文化の小窓


推薦の回

推薦:イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)

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「借り暮らし」をテーマに視聴できるカルチャーネタをリコメンド! 今回の推薦人は、大阪・中崎町にて電車のような横長の異空間なギャラリー・ヨルチャを運営しつつ、自身も言葉を表現方法として持つイルボンさんです。

イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)
2000年頃から“詩演家”を名乗りポエジーを舞台表現として見せることをライフワークとする。2010年からgallery yolchaを運営し、各種展覧会や音楽ライヴなど様々なイベント企画を行う。現在、yolchaに集う作家たちによって結成された「隅っこ人形劇団ニッチ」のメンバーとしても活動中。

recommend 01
音楽『神様ごっこ』
(イ・ラン 2016年)

インディーズでは異例の大ヒットとなったこの韓国人女性アーティストのアルバムは、70ページの立派なブックレットが付属している。いや、むしろCDがオマケの風情である。本の内容はイ・ラン本人の言うところの“ヘル(地獄)朝鮮”こと韓国で暮らす自身の夢と絶望と創作の日々を描いたエッセイで、ところどころに収録された曲の歌詞が挟まるという斬新なスタイルである。その中の1曲、「悲しく腹が立つ」は、ソウルのオクタッパン(屋根部屋)に住む画家の男友達とのエピソードから出来たそうな。このオクタッパンというのは、アパートの大家が賃貸を増やすために法の目をかいくぐり、屋上に簡易的な建材を用いて作った小屋だという。夏暑く冬寒いため、格安。しかし眺めはいい。と、まぁ青春物語の鉄板要素を充分に感じさせる環境だ。画材以外は何もないその部屋でひたすらに絵を描き続ける男との交流。近くて遠い国と言われて久しい韓国に生きる若者が、日本に住む我われと同じことで悩み恋をし大人になってゆく。彼女が少し特殊なのはなぜ自分の国がヘルなのかを本音とユーモアで伝えようとしていること。イ・ランの歌は現代韓国という果実の皮を削ぐぺティナイフのようだ。

recommend 02
映画『ヴィクトリア』
(監督:ゼバスチャン・シッパー 2015年)

全編140分ワンカット編集なし。ベルリンの街の朝4時半から7時前までをリアルタイムで撮っている。カメラが役者とともに2時間強ぶっとおしで駆け回って劇映画として切り取った奇跡のような作品。故郷を捨てドイツへやって来たスペイン娘がウェイトレスをしながら暮らしている。孤独な彼女はクラブ帰りの夜明け前にチンピラ4人組に声をかけられる。彼らと運命的な出逢いを果たしつつトラブルに巻き込まれて人生が一転するお話。チンピラたちの“いつもの場所”=アパート屋上への不法侵入。団地での逃走劇。徐々に移り変わる明朝の空の色、ひんやりと澄んだ空気、そしてベルリンの街の息遣い。観る者もそこに住み彼らの生き様を追体験しているようなカメラワークは、退屈な日々こそ特別なんだと教えてくれる。スペイン娘とチンピラたちは互いに母国語ではない英語でコミュニケーションを取りながら、一寸先は闇の現状を乗り越えようとする。英語というツールもまた、彼らにとっては大事な住居なのだと気づく。

recommend 03
書籍『キリイシ -切石智子著作集』
(著:切石智子 2009年)

この本がなかったら35歳で急逝したラテン系関西人、切石智子という才女には出逢わなかったかもしれない。これは大阪で下宿暮らしをしながら情熱的な恋に生きる女を描いた話など4つの短編小説と、音楽ライターとして活動した彼女の音楽愛人間愛溢れる著述などをまとめたアンソロジー。町田康に女の切なさを加えて本能のまま“いてこます”ような小説の文体は、作家の愛したラテンミュージックそのものである。「極楽金魚鉢」は、ライヴハウスの店員をしながらその同じビルの4階の部屋に住む女の話。女の部屋は毎夜毎晩ギグを終えた冴えない野郎どもの宴会場となる。男にとって女というのはつくづく家なんだなと思う。では、女はどうか。愛するひとりの男を失うと全くもって居場所がない。そこにはただ、けじめがあるだけだ。「亀を放つ」では、出て行った男の飼っていた亀を大阪の四天王寺の池に放つ。その道すがらの骨董市で自分が失くしたものと再会し、最後にその先の池で亀を放つ。ブルースの歌詞にしたいようなこのシーンはとても印象的だが、この亀の名がMOJO郎(MOJOはブルースの歌詞に出てくる女にモテるおまじない)というのだから出来過ぎで可笑しい。

※現在の「OURS.ライブラリー」
推薦人:安田謙一(ロック漫筆家)
001 DVD|『彼女と彼』 推薦の回 感想の回
002 DVD|『Hole 洞』 推薦の回 感想の回
003 DVD|『Ricky リッキー』 推薦の回 感想の回

推薦人:山下賢二(ホホホ座)
004 DVD|『ウルトラセブン Vol.12』 推薦の回 感想の回 感想の回
005 書籍|『団地を楽しむ教科書 暮らしと。』 推薦の回
006 CD|高田渡『系図』 推薦の回 感想の回

推薦人:坂上友紀(本は人生のおやつです!!)
007 書籍|『井伏さんの横顔』 推薦の回 感想の回
008 書籍|『ほんまにオレはアホやろか』 推薦の回 感想の回
009 書籍|『本のお口よごしですが』 推薦の回

推薦人:野村誠(作曲家/ピアニスト)
010 書籍|『ココロのトリ ドローイングの旅に出る』  推薦の回
011 書籍|『とくいの銀行 なんとなく開業マニュアルブック』 推薦の回

推薦人:梅田唯史(元beyer店主)
012 DVD|『トキワ荘の青春』 推薦の回
013 書籍|『団地の見究』  推薦の回
014 CD|加地等『鐘は鳴らない』 推薦の回

推薦人:髙橋耕平(美術家)
015 書籍|『地図と領土』  推薦の回
016 DVD|『これは映画ではない』 推薦の回 
感想の回

推薦人:関美穂子(型染め作家)
017 マンガ|『こんぺい荘のフランソワ』  推薦の回
018 マンガ|『いろはにこんぺいと』 推薦の回

推薦人:松元明子(shopへなちょこ)
019 書籍|『キッチン』 推薦の回
020 書籍|『ティファニーで朝食を』 推薦の回

推薦人:松嶋友紀(英語教室ESS/翻訳者)
021 ドラマ|『New Girl / ダサかわ女子と三銃士』 推薦の回
022 映画|『フランシス・ハ』 推薦の回

推薦人:林拓(歌手)
023 映画|『エンドレス・ワルツ』 推薦の回
024 書籍|『なしくずしの死』 推薦の回
025 書籍|『山之口貘詩文集』 (講談社文芸文庫)より「生活の柄」 推薦の回

推薦人:渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)
023 映画|『ライフ・アクアティック』 推薦の回
024 音楽|『さよならストレンジャー』 推薦の回
025 書籍|『ことり』 推薦の回

推薦人:鷹取愛(山ト波)
026 書籍|『たべる しゃべる』 推薦の回
027 映画|『お早よう』 推薦の回
028 書籍|『青いドックフーズ』 推薦の回

推薦人:桂弥太郎(落語家)
029 DVD|『特選!!米朝落語全集 第四集』より 落語「天狗裁き」推薦の回
030 映画|『0.5ミリ』 推薦の回
031 ドラマ|『すいか』 推薦の回

推薦人:イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)
032 音楽|『神様ごっこ』推薦の回
033 映画|『ヴィクトリア』 推薦の回
034 書籍|『キリイシ -切石智子著作集』 推薦の回


文化の小窓とは

借り暮らしや賃貸住宅にまつわる映画や本、漫画などを、その道のプロフェッショナルな方々に推薦いただいて、編集部にライブラリーを設置。それらを貸し出しての感想文も随時、掲載していきます。