吉永健一(団地不動産)

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#2 団地のよさを知っているのは誰か

吉永さんは、「団地不動産」の中ではオススメの団地を選んで紹介しているといいます。今回は、団地に生まれる違いをもう少し探ります。

―ひと口に「団地」と言っても、いろんな違いがありますね。

吉永:まず、URの団地、福祉政策としての公営の団地、社宅、分譲の民間の団地って、そもそも方向性がまったく違ってますね。

―そこの混同はかなりありそうです。

吉永:世の中には公営が圧倒的に多いですから。建てられた後の話ですが、たとえば分譲団地だと管理組合が維持しているので、そこが真面目にメンテナンスをやってるかどうかで、団地の質にも差が出てきますね。

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―建てられた後の使われ方による違いも大きそうですね。URだと一律的に管理していますから、そこでの違いはありませんか。

吉永:なんだけど、同じURの団地であってもやっぱり維持管理の違いもあると感じますね。

―ちなみに今回の取材場所として、URの富田団地をオススメいただきました。

吉永:だって富田団地は昭和40年代の傑作でしょう。

―当然でしょって感じですね(笑)。

吉永:建築的にもとてもいいですし、富田団地は自治会がものすごくきちんとしてるから、季節ごとの行事なんかも盛んですしね。関西の昭和40年代の団地では、総合的にここがいちばんだと思います。

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富田団地は1971年入居開始、2647戸ある大規模団地。最寄りの高槻駅からバスで15~20分というアクセスながら人気はとても高い。

―「何年代の団地がいい」って言い方も時々、耳にしますけど、年代による違いはどうして生まれるんでしょう。

吉永:そこは建築の視点かもしれません。昭和30年代は、団地の建設がはじまったばかりなのでまだ試行錯誤もあるんですが、昭和40年代になると「標準設計」といって設計も固まってくるので、緑の配置や建物もきちんとしていて安心できます。ただ、住む立場からすれば、昭和50年代に建てられた団地の方が設備がより今のものに近くなってくるので、誰にでもオススメできるかな。40年代の団地だと、洗濯機置き場がないところがあったりもするので。

―平成に入ってもUR団地はつくられてますよね。一般には新しい方がいいと思われるのでは?

吉永:うーん、だんだん普通のマンションと変わらなくなってくるのもあって、僕はあまり興味が向かないな。あと、大量に団地を供給するために「標準設計」という仕様が用いられてたのが、ある時期から、「もうそんな時代じゃない、個別に設計しましょう」となったんです。普通に考えると、自由に設計する方が面白くなりそうですけど、標準設計という枠のなかでなんとか工夫して設計していた時代の団地の方が面白く見えるんですよ。

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―そこはちょっとマニアな目線が入ってますか。

吉永:まあ、それもあるかもしれませんけど、たとえば、ここ富田団地は普通にすばらしい住環境で、2千戸以上の住人がいます。「団地不動産」では、申込フォームに団地がどれくらい好きかをチェックする欄を設けていて、当然、「大好き」「好き」という人が多いんですけど、3分の1くらいは「好きというほどでもない」という人たちですよ。団地好きだからとかじゃなくて、条件や環境などを冷静に吟味した上で、みんな団地にたどり着いているんです。

―当然、リアルに団地を選んでるひとがいちばん団地のよさに気づいてるんですね。

吉永:そう。だから、僕の大きな課題は、団地が「好きというほどでもない」という人の中に、団地と相性のいいはずの人が結構いるのは間違いなくて、その人たちをいかに団地に連れていくか。お金をたくさん使って贅沢しようというよりは、身の回りでいいものを見つけて暮らしたいという人たち。そういう意味では、OURS.で伝えようとしていることは、団地好き予備軍を掘り起こす可能性があると思ってますよ。

―ありがとうございます。OURS.でテーマに掲げている「カリグラシ」という観点から団地を語るとすれば、何か言えることはありますか。

吉永:やっぱり身軽さはありますよね、賃貸に住むほうが。その場合、引っ越しをするごとに物件を探すのが大変かなと思いますが、UR団地だとそこが少し楽じゃないですか。まずお金の面でも、礼金や更新料がなくて、URからURへの引っ越しだと敷金を引き継いでスライドできますから。その都度いろんな土地で住みたいという人にとっては、やっぱりこれはすごくいいシステムで、「団地不動産」のお客さんでもUR団地からUR団地へと住み替えてる方は結構いますよ。賃貸ではUR以外は住む気にならないって。

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―なるほど。

吉永:そういうお客さんが言ってるのは、場所の違いはあっても設備環境や住み心地の質は揃っているので、安心して選べるんだと。だから、転勤族という人たちでもURは多いんじゃないでしょうか。

―そうか。新しい土地、新しい環境へと住み替えていく中で、住まいの質までバラけていると大変だけど、住まいはUR団地に決めておくだけでも、すべてゼロからはじめるわけではなくなるので、気持ちの面でも随分違ってきそうですね。

吉永:そうなんですよ。そういうところでも、UR団地を選んでるのはやっぱり普通の人たちで、マニアじゃないんですよ。

―今日の話を聞いて、団地に対するイメージや先入観がかなり解きほぐされました。いつの間にか団地のイメージが微妙なものになっていると感じてましたので。

吉永:公団の団地ができはじめた頃は、どちらかといえば、お金を持ってないと入居できない集合住宅だったのが、それほど家賃を変えずにいる中で、1980年頃に世間の相場が追いついてきて、公団団地の家賃に割安感が出てきました。昔から団地に住んでる人に話を聞くと、「団地の空気がその頃からちょっと変わった」っていうんですね。もちろん、単純に判断できませんけど、家賃が相場より安く感じられることで“安かろう悪かろう”と思われているとしたら、団地にとってもったいないことですよね。

―たしかにそうですね。

吉永:だからね、URが「0円」を強くうたってる広告がありますよね。礼金、更新料、手数料0円なのはそのとおりなんですけど、そこで“安かろう悪かろう”って誤解を生むこともあるんじゃないかな。もうちょっと、住み心地のほうをアピールすればいいのにって思っちゃいますね。

―きっと家賃と住み心地の話、両方をうまくいいバランスで伝えたらいいんですよね。

 


インタビュー後に富田団地をすこし散策しました。

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小学校を取り囲むように団地が建っているせいか、子どもの姿をあちこちで見かける。

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庇部分の色はエリアごとに塗り替えられている。

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エレベーターが新設された住棟も。

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木々の成長ぶりにも団地の歴史が伺える。

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富田団地の中には、1989年築の建物もいくつかあり。

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団地内の商店街も充実。プラモ店がいまだ健在。

文:竹内厚 写真:Ayami


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。