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築50年を超える文化住宅「前田文化」を「壊すでもなく、作るでもなく」さまざまに活用。もと力士が壁を解体したり、劇団による解体公演、解体工事の騒音と楽器演奏による「騒音コンサート」など。http://maedabunka.com

9月9日

昨日から福島県にいます。前田文化として制作した「遭難ファイター」という、遭難を擬似的に体験できるマシンをアートフェスティバルで発表しにきました。体験者は広さ1畳分程度のマシン本体に、事前に僕らが福島の「湯の岳」という山で遭難した映像を見ながら48時間滞在し、食べ物と飲み物は限定した量をバックパックに入れて持ち込み、トイレは「排便ファイター」というユニットマシンの中で行いながら「遭難」をバーチャルに体験できるという装置です。「遭難」というより「軟禁」じゃないか、という指摘もありましたが、福島での遭難ファイターが稼働している様子は前田文化のWEBサイトとFacebookで48時間中ライブ配信してますので、それを見ると理解できるかもしれません。
この作品の制作期間は約1ヶ月でした。今まで建築内装の仕事をしてきましたが、内装は「人が気持ちよく生活する」ことに重きが置かれています。ですが、この「遭難ファイター」の内装は「人が少しだけ苦しむ」ための内装なので、貴重な経験ができたと思います。例えば、縦の長さを150cmにすることで、身長170cmの男性が寝る時、ちょっとだけ足が伸ばせないという状況を作りました。

9月10日

「遭難ファイター」稼働の最終日。48時間、遭難ファイターの中に閉じ込められていたのは野崎君という前田文化を一緒に運営してきたメンバーですが、最後の方では明らかに「拘禁反応」が出てしまいました。一つは、「的外れ応答」という、例えば【自分の苗字が「タカハシ」であるのに「タカシ」と答える】ような症状です。遭難ファイターの中にあるモニタに文字を映して彼に質問を送っていた際、「エルチキ、ナナチキ、ファミチキ、どれが一番好き?」という文字に対して、「ファミチキはわかるけど、エルチキとナナチキって何だろう?」と応えていました。たぶん日常生活で目にする文字は「Lチキ」と「ななチキ」なので、拘禁反応によって文字の処理能力が狂ったのではないかと思います。その他にも、「毛むくじゃらの男とつるっぱげの男、ルームシェアするとしたらどっち?」という質問の文字に対しては、「『とつるっぱげ』って何や?『トゥルっぱげ』ってことか?」という応答があり、接続詞の正常な認識ができないということもありました。ちなみに、野崎君は「毛むくじゃらの男とはルームシェアはしたくない、毛をたくさん床に落とされるから」と言ってました。

9月11日

昨日の深夜に福島から前田文化に帰ってきました。48時間狭い空間に閉じ込められていた野崎君は、そのまま前田文化の床の上で寝ていたようです。夜、こんなメッセージが届いていました。「広いスペースなのに、足を曲げて寝る癖がついていることに気づきました」。
レンタルしていたトラックやwifiなどを返却したり、制作で荒れていた前田文化の工房スペースを整理したりしていました。48時間、Facebookで生中継し続けるという企画だったので、ポケットwifiをレンタルしていましたが、まったく使い物にならず、急遽、福島県いわき市にあるソフトバンクショップで無制限で使える据え置き型のwifi機器を契約しました。3年縛りの契約をし、そのおかげで48時間、途切れることなくネット中継することができました。
前田文化の2階に住んでる「モーリス」という男性がフラフラになりながら、訪問看護の女性と一緒に下に降りてきました。「39度の熱が出ている」とのこと。彼は数ヶ月前から大腸ガンになって人工肛門のチューブをお腹から出していて、どうやらそこに雑菌が入って発熱しているようです。

9月12日

今週末から前田文化の新しいプロジェクトが始まるので、その準備をしています。先日、大阪を直撃した地震と台風によって前田文化の外壁はボロボロになり、クラックどころか一部は崩壊していました。さすがにこのままだといつか事故が起こって人に迷惑をかけてしまいます。専門家に言わせれば、外壁のモルタルを全部落とす必要があるとのことですが、見積もりをとると100万円以上の金額になるので、なんとかしてお金のかからない方法で短時間で外壁の補修と補強をするプロジェクトをすることにしました。「なんとかして」というのは業者に頼まずに自力でなんとかする、ということ以外の何物でもないです。
(1)100平米以上の外壁モルタルをハンマーで叩いて落として、その瓦礫を廃棄処分する。(2)その上に下地と板材を貼り付けて、波板や左官で再び仕上げる、という作業になります。専門業者にたくさんのお金を払って短時間でやってもらうか、その何倍もの時間とエネルギーをかけて自分たちでやるか、悩んだ末に後者を選択しました。地獄を選ぶのが前田文化だろう、という理由です。
熱を出していたモーリスと少し話しました。「訪問看護の人に医療用のマスキングテープ買ってきてくれ言うたら、ホームセンターで塗装用のマスキングテープ買ってきよったわ。ボケが!」。

2018年4月1日にスタートしたリレー日記です。1週間単位でさまざまな方に暮らしの日記を執筆いただいています。

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。