山崎紀子(シネ・ヌーヴォ支配人)

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#2 流れていくものを眺めている

映画ファンが出資してできた大阪九条の“みんなの映画館”、シネ・ヌーヴォ。
引き続き、支配人の山崎紀子さんにお話をお伺いしました。
今回は山崎さん自身について、そして支配人というお仕事について。

#1はこちら

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―映画館の支配人って具体的にどんなお仕事なんですか。

山崎:映写以外はなんでもやりますね。カウンター業務からフィルム手配まで、本当になんでも。
ただ、支配人としての醍醐味といえば、やっぱり番組編成ですね。代表(景山理さん)と相談しながら、どの映画をどういうスケジュールで上映するかを具体的に決めていきます。

―それは楽しいですね。

でも、好きな映画を自由に掛けれるというわけでもないんですよ。どの映画を掛けるかというのは、配給さんからの営業とか、監督さんからの持ち込みとか、多くは関係性の中で決まっていきますから。企画上映の場合は自分たちで一から組み上げていくこともありますが、大抵は自分で選ぶというより、映画が向こうから流れてくるという感じ。だから、「何を掛けるか」ということよりも「どう掛けるか」ということの方が、工夫のしどころですね。

―「どう掛けるか」とは?

たとえば、違う監督なんだけどたまたま同じ俳優さんが出ている作品があったらそれを続けて流してみたり、一見全然関係なさそうだけど通底するテーマがある作品を並べてみたり、といったことです。特にシネ・ヌーヴォは何本か続けて観るお客さんも少なくはないので、この映画に興味があるお客さんにこれも見てもらえたらなと、小さなメッセージというか期待はちょっとずつプログラムに盛り込んでいます。あんまり気づかれないかもしれないけど……。

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―ところで、山崎さんはどうして映画館で働くようになったんですか。

最初のきっかけは、20歳の時に梅田のミニシアターでのアルバイトです。その頃は専門学校で油絵を勉強してたんですけど、映画も昔から好きだったので、絵を描きながら映画館で働けたらいいかなくらいの軽い気持ちでした。それが気がつけばこんなことに(笑)。

―そのアルバイトが楽しかった。

仕事そのものも楽しかったんですけど、上映する作品によって映画館の雰囲気がガラッと変わるのがすごく面白くて、映画館という場所そのものに興味を持ったのも大きいですね。当たり前のことかもしれませんが、上映する作品によって、ほとんどが若いお客さんの時もあれば、年配のお客さんばかりの時もある。男性のお客さんが多い時もあれば、女性のお客さんばかりのときもある。そんな中に、どんな映画も観に来てくれる常連のお客さんがちょっといたり、この人がこんな映画を観るんだっていう意外な感じのお客さんがいたり。そういうことがとても印象的で、学校を卒業してからやっぱり映画館で働きたいと、シネ・ヌーヴォに入りました。

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―映画によってお客さんが替わっていくと、逆に場所性みたいなものは立ち上がってきにくいような印象もありますが。

場所性というよりは、むしろ「流れ」と言った方が近いかもしれません。お客さんのこともそうだし、作品についてもそうなんですけど、映画館という場所はいろんなものが入って、また出て行くという流れがずっとある。そういう流れてる場所にいるのが、たぶん性分的にしっくりきたんでしょうね。

―流れのいい場所にいて、目の前を流れていくものを眺めてる感じ?

そうかもしれないです。私自身の仕事に関して言えば、シネ・ヌーヴォで働きはじめて今年で14年になるんですが、同じことを繰り返してるって感覚はないんです。いつも違うものが流れてきて、そのたびに違うことをやっている。もちろん私自身も少しずつ変わっていってると思いますし。

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シネ・ヌーヴォは常連のお客さんも多くて、それこそ私が働き出す前からずっと通ってくださっている方もいます。そういう意味ではあまり流れのない場所のように見えるかもしれません。それでもやっぱり映画館だから、作品はどんどん流れていくし、お客さんも基本的にはどんどん流れていく。流れていくものと、ずっと流れずにそこにあるものがあるからこそ、流れが感じられるというのもあると思います。それはきっと常連のお客さんたちも感じていることじゃないかな。まあ、あんまりこんな話をすることはないですけど。

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DATA
シネ・ヌーヴォ●大阪市西区九条1−20−24/1997年開館。69席のメインシアターに、現在は24席のシネ・ヌーヴォXも併設/上映プログラムや過去の上映作品などは→http://www.cinenouveau.com/

 
シネ・ヌーヴォから歩いても通える場所にある山崎さんのご自宅へ。シネ・ヌーヴォの雰囲気から想像されるのとはまた違った住まいに興味津々です。


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