山下陽光(途中でやめる)

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#2 屋根さえあればどこでもいい。

―山下さんのブログは「場所っプ」という名前で続けられてますね。

陽光:もともと東京で店をやっていて、お客さんが来ただけでお菓子をあげるとか、千円札を950円で売るとか、意味のわからないことばかりしてたら、雑誌に「狂った店がある」って書かれて、すごくお客さんが来るようになったんですね。だけど、その売上金で毎日、お客さんと飲んでたら、ただただ借金ができてその店は閉じちゃうんです。そしたら、またその雑誌から取材に行きたいって連絡があったから、「わかった、取材までに店をオープンさせるから来てくれ」と。

―ひとつの取材のために店をつくったと。

陽光:店をやってると常連の友だちが義理で買ってくれたりするんです。それで俺も実際、助かってたりするから何も言えず…。店があって他人と仲良くなるのは最高なんだけど、利害関係が生まれるのが許せねぇと思って、次の店は、何も売らないし何も買わない単なる場所。ということで、お店と場所で「場所っプ」にしたんです。

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―場所とショップの造語で「場所っプ」だったんですね。にしても、何も売らない店ってすごい…。

陽光:取材に来た人も、それが店だとはまったく気づけず帰っていきましたね。ただ土曜日の夜10時に集まって、お金持ってる人が酒をいっぱい買ってきて飲み会をやるってだけの場所で、何も売らないからゼロ円ショップとも呼んでました。その後、友だちが商店街の会長を紹介してくれたりして、「素人の乱」*が始まるんだけど、そういうことって今はもっと簡単にできるようになってきたと思う。たとえば、何月何日にコインパーキングで直売やりますって告知を流せば、来てくれるじゃないですか。

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山下さんが参加した『DESIGNEAST』会場でも、即席の直売ブースが立ち上がった。ちなみに「素人の乱」は、高円寺の商店街を中心に自然発生した店舗群。その後、各地に飛び火した。

―実際、誰もがスマホ持ってるおかげで、場所に対する感覚は変わってきましたね。どこだって集まることができる。

陽光:ほんとに、誰もこんなにスマホに熱中することになるなんて思ってなかったと思う。ツイッターにしても、どう考えても不便なのにずっと流行ってるし…。だから、ほんとに屋根さえあればどこでもいい。店で1日中待っていて客が5人しか来なかったとか、売上ゼロだったって言ってるよりはね。都心の駐車場代は高いけど、でも2時間だったら1500円とかでいいわけだから、そこで店とかをやれるようになっていけばいいのになと思ってる。トークイベントなんかも楽勝でできますよ。

―「新しい骨董」のメンバーとは、路上に即席の立ち飲み場をつくって、横断歩道を肴に飲んでましたね。

http://atarashiikotto.com/post/127321632185/

陽光:そうそう「裏輪呑み」ね。結局やってることは「途中でやめる」でも「新しい骨董」でも似通ってきていて、ただ、僕がすぐに飽きちゃうんだけど(笑)。

―山下さんが特にファッション系の人ってわけでもない。

陽光:ここ5年くらいは「途中でやめる」が売れて、完全にそれで生活してますけど、いつダメになってもいいかな。他より明らかに安いから売れてるんだと思うけど、僕が見つけたようなやり方を「いいね」って言ってくれる若い子が増えてきて、同じようにやる人を積極的に増やしてるんですよ。
だから、うちに遊びに来てくれた子と一緒に生活して、「途中でやめる」を手伝ってもらって、毎日いい料理といい魚を食べさせて、ものすごく接待して、最後にお金をバーンと渡して帰ってもらったその子が、自分でブランドをはじめて生活できるようになれば、その方が絶対に面白くなるじゃないですか。

―その話、最後にバーンとお金を「渡す」というのはなぜ。

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陽光:それほどのお金じゃないけど、修行だからタダ働き、インターンみたいなのはなしだと思ってるので。まあ、お金は渡さなくてもいいんだけど、最後に渡したら「もらえるんですか!?」ってなるし、もらったほうが面白いでしょって感じで。

―たしかに面白いですけども…。

陽光:最近は直売に呼んでくれて、お金を払うって言われても、逆にこっちからお金を払って「意味がわからない」って言われたりして。どっちもでいいなと思うんです、もらってもいいし払ってもいい。

―もらってもいいし払ってもいい!

陽光:最後の帳尻があって生活ができたらいいんだから。服の場合は、ダンゴとかといっしょで、原材料のお金が発生するのはしょうがないと思うんですけど、場所を使わせてもらうのとかって別に減るもんでもないから、払ってももらってもどっちでもいいかなって。

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「途中でやめる」

―ちょっとした物だったらわかりますけど、ことお金のことになると、なかなかそう言い切れる人は少なそうです。途端にケチになるというか、抱えこんでしまう。

陽光:僕も妻のところに入ってしまうとなかなか出せないので、自分が直売やったりしてる分には、なんとでもごまかせるという感じ。だけど、やっぱり誰もが「自分だけは」ってことを考えすぎてる気がする。それって残念だけど1ミリも新しくないし、みんな思ってるからね。そうじゃなくて、もっと周りが豊かだったら最高じゃないですか。だから、嫌なところにお金を払いたくはないけど、友だちにばんばんお金を払って、そいつのバイトやめさせたりってことのほうが面白い。

―「自分だけは」って話はそうかもしれません。

陽光:自分だけはお金をなるべく使わずに、他からお金をもらおうって考えとかもダメだと思う。つまんないでしょ、それ。1万円使って150万円稼ぐ方法を考えるんじゃなくて、1000万使って1020万稼いで、その20万円で暮らしたい。そんな原価の高い商売はどんな企業もやりたがらないから、やれるんですよ。

―まさに帳尻あってればいいという話。

陽光:“最小限の労力で最大の効果を”ってことをみんなが狙うんだけど、そこの席に入りこむのは、ちょっと優しい俺たちには不可能なんですよ。そうじゃなくて、“めちゃくちゃ苦労してちょっとしかもらわない”は、企業も誰もやりたがらないからね。そこで自分が好きなことやできることを思い切り安い値段でやれば、超喜ばれるから。僕の服がそうなんですけど。

―「途中でやめる」はたしかに安いです。

陽光:もっと安くしたいくらい。その住まい版みたいなものをつくれたらいいですね。

―すごい場所が生まれそうです。

陽光:ほんとこの何百年も「資本主義とセックス、流行りすぎだろ!」って感じですよ。だから、資本主義をスベらしたいんですよ、「まだお金って言ってんだ」って。僕が青春時代を送った90年代だと、どれだけレコードを持ってるかが話になったけど、もうまったく欲しくないから。「これ、俺のバンドの新譜」って渡されても、「いやごめん、いらないわ」ってくらいいらない。だから、あの頃のあんなに高揚した気分を殺せるんだったら、資本主義も殺せるんじゃないかと思って。

―誤解されそうですけど、山下さんの言ってるのは仙人のような世捨て人じゃないですよね。

陽光:アホみたいに金を使ってるんだけど、全然儲かってなくて、いいものをむちゃくちゃ安く売って、なんとか食えてんですよ、みたいな感じかな。

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文:竹内厚 写真:佐伯慎亮


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