8. 人がキッチンに合わせていく

ふたりの暮らしや部屋探しは、豪華や質素という価値観よりも、自由という形容をしたくなる。となると、やっぱりキッチンだけは「いちばん想像力を発揮できない」窮屈な場所?
その答えも、えり子さんから後日届いたメールの中にあった。

たしかにキッチンは家具の配置がすでに決まっているため、まずは自分がシステムの方に合わせ、それから道具の置き場所など調整しながらじわじわと使い勝手をよくしていくわけですが、実はそのプロセスこそが面白いんですよね。
引越のたび、見知らぬキッチンが自分のキッチンになっていく感覚を楽しんでいます。
また、歴代のキッチンはどんな風だったかなと記憶をたどってみると、パーティの思い出のほか、北京で必死に中国語の勉強をして、お手伝いさんと色々おしゃべりしながら中華料理をつくったことや、母を伴って転任した台北では、フィリピン人のお手伝いさんとともに和食をよくつくったこと、そこに監修役の母が現れてはダメ出ししていた様子など、懐かしい風景が次々と浮かんできました。
自分ではあまり意識していなかったのですが、これまでの生活の中で、キッチンが人との交流の場としてかなり大きな役割を果たしていたんだなと改めて気づかされました。

不自由さにちょっとした工夫をして使い勝手をよくすること。そうして日々の暮らしは成り立っていることがほとんどだろうけど、“見知らぬキッチンが自分のキッチンになっていく感覚”というのは、まさにカリグラシの醍醐味だと納得されられた。

9. キッチングッズ3選へつづく

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