文化の小窓


推薦の回

推薦:髙橋耕平(美術家)

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借り暮らし、団地などをテーマに視聴できるカルチャーネタを詳しい方々から教わります。今回の推薦人は、独自の距離感でドキュメンタリータッチの映像作品などを制作する美術家の高橋耕平さんです。2016年は展覧会での発表の機会も多いとか。

髙橋耕平(美術家)
京都在住の美術家。おもに映像メディアを扱いながら、記憶や経験の継承、個人の歴史と社会や集団の歴史との接続と断絶に焦点を当てた活動を行う。
http://www.takahashi-kohei.jp/

recommend 01
書籍『地図と領土』
(著者:ミシェル・ウエルベック 2013年)

「晩年の理想はね…」と、突如、老後の計画を語り出そうものなら鬼以上の何かに笑われそうだ。しかし、どこで誰と生活し、何をモチーフにどのような方法で作品をつくっているのか、老いゆく親を見つつ不惑の歳を間もなく迎える自分も、「晩年」という響きに無関係なわけではない。とは言え、突如、自分の人生が終わる想定は今のところない。
作中にはおもに芸術家、小説家、建築家が登場する。彼らの作品への態度、人生への態度は、それらを志す人にとって参考になるところが多分にある。彼らはある時期、それまでの活動の舞台であったパリを離れることを選んだが、それは終わりの場所、総括の場所へと自ら移動したといえる。場を移動することで何が変わるのか。本作において「場」は創作と密接にある。場は、芸術家にとってのモチーフ、小説家にとっての物語の舞台、建築家にとっての空間、そのものとして描かれており、特に芸術家ジェドの晩年の描写は、制作と生活が混然一体となった“場”として作品が立ち現れている。人間は幾度移動したとしても、その都度、地図のどこかに立ち、何かしらの領土を有する。それは常に仮の状態であり、あの世までの“借り暮らし”と言えるのでないか。ちなみに本作を自分に勧めたのは「建築にとってのその場の質とは何か」を書く建築家だった。建築家と芸術家は親子なのである。この物語の中では。

recommend 02
映画『これは映画ではない』
(監督:ジャファル・パナヒ モジタバ・ミルタマスブ 2011年)

これはS級のホームビデオである。と言うだけでも十分な気がするが少しは解説を。ソファ、Tシャツ姿の中年、窓の外、高層ビル、絨毯、イグアナ、マンションの住人、犬、ゴミ収集員、スマートフォン。監督にしてアクターのジャファル・パナヒは、この映り栄えしないモチーフ達と自室を、作品タイトル、軟禁の事実、それを踏まえた自身の巧妙な振る舞いによってスリリングなステージへと昇格させている。そして光学機器と十分な光があれば映画の成立(This is Not a Film!)は容易いと言うばかりか、悪条件であればあるほどホームビデオは臨界点を超えることを証明している。
だがこれは告発ドキュメントでもある。監視がいつ解かれるか分からない不自由な借り暮らしを記録している。パナヒはパナヒ自身を演じることで、泣きや笑いの振る舞いをホームビデオ作品にすることで、それを入れたUSBメモリをカンヌに届けることで、芸術が、芸術を創造することが人間を救済することを体現している。映画製作が20年間も禁止された過酷な状況において。後に保釈金を支払うことで借り暮らしを脱したパナヒは「サハロフ賞」(人権と思想を守るために献身的な活動をした者に送られる)を受賞し、2013年にカンボジア・パルトヴィと共に『閉ざされたカーテン』を発表する。ここでもパナヒはカンボジア・パルトヴィと共に画面上に現れる。今度も「これは映画ではない」のか?

・にしなかさんによる「これは映画ではない」の感想編

 


※現在の「OURS.ライブラリー」
推薦人:安田謙一(ロック漫筆家)
001 DVD|『彼女と彼』 推薦の回 感想の回
002 DVD|『Hole 洞』 推薦の回 感想の回
003 DVD|『Ricky リッキー』 推薦の回 感想の回

推薦人:山下賢二(ホホホ座)
004 DVD|『ウルトラセブン Vol.12』 推薦の回 感想の回 感想の回
005 書籍|『団地を楽しむ教科書 暮らしと。』 推薦の回
006 CD|高田渡『系図』 推薦の回 感想の回

推薦人:坂上友紀(本は人生のおやつです!!)
007 書籍|『井伏さんの横顔』 推薦の回 感想の回
008 書籍|『ほんまにオレはアホやろか』 推薦の回 感想の回
009 書籍|『本のお口よごしですが』 推薦の回

推薦人:野村誠(作曲家/ピアニスト)
010 書籍|『ココロのトリ ドローイングの旅に出る』  推薦の回
011 書籍|『とくいの銀行 なんとなく開業マニュアルブック』 推薦の回

推薦人:梅田唯史(元beyer店主)
012 DVD|『トキワ荘の青春』 推薦の回
013 書籍|『団地の見究』  推薦の回
014 CD|加地等『鐘は鳴らない』 推薦の回

推薦人:髙橋耕平(美術家)
015 書籍|『地図と領土』  推薦の回
016 DVD|『これは映画ではない』 推薦の回 
感想の回

推薦人:関美穂子(型染め作家)
017 マンガ|『こんぺい荘のフランソワ』  推薦の回
018 マンガ|『いろはにこんぺいと』 推薦の回

推薦人:松元明子(shopへなちょこ)
019 書籍|『キッチン』 推薦の回
020 書籍|『ティファニーで朝食を』 推薦の回

推薦人:松嶋友紀(英語教室ESS/翻訳者)
021 ドラマ|『New Girl / ダサかわ女子と三銃士』 推薦の回
022 映画|『フランシス・ハ』 推薦の回

推薦人:林拓(歌手)
023 映画|『エンドレス・ワルツ』 推薦の回
024 書籍|『なしくずしの死』 推薦の回
025 書籍|『山之口貘詩文集』 (講談社文芸文庫)より「生活の柄」 推薦の回

推薦人:渡辺亜由美(滋賀県立近代美術館/学芸員)
023 映画|『ライフ・アクアティック』 推薦の回
024 音楽|『さよならストレンジャー』 推薦の回
025 書籍|『ことり』 推薦の回

推薦人:鷹取愛(山ト波)
026 書籍|『たべる しゃべる』 推薦の回
027 映画|『お早よう』 推薦の回
028 書籍|『青いドックフーズ』 推薦の回

推薦人:桂弥太郎(落語家)
029 DVD|『特選!!米朝落語全集 第四集』より 落語「天狗裁き」推薦の回
030 映画|『0.5ミリ』 推薦の回
031 ドラマ|『すいか』 推薦の回

推薦人:イルボン(詩演家/gallery yolcha車掌)
032 音楽|『神様ごっこ』推薦の回
033 映画|『ヴィクトリア』 推薦の回
034 書籍|『キリイシ -切石智子著作集』 推薦の回


文化の小窓とは

借り暮らしや賃貸住宅にまつわる映画や本、漫画などを、その道のプロフェッショナルな方々に推薦いただいて、編集部にライブラリーを設置。それらを貸し出しての感想文も随時、掲載していきます。