# # # # # # #

 夫の仕事の都合でバンクーバーに住んで8か月になる。
 バンクーバーで驚いたのは、物が大きく部屋は広い。なにせバンクーバーのあるBC(ブリティッシュ・コロンビア)州の中に日本がすっぽり入るのに、人口は3分の1。たとえば、トイレは日本だったら2つ3つ個室を作りそうな広さのスペースに、便器が1つ。ウォッシュルームと呼ぶのも納得する。バスルームでは、シャワーの位置が高くて手が届かない。
 そして家賃も高い。理由は部屋が広いからじゃなくて、富裕層による不動産投資の影響だそうだ。こちらでスタジオと呼ばれている、一部屋の中にベッドルームもキッチンも備え付けの部屋は家賃月1000ドルが相場。今はカナダドルが80円台まで下がっているけど、ここ1年は90円台から100円台を前後していた。だから日本で言うワンルームが家賃約10万円だと考えると、どれくらいのものかわかってもらえるだろう。ちなみにサンフランシスコはその倍と聞いた。

ota-1
バンクーバーでは木造家屋が多く、木造の集合住宅もある。去年の12月に地震があり、揺れたらミシっと音が鳴って冷やっとした。

 さらに驚いたのが日本人の多さ。バンクーバーは海外移住先や語学留学先として人気があって、ダウンタウンを歩けばすぐに日本語が聞こえてくる。現地にはそんな日本人を顧客とする移住コンサルタントや留学エージェントがたくさんあり、駐在員や語学留学の学生向けに引っ越しや家探しをサポートするサービスもある。それを使えば、家探しや契約や現地でのインフラ契約はスムーズにできる。

ota-2
日本食レストランに使われる日本の地名は圧倒的に「大阪」が多い。「食い道楽=大阪」のイメージなのだろうか。お寿司はノリを内側に巻いたロール寿司が主流。

 そうなると、海外引っ越しのいちばんの難所は物の整理と移動。それだけは当人じゃないとできない。残念ながら家具付き物件を借りることはできなかった。さらに家具を船便で送るのは時間もお金もかかる。飛行機に乗せられるのは、トランク2つと手荷物1つだけ。片方のトランクには、必須と言われた日本から炊飯器を忘れずに。こうして身一つで引っ越してきた。
 物は減らすときも悩むけど、増やすときも悩む。夫の仕事の都合で滞在予定は2年。その間に必要な家具と生活用品を買う。そうなるとどうしても実用性とコスパ重視で、お世話になるのは、バンクーバーといえどもIKEAとダイソー。
 こうやって断捨離と爆買いという両極端のことをすると、つくづく生活は物との闘いだと思う。そして、日本とバンクーバーの物との付き合い方の違いが見えてくる。
 日本は部屋が狭いわりに物を買えという圧力が強く、処分するときの選択肢がすごく少ない。買うか捨てるかくらいしか選択肢がないから、とにかく物を増やさないように生活しようとする。
 一方、バンクーバーの人はとにかく物を捨てない。サスティナブルな社会を目指し、市をあげて2008年から2020年までにゴミの量の半減を目指している影響はあるだろう。まずいらないものは、「寄付」「あげる」「売る」のどれかで処分しようして、とにかく捨てない。

ota-3-2
春から秋にかけて天気のいい日の土日には、毎週のようにガレージセールが開かれている。

ota-4-1
中古品を売っているスリフトショップでは、ときどき売り物になるのかと思うような物にも出会う。

 寄付はものすごくカジュアルにできる。バンクーバーの街角にはワンブロックに1つくらい「ドネイションボックス」と呼ばれている大きな鉄製の箱が置いてある。そこに街の人がいらなくなった古着や本を入れる。ドネイションボックスを設置しているのは病院やホームレスに関する団体が多い。定期的に回収車がやってきて、その団体が経営するスリフトショップで販売し、売り上げが収益になるという仕組み。

ota-5-2
ドネイションボックスで回収しているのは衣料品と本が多い。

 あげたり売ったりするのも盛ん。移民社会で人の出入りが多いからだろう。物をいらなくなる人と欲しい人の需要と供給がわりと一致している。昔は口コミとか新聞に広告を載せていたのが、今はインターネットのクラシファイドサイト(個人広告を集めたサイト)に場を移し、「あげます」「売ります」と譲り合っている。
 日本人向けのフリーペーパーや新聞、インターネットサイトにもそんなコーナーがあって、これから日本へ帰るという人が不要品情報を載せている。家具に車、季節の服やスキー用品はよく見かける。なかには日本の化粧品や食品まである。

ota-6
日本に帰るご近所さんからもらったキッチン用品。ホームベーカリーまでいただいた。

 そんな暮らしぶりになじんだせいか、物と闘う気が失せた。結局日に日にうちには物が増えている。引っ越しで物と格闘する憂鬱さを忘れたわけではない。でもいつか来る帰る日のことばかり考えて暮らしていてはつまらない。せっかく縁あって住むことになったのだ。しばらくはこの国のスタイルに合わせておおらかにいこう。

太田明日香(編集者)
編集者・ライター。バンクーバー在住。『スペクテイター』35号にバンクーバーの発酵カルチャーの記事を、『仕事文脈』7号にバンクーバーでの主婦生活エッセイを書きました。ブログ(「こけし日記」http://kokeshiwabuki.hatenablog.com/)で観光ガイドに載らないバンクーバー案内を書いています。

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。