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竹久夢二、中原淳一、花森安治といった文化人たちがのこした作品や雑誌などから、暮らしのイメージを読み解こうという、意欲的な展覧会を行っている山田俊幸さん。よく知られた絵や雑誌から、どんな住まいの姿が見えてくるのでしょうか。山田さんにお聞きしました。


『昭和なモダンライフ 夢二、淳一、花森安治の夢』
会期:~2018年1月22日(月)
会場:高畠華宵大正ロマン館(愛媛・東温)
…帝塚山学院大学教授、日本絵葉書会長を務める山田俊幸さん自身のコレクションを展示。

―山田先生が企画された『昭和なモダンライフ』展、竹久夢二、中原淳一、花森安治という3人の並びがちょっと珍しいですね。

山田:夢二、淳一の展覧会だったらよくあるけどね。この3人となるとなかなかつながらない。だけど、3人がのこした作品に出てくる暮らしの風景を見ていくと、ぴったり話がつながるんですよ。

―まず竹久夢二(1884~1934)、主に戦前に活躍した画家です。

山田:夢二が活躍したのは、文化住宅の時代といえます。文化住宅って関西の方が早いのかもしれないけど、関西だと大阪の箕面であった「住宅改造博覧会」(1922)で文化住宅が提案されて、博覧会が終わったらそれがお客さんに売却されました。東京でも「平和記念東京博覧会」(1922)で文化住宅を展示しているので、このあたりから文化住宅という呼称が一般的になりはじめます。

―ここでいわれる文化住宅の特徴というのは?

山田:ひとつは衛生です。つまり、台所が家の中のどこにあるのか。それまでの台所は、湿気たところに置かれていましたけど、明るい場所へと持ってきた。もうひとつは、書斎のある部屋というのが文化住宅のキーワードかな。

―台所の位置と書斎の存在ですね。

山田:家に書斎ができることで、すなわち本を置く必要が生まれて、円本がとても売れました。新しく買った住宅のディスプレイとしてね。そして、出版社はオマケ付きの円本というのも売り出しはじめます。この全集を買い集めると本箱が付いてきますよ、というように。

―本箱のおまけ付き文学全集。まさに家を飾るための本ですね。

山田:もちろん、ちゃんと中身を読んでもらいたいんだけどね(笑)。つくりつけの本棚がある家ならそこに本を収められますけど、たとえば、学生の下宿ではそうもいかないので、本箱を付けることの需要がありました。

―当時の住まい事情が本などの生活文化にも直結しているんですね。

山田:そうです。日本の住宅事情からすれば、若者は小さな箱、部屋の中に、小さな本箱を持って、そこに文庫本を集めるんですね。岩波文庫を全巻集めようという人が出てきたりして、それが若者にとってのひとつの書斎の形になります。
ちなみに昭和のはじめ頃、日本でいちばんおしゃれな装幀が何だったかというと、フランス装。仮綴じ本ですね。きっちり製本された本よりも、無裁断の仮綴じ本に簡単な表紙をつけた本がいいと。その頃、野田書店、ボン書房といった出版社から出ていたフランス装の本は、当時から愛書家に好まれて、いまも古書店での人気が高い。

―そんなお話を聞いてから竹久夢二の絵をあらためて見れば、決して重々しい部屋は描いてないですね。

山田:文化住宅的な生活スタイルというのは、ライトなんです。重く見えそうなものは部屋に置かない。ある程度、開放的でね。夢二と同世代の高畠華宵(1888~1966・画家)や、加藤まさを(1897~1977・画家)あたりは、まだ洋館、お庭があるような御殿建築への憧れが捨てきれないんだけど、夢二の描く部屋は、家具も着ている服も何ともライト。部屋の中は空っぽと言ってもいいくらい、ほとんど何もない。

―それが戦前、昭和初期の文化的なライフスタイルだった。そして、中原淳一(1913~1983)の世代が活躍しはじめます。

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