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#3 もう札は配られた

#1 はこちら
#2 はこちら

陽光:最近、食べログをすげぇ見てるんです。食べログって有料会員になってます?

―いえ、なってないです。

陽光:有料会員になったら景色が全然違うんですよ。今の食べログアプリって有料会員だけが、評価の高いランキング順に店を見ることができるんですよ。だから、信号で止まるたびに現在地検索をかけて、出てくるランキング上位の店のリストを見てるともうたまんないですよ。早くお腹、減らないかなって。どこでも迷子になりたい感じで、街の歩き方も変わる。
けど、インターネットってすごくフラットだと思ってたけど、お金を払った人だけが優位な場所に立つような感じになってきてますよね。

―無料でも十分使えるから気づいてないけど、実はお金払ってる人だけが見てる景色がある…って知らないうちに増えてそうですね。

陽光:まだふわっとしかわかってないんですけど、僕の中でツイッターとかブログって、現実と地続きの感じがあって、だけど、食べログはちょっと違うなって。書いてあるコメントしか見ないから、それを書いた人が男でも女でも右翼でも左翼でも、あっそうなんだって感じでしか思ってなかったけど、見続けるとやっぱりそっちはそっちの世界があんのかっていうのがわかってきて。

―食べログに生息するレビュワーの個性が見えてくると。

陽光:そうです。こいつが言うんだったら間違いないってレビュワーの人が見えてきて。で、ちょっと話が飛ぶんですけど、その人が別に生きていても死んでいてもいいっていうか。その人の言葉はネットのそこでは生き続けてるわけだから。

―どちらにしても直接会うわけでもないですからね。

陽光:そうだし、その人がレビューを書いた店を訪ねたら、その人の気配が感じられるんですよね。その人がインターネットに投げた球がその店にかぎっては漂ってる。それって太宰治が通ってたというバーに行くのと違わないんだけど、太宰治と違って食べログのレビュワーは思いっきり匿名だから、ネットの中で生きてる感じがして面白いのかな。

―ネットの匿名性とネットの個性が平行に走ってる感じでしょうか。

陽光:目の前でアイスコーヒーの写真を死ぬほど撮ってる奴がいて、「なんだこいつ」ってその場では疎外感があったとしても、それを食べログに書きまくって神がかった扱いをされてるかもしれない。と思うと、みんながネットサービスとどう距離をとっていくのかって感じに変わってきてるのかなって。

―食べログに限らずですね。

陽光:そうそう。それといっしょで、僕の本を読んでメールをくれる人の人間性とかまで最初は考えてたんですけど、今の時点ではメールのやり取りだけだから、そこで人として間違えてなければ、その人のプライベートは別になんでもいいかなって思ってきたんですよ。まあ、そうやってやり取りをはじめると面白い人はいっぱいいますよ。

―それも全国各地に。山下さんのブログで紹介されていた、「拾った石に絵描きてぇ」ブログを書いてる北海道の方、面白かったです。

陽光:彼女は天然で激ヤバですよ。僕に相談のメールを書いてる途中でもう飽きちゃって、石に絵描くんじゃなくて、石を削ることにしましたって書いてきて。ブログを頻繁に更新してるんですけど、それもめちゃ面白い。

―削った石でリングやピアスをつくってましたけど、それもよかった。

陽光:ほんとに。彼女がネット通販のページをつくりましたってときに、僕も最初に買ったし、友達も買ってました。最近、僕の本を北海道の人がすごく買ってくれるんですよ。だから、もしかしたら彼女、影響力もすごくあるんじゃないのかって。何の仕事してる人が知らなくて、OLぽいんですけどね。

―決して著名人ではないけど、すごく面白いことしてる人ってあちこちにいるんだろうなと思います。

陽光:やっぱりノリがいいんでしょうね。面白いと思ったらすぐにやるし、頼まれてもないのに毎日ブログ書いて。

陽光:震災前後くらいに、坂口恭平も松本哉もphaさんも、いろんな人が本を書いて、資本主義に巻きこまれない自活の道が見えたんだけど、結局、「オレはあの人たちほどすごくないし、生活してかなきゃなんないし」って距離を置く人が結構いた。けど、やっぱりそこで影響を受けて、実践してる人があちこちに育ちはじめてるんじゃないかって気がする。

―『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』『現実脱出論』『素人の乱』『持たない幸福論』『しないことリスト』…そうした書籍は書店でもコーナーがつくられるほど出ています。

陽光:本を書いた人たちの驚愕のセンスってあるんだけど、それがもうインターネットの力で解決できることもさらに増えて。となると、もう全員に札は配られてるんだなって。ほんとにもう、やるかやらないかだけなんだなって感じがします。

山下陽光『バイトやめる学校』(タバブックス)。

文:竹内厚 写真:平山賢


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