文化の小窓


推薦の回

推薦:渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)

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借り暮らし、団地、長屋などをテーマに視聴できるカルチャーネタを詳しい方々から教わります。今回の推薦人は、出版社勤務などを経て、滋賀県立近代美術館の学芸員として活躍する渡辺亜由美さんです。

渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)

山形生まれ、千葉育ち。千葉、仙台、大阪、東京を点々として今は京都在住。一人転勤族と言われていました。滋賀県立近代美術館学芸員。企画した展覧会は「生命の徴ー滋賀と『アール・ブリュット』」(2015年)など。

recommend 01
映画『ライフ・アクアティック』
(監督:ウェス・アンダーソン 2004年)

本作には劇場や古い豪邸、廃墟と化したホテルなど、人が住まう・集うさまざまな場所が登場しますが、何と言っても魅力的なのが、登場人物たちが生活を送る探査船ベラフォンテ号です。研究室や図書室、編集室、マッサージ師つきのサウナなど、こだわり抜かれたインテリアで彩られる船の中は、まるで夢の国のようです。
主人公は、ドキュメンタリー映画監督のスティーヴ・ズィスー。かつての彼は誰もが憧れる映画監督でしたが、ここ数年はヒットがなく評判は散々。仲間達の士気も下がるばかりで、人生の黄昏にさしかかり自分を見失っていました。そんな彼やクルーたちにとって、ベラフォンテ号は夢のマイホームであり、陸でのつらい現実から逃れ、自分を肯定し包み込んでくれる隠れ家なのでしょう。ところが物語が進むにつれ、この夢の船では思いもよらない出来事が次々に起こり、そのたびに嫉妬や落胆、苛立ちや悲しみが彼らを襲います。ベラフォンテ号は単に夢の船ではなく、厳しい現実の舞台なのです。
彼らにとって、水の中の生活こそが人生。出会いと別れを噛み締めて失ったものを少しだけ拾い直すスティーヴや仲間達の姿に、じんわりとした味わいを感じる作品です。

recommend 02
音楽『さよならストレンジャー』
(くるり 1999年)

転がりつづけるバンド、くるりのファーストアルバム。彼らの音楽の中には、淡々と流れる日々の時間や風景がたくさんつまっています。歌の主人公はいつもどことなく不安定であり、自信がないのに自信があるように動き続けようとします。このバンドは、そんな何者でもない「わたしたち」を描き続けてくれていたように感じます。
このアルバムは彼らの原点を不器用なかたちで詰め込んだ作品ですが、通底するのは生まれ育った土地や染み付いた思い出を宝物のように大事にしながら(「六地蔵」や「深草」なんて地名が出てくる)、安住を拒む姿勢です。「東京」では、変わらない自分と、変わってしまったあるいは変わろうとしている自分との狭間で宙ぶらりんになった苛立ちが描かれますが、それは終わりのない旅を始めてしまった後悔と希望なのかもしれません。やり場のないエネルギーや、先の見えない不安、続くはずだった今と選ばなかった未来を、12曲の音と叫びでガリガリ削りだしている本作。佐内正史氏撮影のジャケットも必見です。

recommend 03
書籍『ことり』
(著:小川洋子 2012年)

「小鳥の小父さん」はいつも決まった時間に決まった場所へ向かい、仕事をし、食事をとり、眠りにつきます。小鳥の小父さんには、鳥の言葉を話す「お兄さん」がいます。しかし、小鳥の小父さん以外に、お兄さんが話す鳥の言葉を理解できる人はいません。
兄弟は、特別な場所へ出かけることはしません。そのかわり、彼らの小さく、しかし豊かで美しい世界の秩序を乱さぬよう規則正しく生活をします。ふたりが暮らす家や、彼らが愛した幼稚園の鳥小屋、毎週欠かさず通う薬局、小鳥の小父さんが働くゲストハウス。これらの建物は彼らの世界の重要な一部であるがゆえ、物語の中で繰り返し登場します。丁寧に繊細に描写される建物たちは生き物のような湿度・温度を放っており、人間と同じように変化し、朽ちていきます。そうした変化や消失はまた、兄弟達が守ってきた秩序も永遠ではないことと重なります。しかしこの物語には、変わりゆくことに対する悲壮感ではなく、むしろそれを受け入れながらも変わらずにいることの尊さがにじんでいるように感じます。
あらゆるものが確かな存在感を持ちながらも、どこか幻のように感じられるこの物語は、生きることそれ自体が、世界の片隅を少し借りていることだと思い出させてくれます。

※現在の「OURS.ライブラリー」
推薦人:安田謙一(ロック漫筆家)
001 DVD|『彼女と彼』 推薦の回 感想の回
002 DVD|『Hole 洞』 推薦の回 感想の回
003 DVD|『Ricky リッキー』 推薦の回 感想の回

推薦人:山下賢二(ホホホ座)
004 DVD|『ウルトラセブン Vol.12』 推薦の回 感想の回 感想の回
005 書籍|『団地を楽しむ教科書 暮らしと。』 推薦の回
006 CD|高田渡『系図』 推薦の回 感想の回

推薦人:坂上友紀(本は人生のおやつです!!)
007 書籍|『井伏さんの横顔』 推薦の回 感想の回
008 書籍|『ほんまにオレはアホやろか』 推薦の回 感想の回
009 書籍|『本のお口よごしですが』 推薦の回

推薦人:野村誠(作曲家/ピアニスト)
010 書籍|『ココロのトリ ドローイングの旅に出る』  推薦の回
011 書籍|『とくいの銀行 なんとなく開業マニュアルブック』 推薦の回

推薦人:梅田唯史(元beyer店主)
012 DVD|『トキワ荘の青春』 推薦の回
013 書籍|『団地の見究』  推薦の回
014 CD|加地等『鐘は鳴らない』 推薦の回

推薦人:髙橋耕平(美術家)
015 書籍|『地図と領土』  推薦の回
016 DVD|『これは映画ではない』 推薦の回 
感想の回

推薦人:関美穂子(型染め作家)
017 マンガ|『こんぺい荘のフランソワ』  推薦の回
018 マンガ|『いろはにこんぺいと』 推薦の回

推薦人:松元明子(shopへなちょこ)
019 書籍|『キッチン』 推薦の回
020 書籍|『ティファニーで朝食を』 推薦の回

推薦人:松嶋友紀(英語教室ESS/翻訳者)
021 ドラマ|『New Girl / ダサかわ女子と三銃士』 推薦の回
022 映画|『フランシス・ハ』 推薦の回

推薦人:林拓(歌手)
023 映画|『エンドレス・ワルツ』 推薦の回
024 書籍|『なしくずしの死』 推薦の回
025 書籍|『山之口貘詩文集』 (講談社文芸文庫)より「生活の柄」 推薦の回

推薦人:渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)
023 映画|『ライフ・アクアティック』 推薦の回
024 音楽|『さよならストレンジャー』 推薦の回
025 書籍|『ことり』 推薦の回

推薦人:鷹取愛(山ト波)
026 書籍|『たべる しゃべる』 推薦の回
027 映画|『お早よう』 推薦の回
028 書籍|『青いドックフーズ』 推薦の回

推薦人:桂弥太郎(落語家)
029 DVD|『特選!!米朝落語全集 第四集』より 落語「天狗裁き」推薦の回
030 映画|『0.5ミリ』 推薦の回
031 ドラマ|『すいか』 推薦の回

推薦人:イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)
032 音楽|『神様ごっこ』推薦の回
033 映画|『ヴィクトリア』 推薦の回
034 書籍|『キリイシ -切石智子著作集』 推薦の回


文化の小窓とは

借り暮らしや賃貸住宅にまつわる映画や本、漫画などを、その道のプロフェッショナルな方々に推薦いただいて、編集部にライブラリーを設置。それらを貸し出しての感想文も随時、掲載していきます。