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公共施設が好きだ。役所、公民館、市民会館…僕の生まれ育った大阪・千里ニュータウンにある公共施設は、レトロというには新しく、キレイというにはやや古い。中途半端な風情なのだけど、その味気ない雰囲気が妙に落ち着くのはこどもの頃にちょっとした遊び場になってたからかもしれない。
そういえば近所の公民館でやってた「みどり文庫」って今もやってるんだっけ? と文庫の運営メンバーだった母に聞くと、数年前になくなったよ、とのこと。がーん。こどもの頃は毎週楽しみに通ってたのに。いまニュータウンのこどもはどこで本を読むんだろう。

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みどり文庫での読み聞かせ(2007年)

僕 みどり文庫って誰が始めたの?
母 公民館にある絵本の貸し出しをしませんか、って館長さんの提案で、友達づてにお母さんも声がかかったんよ。
僕 じゃあ、お母さんは初期のメンバーやったんや。
母 結婚してここに引っ越してきた当時はまだ友達とかたくさんいなくて、家に絵本はいっぱいあるから、「家庭文庫」をしたいなあと思ってたの。絵本の好きな子、うちに見に来てもいいよ、というふうにしたいなと思ってて。家庭文庫をしてる人は、東京には松岡享子さんとか松谷みよ子さんがいたけど、こっちにはあまりいなくて。自分のこどもも小さくてなかなか踏み出せなかったところにみどり文庫に誘ってもらったから、ちょうどそんなことしたかったのよ〜って手伝い始めたの。
僕 うちの絵本の数、すごいもんね。この本棚によく全部収まってるね。
母 収まってないよ。はみ出してる(笑)。良太はここにある本全部読んだよね。
僕 うん。
母 あ、これは世界のおやつの本。
僕 好きやった。おいしそうやった。食べたことないしどんなものか想像するしかないけど。
母 ピサンゴレン。
僕 バナナフライ。
母 アメリカンおこし。見てたらおなかすいてくるね。

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山口家の本棚

母 みどり文庫の初期はボランティアのお母さんが20人ぐらいいたし、利用するこどもも90人くらいいた。
僕 すごいね。
母 すごくにぎやかだった。友達に誘われて来る子とか、近所の小学校のあるクラスはほぼ全員が来てるという時もあったし。「わたし、文庫習ってる」って言う子もいた。
僕 習い事か(笑)。僕も文庫で友達と待ち合わせして、隣の公園で遊んでまた戻ってきて本読んで、とかよくしてたなあ。
母 水曜日だからいいんだよ。(小学校の授業が)お昼までだから。給食食べてすぐ帰ってきたでしょ。
僕 文庫に置く本はどんな基準で選んでたの?
母 こども達のリクエストを聞いて、人気の作品の続編を買ったり、あとは買いにいったメンバーの趣味で。
僕 じゃあ、ほんまに自由やったんや。何かの思想があったわけでも教育方針があったわけでもなし。予算はどこから?
母 吹田市立図書館から。新しい本が40冊買えるくらい予算をもらえた時もあったかな。でも小学校でも図書活動が盛んになって、お母さん達の絵本の読み聞かせが始まったりして、文庫に来る子が減ってきたの。学校の先生は文庫の活動のことを、いいことですねーって言ってくれてはいたけど。それに、駅前に新しく図書館ができたから、みんなそこで借りるようになったし。
僕 文庫の人気がなくなったというよりも、役割がなくなった、っていう感じ?
母 そう。同じ文庫でも北千里にある「青山台文庫」は正統派で、あそこは本当にすごい。代表の正置さんはすごい研究してはるし、自分の子供にどんな絵本を与えたらいいのかわからない若いお母さん達が青山台文庫へ行くと色々と教えてもらえる。一方でみどり文庫は自由で、勉強会もしないし、ただ本の読み聞かせをしてあげるくらい。(こどもがたくさん来て)忙しかった時は本を読む時間もなかったし、ヒマな時は本を読まずにおしゃべりしてて。当番は二人でやってたから。
僕 そういうのが楽しいからできるんやね。

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みどり文庫のポスター

母 若いお母さんが赤ちゃんを連れてきて「この頃こんなんで困るんです〜」って子育ての相談をしに来て、「私たちも通ってきた道やから、大丈夫よ〜」って先輩お母さんとして話を聞いたりしてたの。引っ越してきたばっかりで知り合いがいないお母さんは、そこでお友達ができたりね。
僕 今はそういう場所ってあるのかな? 駅前にできたとことか?(阪急山田駅前の「子育て青少年拠点 夢つながり未来館」。図書館や子育て支援施設が入っている)
母 うん。今は駅前のところに行ったら保育士さんもいて相談に乗ってくれるし。部屋を借りてお誕生会したり、そんなのもできるみたいよ。
僕 みどり文庫がなくなって、本はどうなったの?
母 寄付された本は、がんばって続けてる吹田市内の文庫さんにもらってもらって、それ以外は吹田市立図書館に返却。
僕 みどり文庫でお母さんたちがやってた人形劇の人形とかは?
母 今は「お話しサークルシュシュ」になってる。
僕 シュシュ?
母 素人劇団だけど、(吹田市内の)あちこちに声かけられて公演に行ってるらしいよ。「シュシュ」はフランス語で、響きがかわいいから。
僕 しゃれてるな。シュシュはみんなが自主的に?
母 うん。シュシュやみどり文庫での本の読み聞かせは、たとえば(絵本には書いていない音をアドリブで)「びよーん」という音を出せば子供も「びよーん」ってマネするし、反応がすごくよくて。もちろん作者の思いをそのまま伝えようとしたら、途中でセリフを変えたりしたらいけないんだけどね。
僕 子供の反応にあわせてアレンジできるのか。
母 もちろん書かれてある通り読むのが正しいやり方だけど。
僕 みどり文庫は「本の貸し借り」と「読み聞かせ」のふたつの機能があって、文庫はなくなっちゃったけど、「読み聞かせ」だけでもシュシュっていうかたちで残ったのはいいね。
母 うん。
僕 みどり文庫に通ってたこどもが大物になったりせえへんかな。インタビューで「みどり文庫があったから今の僕があるんです」みたいなこと言うてくれたりして。
母 ねえ。
僕 そんなことインタビューでわざわざ言わないか(笑)。

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お話しサークルシュシュ

現在、千里ニュータウンにある幼稚園で保育士として働く母は、体力勝負の仕事だからいつまでできるかなあと言う。でも楽しそうにこども達に本の読み聞かせをする母の姿を見ていると、自宅のあの絵本棚を開放して「家庭文庫」を始めるのも時間の問題かもなあ、と思った。

 

山口良太(グラフィックデザイナー)
1983年大阪・吹田市生まれ。slowcampという屋号で舞台のチラシなどのデザインや、ミュージシャンや俳優の年賀状を展示する『音楽と演劇の年賀状展』を企画したりしています。みどり文庫では『ズッコケ三人組』『かいけつゾロリ』シリーズが好きでした。
http://nengajoten.net/

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。