バンコクの
路上おにぎり屋から見える景色

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突然ですが、舞台はタイのバンコク。
通り沿いを埋め尽くすように屋台や露天商が軒を連ねる風景は、自由さといい加減さを残すこの町の象徴だ。でも、そんな風景もこれからはどんどん変わっていくかもしれない。2016年以降、タイ政府はそれまで黙認してきた路上営業の取り締まりを強めている。

そんな中、路上で手作りのおにぎりを売り続ける日本人がいる。半纏に天秤棒姿の馬場育宏さん、43歳。

 

#1 タイの路上が変わりはじめた

―路上おにぎり屋はいつから?

馬場:2015年10月から始めたんで、そろそろ1年半になりますね。バンコクに住みはじめてからは3年、その前は大阪に住んでました。

―そもそもどうしてバンコクの路上でおにぎり屋を始めたんですか。

馬場:細かく話すと長くなるんですけど、嫁さんが南船場でタイ料理をやってて、いつかタイに住んでみたいって昔から話をしてたんです。それで2014年の春に店を閉めて2人でこっちに来ました。ただ、これっていうアテがあったわけでもなかったし、タイ語もまったく話せなかったから、コールセンターのバイトくらいしかできなかったんです。そうこうしているうちに1年くらいあっという間に経っちゃって、これじゃ何しに来たかわかんないなと。それでとにかくできることから始めてみようって感じで、考えて、行き着いたのがおにぎり屋でした。

―もともと飲食の仕事の経験があった?

馬場:ないです。というか、料理自体あまりしたことなかったですね。でも、おにぎりやったらギリギリできるかなって。いまでもクックパッドとか見ながらやってますよ(笑)。

―最初からこの天秤スタイル?

馬場:いや、はじめは自転車に小さな台をつけて売ってました。住みはじめた頃にたまたま改造自転車でバーをやってるファラン(白人)を見かけたことがあって、それがすごくカッコよかったんです。それで自分でもやってみたいなと思ったんだけど、外国人がお酒を売るのは法律的に難しくて。まあ、そのファランもたぶん違法やったと思うんですけどね。あと、自分は大阪で10年くらいメッセンジャーやってたんで。

―ああ、それで自転車。でも、なんでやめちゃったんですか、自転車?

馬場:去年の年末くらいから警察の見回りが厳しくなったんです。それで機動性を考えたらこっちの方がいいかなって。

―根本的なことを聞きますが、屋台とか露天商といった路上販売そのものが違法なんですか。もはやタイの風物詩になっていますけど。

馬場:違法というか、いちおう正式には認可がいることになってるんですけど、ほとんどみんな勝手にやってるような状態。それが去年の年末くらいから状況が急に変わって、いわゆる屋台街と言われる通りでも営業許可が取り消されて、警察が見回りに来るようになりました。実際、ずいぶん数は減りましたよ。

―じゃあ、馬場さんが路上おにぎり屋を始めた途端に状況が変わった。

馬場:そうですね。だから、正直どうしたらいいのかよくわかんなくて、とにかく今はなるべく怒られないように、見回りがきたらすぐ移動できるように天秤でやってます。自分の場合は、朝の7時くらいから始めて、だいたい9時くらいには売り切る感じなんで、ほんと2~3時間でいいから時間をくださいっていう。

おにぎりは一個25バーツ(約75円)。一番の人気はサーモンマヨネーズ。

―まさに時代の変わり目を路上で見てる?

馬場:そうですね。去年の10月には王さまも亡くなったし、ちょうどそういう時期なのかなと。僕ら外国人にとっては、路上で物売ってる状況って活気があって楽しい。でも、タイの人からしたら、社会としてもっと上を目指したいという想いがあって、全体的にクリーンにしていこうというのもわかります。もちろん、ちょっと寂しさありますけど、仕方ないことかなと。そういう狭間にいて、とにかく今はこの街でなんとか生き延びなあかんなと、そんな感じです。

文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:タウィーワット・ソンプラサートスリ

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