたんですが、なかなか儲からない。どんどんお金はなくなる。細々とでもいいから借金は増やさない、それくらいの感じで思っていたものの、その生活にも限界があるんですよね。そこで、自問自答するわけです。借金増やしてまで人を雇って、本当にこれを続けていくのかって。それで、一度会社を整理して、全部自分で一から料理を作って提供する飲食店をやってみようと考えたんです。

―随分、思い切った決断ですね。

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TORI FOOD店内。元永彩子作品のポスターや鶏にまつわる絵、オブジェなどもちらほら。

宮武:でも、この決断は自分でしたというよりは、嫁さんが1回勝負してみたらって、背中を押してくれたのが大きいです。

―というと。

宮武:会社を整理することと飲食店のことを考えはじめたころ、同時に知り合いの不動産屋さんに物件の相談はしていたんです。そうしたら、いい物件ありますよって、この場所を案内されたんです。いい物件だなと思ったんですが、ここで新たに借り入れして、と考えるとそんなすぐに決められるわけもなく。だけど、内装を相談しようと思っていたBMC(ビルマニアカフェ)の阪口さんにも見てもらうと、「この物件は借りない方がリスクです」なんて言うんです。人に言われると影響されるタイプなんで、前向きにはなったものの、やっぱり借金のことは心配事として残っていました。そんな時に嫁さんが、「(会社の)事務所をたたんで、私のアトリエも解約するから全部ここでやったら?」って言ってくれたんですよ。二人三脚でやっていくことを承諾してくれたというのが、決め手だったんです。

―最後のひと押しは、元永さんだったとは。

元永:私が借りていたアトリエは、以前の家から徒歩5分くらい。自転車だと3分かからない距離だったんですけど、私ってすごく出不精なんですね。引きこもりと言ってもいいくらいに。実は、そんな数分の距離ですら面倒くさくって、だから、これは自宅にアトリエを作るチャンスだなって(笑)。

―そうすると、以前から自宅にアトリエを作りたいと思っていたわけですか?

元永:はい。パジャマのままでアトリエに行って、そのまま絵を描くとかいいなって。あと、ハリネズミを飼っていたので、自宅とアトリエの場所が離れていると、ちょっと心配な気持ちもあって。生活と仕事が一緒になることで好きな時に様子を見に行けたり、とにかく私にとっては良いことしかない。

宮武:それで、現実的にいろいろ計算してみて、金銭的にも住む場所、仕事場、アトリエをひとつにすることで、3カ所バラバラで借りていた時の金額に少し足が出るくらいだったので、これは範囲内だなって決められたんです。

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窓の向こうは東横堀川。

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店づくりを考えていたときに偶然、出会った椅子。そのプロダクトネームは「BIRD」。

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元永彩子さんの作品。

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地下室もあり。いずれは活用したいとのこと。

文:松村貴樹 写真:平野愛 編集:竹内厚

 
→#2 間取りをいちから考える暮らしへ
いよいよ、お店の2階にある住まい&アトリエを拝見。思い切った暮らしかたに感心しきりです。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。