TSUGI(新山直広、楳原秀典、寺田千夏)

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#1 河和田は、第二の故郷です!

越前漆器に眼鏡、和紙、繊維など、地場の手仕事がいまだに息づく福井県鯖江市。
中でも、河和田地区という小さなまちで、眼鏡職人や木工職人、デザイナー、NPO職員まで、それぞれ本業を持ちながら活動している、ユニークなものづくり集団・TSUGIが今回のゲスト。

しかし彼ら、全員大阪からの移住組。
学生時代に参加した「河和田アートキャンプ」というプロジェクトに参加したのが縁で、この地にやってきたといいます。

ちなみに河和田アートキャンプとは、2004年に起きた集中豪雨によって被害を受けた福井のまちを、“芸術の力”を通じて復興と活性化を行うという地域づくりプロジェクト。
京都精華大学の学生が中心となり、全国から集まる有志学生と地域住民が協働しておこなう同プロジェクトは、今年で11年目を迎えました。

そんなTSUGIのメンバーが拠点にしている事務所は、なんと稼働中の漆器店の1階を間借り中。
しかも、血縁関係のないおばあちゃんと二人暮らしをしているメンバーもいるのだとか!
縁をうまく辿りながら、すーっとまちに入り込んでいるTSUGIの暮らしぶり。
その秘密に迫りたいと思います。


TSUGI
デザイン+ものづくりユニットとして、デザイナーや職人たち6名で結成されるクリエイティブカンパニー。地域やメーカーと寄り添いながら、未来の産地を盛り上げるべくさまざまなプロジェクトを展開中。2015年春に法人化され、新山さんと寺田さんの2名が専業。
http://tsugilab.com/

*河和田アートキャンプ 
http://www.aai-b.jp/ac/

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―学生時代に参加したアートキャンプが縁とはいえ、「よし、このまちに住んじゃおう!」って、そう思えるもんですか?

新山:僕、大学で建築を学んでたんですけど、在学中の2008年頃を境に、日本の人口も新築住宅もどんどん減る一方で。「もう建築に未来ないんじゃない?」って、在学中にうすうす感じてたんですよね…。でも、河和田アートキャンプに参加したことで、建物を建てなくても、今あるものを活かしてイキイキとした暮らしってできるやん、てことを体感したというか。

―じゃあ、新山さんは、もう「河和田ラブ!」ということで?

新山:あ、いや、それがアートキャンプを主宰している先生が、ちょうど河和田にまちづくり会社をつくるというタイミングで、「お前、どうせ就活してないやろうから、うち入れ」って(笑)。それで、地域活性の仕事をするために、このまちに戻ってきたというかんじです。

―なんだ、飛んで火にいる夏の虫みたいな感じかと思ってました(笑)。
はじめは単なる赴任地だったんですね。寺田さんは、今年の春から移住されたそうですね?

寺田:私は、新山くんに口説かれたんです(笑)。電話で口説かれて、遊びに行ったらまた口説かれて。でもね、新山くん、次の日自分が言ったこと覚えてなかったんですよ(笑)。

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TSUGIによるプロダクト「Sur(サー)」は、眼鏡の素材を使ったアクセサリーブランド

―え、口説かれた? 聞き捨てならないですね。

寺田:私、大学卒業後は、京都のデザイン事務所でグラフィックデザイナーをしていたんです。
でもある日、突然社長から「今日で解散」と言われて、一瞬にして無職(笑)。その後フリーランスで仕事をしていたんですけど、もう一度企業に勤めようと思って転職活動をしていたら、新山くんからぽろっと電話かかってきて。「来年の春にTSUGIを法人化するからぜひ一緒に働かない?」って。でも、内定もらってる企業があったのですんごい迷いました。

―あぁそういう口説かれ方。でも、TSUGIを選んだわけだ。

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寺田:普段仕事のことあまり相談しないんですけど、たまたま母に電話したら「辛い道ほど楽しいものはないぞ」って言ってくれて。その言葉で、すぅっと気持ちが決まって、それで新山くんに電話したんです。「河和田に行きます」って。

新山:まぁ断られるだろうと思ってたから、その言葉聞いたとき、「え、うそ、まぢか、どうしよう」って(笑)。嬉しかったけど、責任で手が震えましたね。

―人の人生を決めてしまったぞ、と。
でもお二人とも、やっぱりこのまちに来ることへの気持ちの切り替え、スムーズですよね。

寺田:それはやっぱりアートキャンプのお陰かな。このまちを“第二の故郷だ”っていう子、多いですね。好きな地元のひとがいる。後輩が頑張ってるから冷やかしにくる。お世話になったおじいちゃんにだけ会いに来る、とかみんなそれぞれ。

―いいなぁ。そういう第二の故郷との関係性。地元の若者とも仲良くなったり?

新山:それね、2009年に僕が“移住者第1号”みたいなかんじやったんですけど、
このまちって青年団みたいなものがないから、地元の若い子との絡みは皆無に等しかった。
新卒で仕事もできないし、車の免許がないから原付でしか移動できないし、築100年の古民家に一人で住まわされるし。もう、ほんとうにひとりぼっち。

―うわ、それはキツそうだ…。
それって、TSUGIを結成するにあたり、何かしらの影響を及ぼしている?

新山:いやー、人間一人でできることなんて限られてるっていうことが、このまちに来てすごくよくわかりましたね(笑)。だから、とにかく仲間が欲しかった。そう思っていると、2010年に2人、2012年にドドドっと5人くらいかな、同年代の子たちが一気に移住してきたんですよ。

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―お、それはチャンスだ。

新山:そうです(笑)。ただ、みんな目標をもって仕事を充実させていく一方で、休みの日に遊びにいくところが少なくて。僕結婚してるんですけど、うちの奥さん大阪出身で、河和田に移住してきた当初は目を離した隙に大阪に戻っちゃって。新婚早々、離婚の危機みたいな(笑)。

―チャンスじゃなくてピンチじゃないですか(笑)。

新山:そう。加えて、みんなで飲み会したときに「10年後も同じようにこの仕事をしていられるんだろうか?」って話になったんですけど、そしたらみんな、シーン…みたいな(笑)。これはまずい、自分たちがこのまちでできることってなんだろう?って真剣に考えはじめたのが、TSUGIが生まれたきっかけです。

―なるほど。ちなみにその拠点って、はじめからこの場所ですか?
だってここ…表に「錦古里漆器店」て書いてあるから、間違えたかと思っちゃいました。

新山:2、3年ほど使われてなかったこの場所を知っていたので、ここが拠点だったらいいなあと思って、試しに持ち主の錦古里さんに電話してみたんです。それとなく「どっかいい場所ないですかねぇ」って聞いてみたら、「お、うちの1階空いてるで」って。

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2階では、今でも錦古里さんが漆器づくりの仕事をされているそう

―計算通り。でもそれって、お互いのことをよく知らないとできない算段ですよね。

新山:錦古里さんは、ご兄弟で越前漆器の職人をされていて、アートキャンプの時からすごくお世話になっていたり、僕の結婚式の仲人役をしてもらったこともあるんです。
かつ、彼自身も越前漆器の未来に対して危機感を持っていて、「若い人たちが頑張ることで未来につながっていくから、俺らは今、応援せなならんのや」って。

―カッコいい大人の背中。それって錦古里さんだけ、ですか?

新山:実はこのまちは、昔から“人とモノと情報”がずっと入ってきた場所なんです。
腕利きの職人さんが全国から集まってきて、農閑期になると東北まで商品を売りに行って、
帰りにいろんなまちの情報を持ち帰ってきていた。だから、そもそもの“受け入れの土壌”があるからこそ、まち自体が若い人達を支えようっていう気持ちもあるんじゃないかな、と。

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TSUGの事務所には、セレクトされた職人さんたちの商品も置かれています

―じゃあ、この場所の改装は、まちの職人さんたちも手伝ってくれた、とか。

新山:いや、それは全部自分たちでやりましたね。ただ、いろんなものをいただきました。その名も「ハイエナプロジェクト」(笑)。
取り壊される漆器屋さんの棚とか、中学校の下駄箱、公民館で使ってるソファとか。お金がなかったんで、福井県内で捨てられる廃棄物があればすぐ連絡してもらって。「こんなガラクタ何に使うんや?」って言われつつ、「じゃあこれはこれは?」っていろいろ持ってきてくれたのが、結構面白かったですね。

―え、そうなんですか。内装も全部自分たちで?

新山:そうです。なぜなら、楳原くんが元々左官職人だったから。

楳原:だいたい、何でもわかったという(笑)。

新山:改装は、全部楳原くん監修ですよ。

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―楳原さん、元左官職人とは意外です。

楳原:僕も建築学科出身なんですけど、卒業してから半年間左官職人の学校に行って、そこから約3年半、左官の仕事をしてました。でも、もともと3年くらいで働き方を変えようと思っていて、そのタイミングでアートキャンプの事務局に入らないか?って声を掛けていただいたので、それで職人を辞めて、河和田に来たんです。

新山:あ、左官職人を辞めた後のこと、もうちょっと詳しく言わなくていいの?
ちょっとおもろいですよ(笑)。

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文:喜多舞衣 写真:山田康太

少しずつ時間をかけてまちに受け入れられてきたTSUGIのメンバー。次回、中でもいろいろユニークなエピソードを持っている楳原さんの暮らし方と、その理由について伺います。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。