築50年を超える文化住宅「前田文化」を「壊すでもなく、作るでもなく」さまざまに活用。もと力士が壁を解体したり、劇団による解体公演、解体工事の騒音と楽器演奏による「騒音コンサート」など。
http://maedabunka.com

9月13日

午後から前田文化の長年の協力者である府議会議員がインターン生を連れてやってきました。彼は先日から前田文化の空き部屋を「簡易宿泊所」として運営するという提案を持ってきており、色々と準備を進めています。「は!? 前田文化が今さらゲストハウスみたいなことするのか」と、今までの行いを知ってる人は思うかもしれません。少しずつですが、前田文化というプロジェクトが、僕自身の趣味のような位置付けから複数の意思のある個人が主体となった仕事のようなものとして実態が変わりつつあり、その資金源を確保する事業を始めるべきだろう、というのが府議会議員の理屈です。
今まで前田文化の根幹を担ってきた事業としては「空き部屋をリノベーションして活用すると見せかけて」解体工事自体をパフォーマンスにしたり、空き部屋をピンホールカメラに作り変えたり、部屋で素振りを1000回したらギリギリ柱を傷つけないコンパクトなスイングを身につけることを実証する、そんなお金にならない取り組みを展開し、そのおかげかどうかわからないですが、現代アート関係の仕事がきたりする状況がようやく始まったようなところがあります。きっと、社会の需要を満たすために「空室活用」や「リノベーション」を餌にしてる不動産や建築、コミュニティ的な領域に飽きた人たちがいて、「空き部屋をリノベーションして活用する」という飽和したテーマを「嘘」というか「フリ」にした前田文化の取り組みを面白がってくれているのだと思いますし、僕自身が一番楽しんでいます。そしてここにきて、そのテーマを忠実に守った事業を行うというナンセンスな状況に戸惑っているのは事実ですが、今のところ、定期的な収入は2階の住人からの賃料しかない状況なので、仕方ないのか、と悩んでいます。5年前からずっと前田文化の活動を見守ってきてくれている府議会議員の彼は、前田文化なりのユニークな簡易宿泊所をやればいいと言いますが、きっと「簡易に宿泊できない宿泊所」の方向にしかならないので、今のところは黙っています。
その府議会議員がつれてきたインターン生が「雷」と書いて「あずま」と読む珍しい名前でした。その「雷」君に週末の作業の昼食として振る舞う焼きそばの買い出しを頼みました。「政治家のインターンをしにきたのに、なんで小汚い文化住宅のために焼きそばのパシリせなあかんねん」という曇った表情をした「雷」くんを見て、「お前がもし将来政治家になっても、その焼きそばのパシリをさせられた手でたくさんの有権者と握手をせいや」と僕は思ったのでした。

9月14日

前田文化に隣接している一軒家には僕の母親が住んでいて、そこでは2匹の猫を飼っています。そのうち1匹の「コマツ」という猫がいますが、今年度あたりから前田文化のほうに忍び込んで空き部屋に住んでる茶色い野良猫とずっと仲良くしていたようです。茶色い野良猫は天井裏や梁の間を人目を忍んで往来しているので、コマツはいつも天井に向かって友達を呼ぶように鳴き声を上げています。
そんな優しさの塊のようなコマツがどこかで「キャー」という声を上げていたので、急いで駆けつけました。見ると、通常より倍くらい体と尻尾を大きくしてコマツが威嚇している先に、ブルブル震えて困惑している茶色い野良猫がいました。コマツはあきらかに外に追い出そうという威嚇を「キャー」とか「フー」とかいう声で表現していました。茶色い奴がコマツの逆鱗に触れるようなことをしたのかな、といろいろ想像していた瞬間、ゾクッと気配を感じて天井の梁のほうを見上げたら、見たことのない2匹の野良猫が顔だけ出してこちらを覗いていました。僕が小さい頃は、前田文化の周辺には無数の野良猫がいて、定期的に生まれたての子猫が現れたりしていたのですが、最近は見かけなくなりました。僕の予測では、文化住宅が減ったからです。造りも存在もスカスカの文化住宅には野良猫が生活しやすいし、単身者であるおっちゃんやババアたちは寂しいので野良猫たちに優しいからです。どこかで生活していた野良猫が、最近の地震や台風でパニックになって前田文化に逃げ延びてきたのでしょうか。いずれにしても、コマツの逆鱗の理由はそこにあったのかもしれません。茶色い野良猫1匹とならば、対等な立場で関係を持てるが、野良猫3匹もいれば、下手したらこの場所が乗っ取られるかもしれない。コーディネイトの役割をしたかもしれない茶色い野良猫を始末しなければいけない。結果、コマツは前田文化から離れた場所まで茶色い野良猫をジワジワ後退させていました。距離でいうと50mくらいでした。後から確認すると、見たことない野良猫2匹は、2階の住人である「オガワさん」が最近飼い始めた猫たちだったようです。いずれにしても、天井裏で猫たち(野良猫であれ、飼い猫であれ)が往来する状況というのは、文化住宅の「文化」たらしめてる気がしています。

2018年4月1日にスタートしたリレー日記です。1週間単位でさまざまな方に暮らしの日記を執筆いただいています。

カリグラシコラムとは

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。