山下陽光(途中でやめる)

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山下陽光(ひかる)さんが手がける「途中でやめる」は、既存の服をリメイクした洋服ブランドですが、山下さんの活動は、まったくファッションだけの世界に留まるものではありません。

あふれるばかりのアイデア、思考、創造、妄想の種を日々、ブログやツイッターなどでも世間に発しながら、さまざまな活動や場所を各地に生み出しています。今回は、そんな山下さんの活動の一端にも触れながら、これからの「借り暮らし」について、山下さんの意見を伺ってみました。


山下陽光
1977年生まれ。2010年、自身が経営する高円寺の古着屋「素人の乱シランプリ」にて、全商品無料の取り組みをはじめる。2014年、個展「山下陽光のアトム書房調査とミョウガの空き箱がiPhoneケースになる展覧会」を広島・鞆の津ミュージアムで開催。2015年、写真家の下道基行、編集者の影山裕樹とともに「新しい骨董」をスタート。現在、長崎県大村市在住。
http://blog.goo.ne.jp/bashop
twitter:ccttaa

 

#1 俺、別にこの冷蔵庫に愛着ねぇぞ!

―山下さんは、現在、生まれ育った長崎に暮らしています。

陽光:地元に帰って楽しいことは楽しいけど、やっぱり絶望的に若い人がいない。もっと面白くするためには、相当がんばらないとダメな気がして、まあ、それは自分がやらなくてもいいのかなって感じがする。僕の場合は、住む場所を変えていってる方が洋服は売れている気もするので。

―移動している方が売れるんですね。

陽光:長崎の前はずっと東京にいたけど、それだとたぶん「いつでも買えるわ」と思っちゃうんじゃないかな。今、普段は長崎にいて、東京にはたまにしか行かなければ、「今日しか買えないんじゃないか」って集まってくれるので。だから、子どもが小学校に上がるまでは、2か月ずつとかでアホみたいに引っ越ししまくりたいと思ってます。なんだけど、そこで決断を遅くさせるのが敷金礼金のお金がないということ、もうひとつは、今、使ってる冷蔵庫を次の家でも使いたいわけじゃないってこと。

―どういうことでしょう。

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陽光:冷蔵庫でもソファでも何でもそうなんだけど、もう、これじゃなきゃ絶対イヤだということは全然なくて。ただ「暮らし」がしたいだけなのに、動かすのがとにかく面倒くさいんですよ。だから、友だちが住んでる家と丸ごと交換できたら一番いいんですよね。

―家と家財道具一式はそのままにして、人間だけが入れ替わると。

陽光:そうです。それで友だちと家族構成が一緒だったら最高! って感じで。ほんとにこれじゃないと困るというものって、たぶんパソコンとか、僕だったらミシンとか、そんなにないと思うんです。あとは、自分が着る服くらい。昔はあったこだわりや所有欲がすっかりなくなった。

―服さえも最近はレンタルが盛んになってきたそうです。

陽光:らしいですね。服も自分を主張するためには超重要なものだったけど、もういらないですよね。「すごくよくて、すごく安いんだったら買うけど」って感じで、そんなにもうみんな興味がないでしょう。

―愛着のある物が何もないとは言わないけど、ソファも冷蔵庫もテレビもすべての服にも愛着があるかと聞かれたら、意外と違うものでも大丈夫ってものが増えているかもしれません。

陽光:だから、家ごと替えられたら、移動や引っ越しがもっと簡単になるはずで。「俺、別にこの冷蔵庫に愛着ねぇぞ!」ってわりとみんな思ってるんじゃないかな。

―移動にかかる手間やコストに愛着が見合わなくなってきた。

陽光:10世帯が住んでる共同住宅に車は10台もいらない、とかね。共有できるものはいっぱいあるなと思います。これもよく話すんだけど、「俺にしかできない仕事」っていうのもわりとどうでもよくて、コンビニでバイトした経験さえあったら、日本中どこのコンビニでも働けるんだからどこでも行けるわけで。「行きたいけど仕事が…」ってやたら言うんだけど、結局、移動しない理由を探してるだけ。まあ、やる人はやるし、そのためのハードルは今どんどん下がってると思います。「Airbnb」とかツールもいろいろありますから。

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―移動、引っ越し、移住、2拠点生活…そういったことがやりやすい時代になっても、思ったより人は移動しませんね。

陽光:そうですね。熊本で震災があって余震が続いていた時に、離れた土地のホテルや旅館が被災者に無料宿泊できますよって開放しても、動く人はそんなにいなかった。僕も「うちの家も泊まれるから熊本の人、誰でも来てください」ってツイッターで言ったら、善意だけの話だからものすごく拡散はしたものの、結局、誰からも連絡はなくて。それは当然、世話になるのが申し訳ないという気持ちもあるとは思うけど。

― ツイッターなどで拡散する情報ってそういう面もありますね。広まってるようでいて、実際に行動するまではつながらない。

陽光:ものすごい数のリツイートされても何の反応もなくて、たぶん指を指される方がまだいいんですね。インターネットまわりではバズるとかPV数とかよく言うんだけど、そうじゃなくて、たぶん「あなた!」って指を指されるほうがいいんです。「こいつのためだけに記事を書きました」みたいなことの方が意味があるというか、それしか信用したくないって感じ。誰もが見てもわかるようにって苦労して記事をつくってるんだけど、いや、もうそれは必要ないと思う。その“誰もが”に当てはまる人って、実はひとりもいないんですよ。

―マスに向けて届けてるつもりで、ゆるゆるの内容になってることが多いかもしれませんね。

陽光:仲良かった女の子の妹が病気になって、その妹のために雑誌を作ることにしたから「陽光さん、コラム書いてよ」って頼まれて、何回か書いたことがあるんです。これってもう手紙と同じだと思ったけど、それでも出会ったときのことを思い出しながら原稿を書きました。その雑誌は特に公表もしてないから、僕も現物を見てないんだけど、読んでみたいじゃないですか。そういう、“ひとりがひとりのためにやる”ってものが一番面白いと思うし、それってまだ無限に可能性がある気がします。

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取材は、大阪・名村造船所跡地にて。山下さんが参加された『DESIGNEAST 07』の合間にお願いしました。

文:竹内厚 写真:佐伯慎亮

 

何も売らないし何も買わない店や、“お金はもらってもいいし払ってもいい”発言など、次回も驚きの話が続々!


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。