プロの賃貸生活者の手を借りる

吉原:ビジネスとして展開していける確証は芽生えましたけど、ただそれでは採算が合わないので、社内ですべてつくれる体制を整えました。デザインは素人の方に任せて、あとは社内でやっていくっていう。

―デザインは素人に任せるのですか。

吉原:建築設計のプロフェッショナルではない方ですね。
反対にプロの条件ってありますよね。数をこなすための黄金率を見つけなければいけない。だから、デザイナーズマンションって呼ばれる建物を見ても、僕には同じものにしか見えなかったんです。

―デザイナーズマンションは、確かに本来の意味でのデザインはないことが多いですね。

冷泉荘屋上からの眺め。川端商店街のアーケードが目の前に見える。

吉原:そうです。ある程度の戸数を手がけることになると、デザインに限界がある。
そこでまず、うちの嫁にデザインをさせてみたら、すごい部屋ができたんですよ。ドイツにあるオフィスのような。嫁は翻訳業なんですけどね。
そのときにわかったのは、彼女は設計についてはアマチュアでも、賃貸生活者としてはプロ。長年、お金を払って暮らしています。そういう人には必ず理想の間取りや部屋の様子を持っているんだなって。

―プロの賃貸生活者に目をつけたんですね。

吉原:ただ、その理想ってひとつだけで、アマチュアにはふた部屋目はつくれないんです。だから、うちの賃貸物件は50部屋あれば、50人の人が関わっています。その50人の思いや夢のようなデザインを実際に実現しているので、リノベーションミュージアムと呼んでいます。

冷泉荘に入居する靴の工房、靴づくり教室の「shoe lab noppo」を見せてもらった。

冷泉荘だけでなく、吉原住宅が抱える山王マンションでは45室中33室、新高砂マンションでは58室中37室で異なるデザインを実現。言われてみれば、確かにリノベーションのミュージアムと呼ぶにふさわしい。

冷泉荘の管理人、サンダー杉山氏。こんなにキャラ濃いめのビル管理人がかつていただろうか。

「プロの賃貸生活者」が発想して、吉原住宅の社員がマネジメントしながら、ビル再生にかかわる経験と技術を蓄積。今ではそのプログラムを活かした物件再生を請け負う、吉原さんが代表を務めるスペースRデザインもフル稼働している。

吉原:ただ、そこでも物件から学ぶことがありました。お客さんにリノベーションした部屋を紹介して、それから古いままの既存の部屋を紹介したら、既存の部屋を申し込む人が続出したんです。

―リノベーションしていない方がいいと。

吉原:そうです。まさに公団タイプの部屋が多くあった「新高砂マンション」では、多くの人が既存の古い部屋を気に入って、契約していきました。だから、LDKの発明ってやっぱりすごいんだなと思うんです。

―でも、今までもあった部屋なんですよね。どうして突然、人気物件になるんでしょう。

サンダーさんが常駐する冷泉荘事務局。にぎやか。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。