記録の達人、西山夘三に学ぶこと。
『超絶記録! 西山夘三のすまい採集帖』開催中。

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昭和の偉大なる住宅学者、西山夘三がのこした膨大な記録、日記、住み方調査が現在、梅田のリクシルギャラリーで展示されている。

細かくびっしりと記された文字と遊び心にあふれた絵やスケッチ、好奇心と探究心が入り交じった観察眼、徹底した調査力は生涯変わることなく、その全貌を間近に見ることができる絶好の機会となっている。

図版はすべて、NPO 法人西山夘三記念すまい・まちづくり文庫の所蔵、撮影は佐治康生。

自伝風漫画小説『高等学校時代』は絵日記スタイル。大胆なカット、定まったフォーマットに落とし込む技がすでに確立している。ちなみに、晩年になってからこの『高等学校時代』に加筆修正をほどこし、『あゝ楼台の花に酔う』として出版もされている。

記録魔にして観察の達人。旅先でのスケッチもこのクオリティだった。こうしたスケッチブックは約120冊のこされているという。全部見てみたいゾ。

ライフワークとして、日本のあらゆる住宅を取材、調査してまとめた『日本のすまい』は、全3巻・1200ページという住宅研究の金字塔。上は、仕事用の舟を住居と兼用した「舟ずまい」の調査。部屋の中央に舵が見える。甲板の船室に家族3人が暮らしていたという。

調査したのは、戦時中の兵営、廃車となったバスを並べたバス団地、市電10台を並べた電車団地、ラブホテル、ドヤ(上の図)、炭鉱住宅、学生寮から、マンション、公団住宅まで。そのひとつひとつに間取りはもちろん、家具家財の配置にいたるまで、綿密に記録されている。

こちらは、戦前に大阪、京都、名古屋で行った「住み方調査」の原票。西山の住宅調査は、職業、家族構成、家賃、部屋の使い方、所有している家具家財、隣家との関係にいたるまで徹底している。当然、すべて手書きで集計作業も手作業だ。
まさに調査、研究、取材の鑑。今の時代、これだけのことを誰がやれているか。

西山夘三は、自身の住まい遍歴も徹底して記録にのこしている。上は、自身のアトリエの様子。
生家からはじまって、学生時代の寮や下宿生活、官舎、代官山アパートなどなど、西山の住まい遍歴ををまとめた著書『住まい方の記』は、日本エッセイストクラブ賞も受賞している。記録スケッチと自在なテキストによる、実感をともなった日本の住まい物語として今でも十分に楽しく読める。

ちなみにこの『住まい方の記』は、OURS.サイトが掲げる「カリグラシ」的にもヒントがたくさん。「割りずまい」「割込み居住」「あいずまい」といった呼び方で、下鴨神社参道前の大邸宅の一角に住みこんだかと思えば、表を漬物屋、2階を学生に間貸しした一軒家に家族6人で暮らしていた頃の話なんて、とりわけ興味深い。今でいうシェア生活だが、記録魔らしく、どの部屋をどのように使って、子どもの成長ともに変化していく状況や、貸主や下宿人との関係なども生活者の立場から逐一記されていて、とても参考になる。

西山夘三による自画像。

“部屋の飾り方、物のしまい方、掃除のし方、住居の維持管理、あるいはそこから飛躍して住宅の設計のし方――といったことがいま家政学の中の住居学の主要な問題のように考えられてきているが、私はそうは思わない。暮らしをさきにのべたようなことがらをふくめて空間の面からみていくこと、つまり、生活の環境・設備と人間の行動の空間的な組み立てを追求するのが住居学の本質だと思っている。このような住居学は、現在、そして将来、ますます重要なものになっていくことだろう。私たちは新らしい「住居学」を創造せねばならない。”
『住み方の記』(西山夘三・著/筑摩叢書)より

住宅営団研究部にも一時、就職。その後、京都大学で教授を務めながら、千里ニュータウンや香里団地の計画にも関わったという西山夘三。西山が提唱した「住居学」は、まさにOURS.サイトで伝えていきたいことでもある。
西山の原点となる膨大な記録を見ることができる今回の展覧会、ぜひお見逃しなく。

*なお、OURS.では団地の住まい方を訪ねる企画も進行中。西山夘三ほどの徹底性はありませんが、現代の団地住まいを垣間見ることができます。
http://ours-magazine.jp/tag/toaru-danchi-no/

DATA
『超絶記録! 西山夘三のすまい採集帖』
会期:17年6月9日(金)~8月22日(火)
会場:LIXILギャラリー(梅田・グランフロント大阪南館タワーA11階)
入館無料/水曜日と8月12日~16日は休館
*東京のLIXILギャラリーへも巡回。17年9月7日~11月25日

文:竹内厚