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本業のかたわら生活の延長線で店舗を持たないスタイルの自家焙煎珈琲屋を営む。[メロウ][スロウ]という対照的なブレンドを創作している。

11月18日

朝7時半頃、シアトルから一時帰国中の姉夫妻の話し声で目が覚める。湯を沸かし手まわしのミルで珈琲豆を挽く。師匠と仰ぐ井尻珈琲焙煎所の[碧空]というブレンドを飲む。
今日は積年の思いが実を結び実現した画家・絵本作家のミロコマチコさんと音楽家のOLAibiさんとの作品展の最終日だ。珈琲とパンを食べ終え、阪急電車に乗りこみ梅田へ向かう。
職場に出勤し午前中の内にトークイベントの準備をすませて、お昼は約3週間のヨーロッパ旅から帰国した親友の林子と共に近くのカレー屋へ。約1ヶ月ぶりに会ったのだがその間、互いに色んなことがあり、「積もる話が多すぎて逆に何にも出てこないなぁ」なんて言いながらいつも通りのんびりカレーを食べ、珈琲を飲んで、また後日! と仕事に戻る。
ミロコさんとこの日一緒に登壇される大阪・本庄西のギャラリーカフェiTohenを営む鰺坂兼充さんが会場にやってくる。軽い打ち合わせをすませ気付けばトークの時間に。1時間半はあっという間だったけれども色んな話をしたように思う。企画の趣旨、OLAibiさんのこと、こどものこと、福祉のこと、表現すること、作家という生業のこと…。トークの経験は少なく前半は拙い進行だったが、ミロコさんの終始興味深いエピソードと鰺坂さんのユーモアを交えた受け答えに助けられ、盛況のうちに終えた。何よりこのふたりの前で対談出来たことがとても感慨深かった。
イベント後、サイン会やしばしの交流が落ち着いた後にミロコさん、鰺坂さんとは一旦解散し、僕は展示の搬出に取り掛かる。19時頃に作品の大型キャンバスの制作を手がけたアトリエカフエの安川雄基さん(安にぃ)が到着し、作品の撤去が始まる。
演出として木材に直接描かれた作品の周りを覆っていた紙をすべて剥がし、絵だけの状態にする。するとベールを脱いだかのようにその作品の真価が輝きはじめたのだ。僕と安にぃはしばし見入ってしまった。あらかじめミロコさんと相談し木材を小さくカットし破棄する予定だったのだが「これは刃を入れられない」と安にぃ。後で合流する打ち上げで伝えればいいのだが、僕は一刻も早くこの事を本人に伝えたくなり、「この作品は破棄するべきではないです!」と興奮気味にミロコさんにLINEを入れた。まるで展示を終えて始めて完成したかのような、まるで生きているような絵に感じた。ミロコマチコ、恐るべし。
結局、作品は北加賀屋にあるアトリエカフエに一時的に預かってもらうことになり、安にぃと解散。後処理と引き継ぎを終え、打ち上げへ向かう。
本庄西界隈に着いたのは22時頃。僕が到着したタイミングで2軒目に移動。ミロコさん鰺坂さんの他に、イラストレーターのマメイケダちゃん、ミヤザキちゃん、谷このみさんのiTohenメンバーに加え、画家の泉大さん、絵本編集者の筒井大介さんも、みんないい感じに出来上がっていた。色んな話をした。作家同士の生のやり取りを聞いた。ミロコさんと鰺坂さんの耳の側面のかなりマイナーな同じ位置にホクロがあることに気がつく。ふたりは照れてた。作家に囲まれ、育ての親のような鰺坂さんの幸せそうな顔を見た時、本当に企画して良かったと思った。
終電で帰るが寝過ごし、ひと駅分歩いて帰る。深夜2時前、帰宅。溜まっていたメールを風呂に浸かりながら返信、気が付けば3時を回っていて、クタクタで布団に潜る頃には早朝の4時に差しかかろうとしていた。とても大切な日々の最後は予想以上に濃厚な1日となったのでした。よきかなよきかな。

11月19日

10時過ぎに起きる。身体がパキパキ、こんなときは身体を動かすに限る。寝グセのままジョギングするのがいいんだ。適度にストレッチと柔軟をすませて表へ出る。昨夜の雨のせいか地面がキラキラしている。お決まりの阪急沿線沿いのジョギングコースを走る。曇天。線路沿いに浮かぶ波打つ五線譜の向こうで広がる空が真っ白で綺麗だった。
シャワーを浴びた後、湯を沸かし手回しのミルで珈琲を挽く。井尻さんのブレンド[碧空]がなくなった。仕事に向かう前に荷物が届く。10月下旬から続いた怒涛の出張珈琲ラッシュが終わり、愛用する珈琲用品が出店ツアーを終え、久しぶりに我が家へ戻ってきたのだ。
昼過ぎから仕事。諸業務を終わらせ、夜は次回の展示の撮影のために外出。本庄西に百会hyaqueというスペースを構え、フラワーアレンジメントを行うfor-botanicalの竹田朋世さん、フォトグラファーの小西健三さんと撮影がはじまる。竹田さんが企画したグループ展に僕も作家のひとりとして参加していたのだが、その展示も前日に終了していて、僕自身の作品の搬出も兼ねていた。撮影が終わり、帰り際に竹田さんからグループ展のお礼でクッキーとお手紙を貰う。帰りの電車で手紙を読んでほっこりした。
23時過ぎに帰宅。湯を沸かし珈琲を淹れる。ブレンド[スロウ]を飲む久しぶりに電動ミルの音が我が家で鳴り響く。貰ったクッキーが珈琲のアテだ。
夜中、お決まりの長風呂の後に今朝帰還した珈琲道具ちゃん達のメンテナンス。約2週間がんばった彼等はすこしくたびれていた。「お疲れさま」という気持ちを込めて洗った、磨いた。
気が付けば早朝4時…を回っている時計をみた記憶は、ある。座ったまま寝落ちていたのだ。

11月20日

今日から三連休。姉の旦那の足音で7時半に目が醒める。寝坊だ。すぐに支度をし北九州は福岡県に向かう。
福岡空港で愛石家の木葉絢子さんと合流。プライベートではじめてご一緒するお姉さまを50分程待たせてしまった。高速バスに一緒に乗り込み向かった先は福岡県八女市。伝統的な町家が建ち並び穏やかな空気が流れている。というか人が少ない。
うなぎの寝床に到着。来日中のスウェーデン在住のアーティスト平田章悟さんとスウェーデン人テキスタイルアーティストのリサと約半年ぶりに再会した。彼らの“intertradition”という久留米絣による日本とスウェーデンの文化交流プロジェクトの展示を観に行くのがこの旅の目的だ。
4人で近くのうどん屋で昼食をすませた後、とある酒店へ。明治20年代から残る大きなホールのような旧八女郡役所の一角にある朝日屋酒店。オーナーでNPO法人八女空き家再生スイッチを主宰する高橋さんと出会った。真昼間から日本酒の利き酒は最高だ。途中、下川織物三代目の下川強臓さんとも半年ぶりに合流、そのまま下川織物の見学に向かう。いくつもの自動織り機の音が轟く空間。久留米絣の作られる生の現場に立ち会えた。貴重な話と光景を脳裏とiPhoneに焼き付ける。貴重な見学だった。
夕方頃、木葉さんと街中で300年以上の歴史を持つ老舗製茶問屋「矢部屋 許斐本家」を偶然見つけて、しばしお茶を試飲。こりゃまた素敵な空間と気のいい店主に八女茶が本当に美味しかった。
夜は大阪からやっとこさやって来たデザイナーのヨシ中谷さんも合流し、皆で近くの「呑み屋さか田」へ。ホテルにチェックインをすませた後に2軒目は「monster」というオカマスナックへ。紅ちゃん・マコちゃん・大雪さんという珍獣(褒め言葉)と出会う。まさにモンスターみたいだった。強臓さんのギラギラした職人の時のカッコいい目付きと、そうでない時のキャラの変わりようがツボだった。強臓さんと一緒に「夏の終わりのハーモニー」を肩を組み熱唱した。季節外れだ。
「スウェーデン人の男、捕まえるぅ~!」、紅ちゃんがうるさい。ドンチャンワイワイ、珍獣(褒め言葉)を交えた楽しい夜でこの日は終わる。

11月21日

福岡2日目。この日は平田さん、リサ、木葉さん、ヨシさんと博多へ向かう。道中に大阪から到着した林子とも合流しintertraditionのもうひとつの展示が行われているキャナルシティ博多のOpen MUJIへ。
近くのうどん屋でお昼をすませて、太宰府へ向かうヨシさんとはここでお別れ。残りの5人でレンタカーに乗り久留米市へ向かう。久留米市田主丸町にある「藍生庵」という工房へ。人間国宝の松枝玉記を祖父に持つ松枝哲哉さん、妻の小夜子さんがご夫妻で営まれている。
昨日の下川織物が自動織り機による工業的な久留米絣だったのに対して、松枝家の久留米絣は手織り機により途方もない時間を掛けて産み出される芸術品としての側面がある。この日は小夜子さんお一人でお忙しい中、3時間以上も熱心に久留米絣のこと、藍染や紋様のことを教えて下さった。気が付けば外は真っ暗。皆まだ質問したいことも多かったのだが、これ以上はと藍生庵を後にした。
八女に戻る。この夜は昨日とは打って変わって終始真面目な話に。伝統工芸と工業化工芸の相補的な関係性が重要だとか、企業の不条理や個人でやっていくことのリスクだったり…トラディショナルかつソーシャルな討論がなされた。終始僕は白ごはんを貪る。章悟さんとリサのこのプロジェクトも意味のあるものなんだと改めて思った。
途方も無い伝統工芸の奥深さに触れ、また皆の違った一面も知ることが出来て、それはそれでまたいい夜だった。

2018年4月1日にスタートしたリレー日記です。1週間単位でさまざまな方に暮らしの日記を執筆いただいています。

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。