文化の小窓


推薦の回

推薦:林拓(歌手)

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「借り暮らし」をテーマに視聴できるカルチャーネタを詳しい方々から教わります。今回の推薦人は、ギターと特徴的な歌声を操り、京都・左京区を拠点にライブ活動などを行うミュージシャン・林拓さんです。

林拓

京都在住歌手。音楽誌『ULYSSES』のディスクレビューで賞賛を受け、海外アーティストの来日公演前座をよく務める。古代ローマを起源とする美術様式のグロテスク的な歌と声で動植物に人気がある。2016年2月、2ndアルバム『オーレリア』発表。

recommend 01
映画『エンドレス・ワルツ』
(監督:若松孝二 1995年)

あるサックス吹きの男と作家としてまあまあ名を上げていた女は同棲を始めた。というか男は無理やり女の部屋へ住み込んできた。男は女の持っていたレコードを検品しながら「これは駄目だ、こんなくだらないものを聴いているのか? 君は!」と言ってレコードをフリスビーみたいにアパートの外へ飛ばしまくった。庭にはゴールデン・カップスやヴェルヴェット・アンダーグラウンドの黒い円が落ちた。
この庭のある建物は青山の同潤会アパートだった。内装も非常にモダンなつくりで、建てられた大正末~昭和初めにおいて当時の最先端のアパートであった。この東西折衷主義な部屋で男と女は連日喧嘩しまくった挙句、隣人から警察に通報されてしまう。昔は隣家との壁は薄かったのだ。しかしそんなことはどうでもいい。ドアや窓、手すりに至るまで凝った装飾は素敵すぎる。東京に住むなら同潤会アパートだと思った。しかし2003年に解体されてしまった。
そしてこの映画の中で町田康は、最後までサックスの銜え方を間違っていた。

recommend 02
書籍『なしくずしの死』
(著 L-F・セリーヌ 河出文庫)

いきなりだがゲーテの『ファウスト』のアウトロから引用させてもらう。自らの墓を掘る音とは露知らず、目の見えなくなったファウストは慈善事業の工事の音と勘違い、ここであの有名な台詞「時よ止まれ、汝は美しい」が放たれた。
それから約100年後、本書の『なしくずしの死』の主人公フェルディナンも流れ行く瞬間の美を必死に止めようとした人間である。何年かぶりに帰ってきた広場にて昔の面影を捜し、道行く人々の上着をつかんででも時を止めようと思ったフェルディナン。でも無理だった。
そして、さらに約80年後、私は天井からの雨漏りを必死になって止めようとしていた。なかば諦めながら。築100年の町家、前兆はそれまで何回もあった。家主に言ったがスルーされていた。そして台風が来た。雨漏りの箇所が窓側だったのは幸いだった。雨漏りは滝のように落ち(本当に滝だった)、川となり外へと流れていった。流れを止めるのは辛い。ましてや無力な自分の力では抗うこともできない。「まるで遊園地のアトラクションみたいだ。雨漏りよ止まれ、滝は美しい!」と私は思った。後日、家主にお金をせびった。

recommend 03
『山之口貘詩文集』 (講談社文芸文庫)より「生活の柄」
(著 山之口獏)

高田渡という一見ホームレスのような歌手が『生活の柄』に曲を付けて歌っていた「歩き疲れては、夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである」と。学生の頃の一人旅でよく口ずさんだ。しかし家に帰ってきたら、思い出したように屋根と壁があって良かったと私は安心する。屋根は雨と雪を凌ぎ、壁は冷たい風を防ぐ。こうした思いは風邪で布団に寝込み、熱でうなされてより強く考える。壁の無いホームレスはきっと寒かろう、私は最低限の屋根と壁のある暮らしに感謝する。
ある時は奄美大島の公園の石のベンチの上に寝袋で寝た。まだ2月なので寒かった。翌日もそこで寝ようと着替えているとおねえ言葉のホームレス男性に「そこは寒いから、こっちにおいでよ~」と誘われた。その言葉に従ったら“やられる”と思い、必死に断った。翌日は石のベンチではなく土の上にダンボールを敷いて寝たら暖かかった。私の心は少し揺らいだ、疑ってごめんと。
またある時は五島列島、小値賀島の小さな船着場で寝た。プレハブが一つ建っているだけの何も無いコンクリートの陸を敷いて波の音が通奏音で響く。昼間の太陽に焼かれたコンクリートは深夜になっても熱いままだった。自分はまるでフライパンの上の目玉焼きかと思った。背は硬くて痛かった。どこかの島で床の上で寝る部族がいるらしく、曰く寝床が硬いと健康にいいのだそうだ。そう自分に言い聞かせて寝た。波がチャプンチャプンと鳴っていた。

※現在の「OURS.ライブラリー」
推薦人:安田謙一(ロック漫筆家)
001 DVD|『彼女と彼』 推薦の回 感想の回
002 DVD|『Hole 洞』 推薦の回 感想の回
003 DVD|『Ricky リッキー』 推薦の回 感想の回

推薦人:山下賢二(ホホホ座)
004 DVD|『ウルトラセブン Vol.12』 推薦の回 感想の回 感想の回
005 書籍|『団地を楽しむ教科書 暮らしと。』 推薦の回
006 CD|高田渡『系図』 推薦の回 感想の回

推薦人:坂上友紀(本は人生のおやつです!!)
007 書籍|『井伏さんの横顔』 推薦の回 感想の回
008 書籍|『ほんまにオレはアホやろか』 推薦の回 感想の回
009 書籍|『本のお口よごしですが』 推薦の回

推薦人:野村誠(作曲家/ピアニスト)
010 書籍|『ココロのトリ ドローイングの旅に出る』  推薦の回
011 書籍|『とくいの銀行 なんとなく開業マニュアルブック』 推薦の回

推薦人:梅田唯史(元beyer店主)
012 DVD|『トキワ荘の青春』 推薦の回
013 書籍|『団地の見究』  推薦の回
014 CD|加地等『鐘は鳴らない』 推薦の回

推薦人:髙橋耕平(美術家)
015 書籍|『地図と領土』  推薦の回
016 DVD|『これは映画ではない』 推薦の回 
感想の回

推薦人:関美穂子(型染め作家)
017 マンガ|『こんぺい荘のフランソワ』  推薦の回
018 マンガ|『いろはにこんぺいと』 推薦の回

推薦人:松元明子(shopへなちょこ)
019 書籍|『キッチン』 推薦の回
020 書籍|『ティファニーで朝食を』 推薦の回

推薦人:松嶋友紀(英語教室ESS/翻訳者)
021 ドラマ|『New Girl / ダサかわ女子と三銃士』 推薦の回
022 映画|『フランシス・ハ』 推薦の回

推薦人:林拓(歌手)
023 映画|『エンドレス・ワルツ』 推薦の回
024 書籍|『なしくずしの死』 推薦の回
025 書籍|『山之口貘詩文集』 (講談社文芸文庫)より「生活の柄」 推薦の回

推薦人:渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)
023 映画|『ライフ・アクアティック』 推薦の回
024 音楽|『さよならストレンジャー』 推薦の回
025 書籍|『ことり』 推薦の回

推薦人:鷹取愛(山ト波)
026 書籍|『たべる しゃべる』 推薦の回
027 映画|『お早よう』 推薦の回
028 書籍|『青いドックフーズ』 推薦の回

推薦人:桂弥太郎(落語家)
029 DVD|『特選!!米朝落語全集 第四集』より 落語「天狗裁き」推薦の回
030 映画|『0.5ミリ』 推薦の回
031 ドラマ|『すいか』 推薦の回

推薦人:イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)
032 音楽|『神様ごっこ』推薦の回
033 映画|『ヴィクトリア』 推薦の回
034 書籍|『キリイシ -切石智子著作集』 推薦の回


文化の小窓とは

借り暮らしや賃貸住宅にまつわる映画や本、漫画などを、その道のプロフェッショナルな方々に推薦いただいて、編集部にライブラリーを設置。それらを貸し出しての感想文も随時、掲載していきます。