この夏、京都で1週間限定、
仮設集落の試み。

# # # # # # #

1869(明治2)年に開校した京都市中の明倫小学校。ここを改修して再活用した京都芸術センターは、ギャラリーや制作室などを備える一方、敷地の中央に開けた運動場は、地域の方がテニスコートやゲートボール場として利用しています。

そんな京都芸術センターの運動場に、8月の1週間、仮設集落を生み出すというプロジェクトがスタートしました。選ばれた建築家6組は、日本、ドイツ、フランスの気鋭の顔ぶれがずらり。文化芸術の一拠点にして、地域住民の憩いの場でもあるセンターで、一体どんなことが生まれるのでしょうか。

6月23日に行われたキックオフシンポジウムの後、プロジェクトの監修を務める、建築史・建築批評家の五十嵐太郎さんに話を聞きました。

 


開催INFO
「建築Symposion-日独仏の若手建築家による-」
展示期間:8月26日(土)~9月3日(日)
会場:京都芸術センター グラウンド
参加:ドットアーキテクツ、加藤比呂史、島田陽、スヴェン・プファイファー、ルードヴィヒ・ハイムバッハ、セバスチャン・マルティネス・バラ/バンジャマン・ラフォール
監修:五十嵐太郎

 

たとえば、こんなアイデア

6組の建築家全員が顔を合わせる機会がキックオフシンポジウムの前後3日間しかないという都合上、公開企画会議のような現場となった6月23日。
会場となる京都芸術センターのグラウンドは、まるで長屋の中庭のように通りからは見えないため、「隠れ家のよう」「屋外だけど屋内的」といった場所の特性がまず確認された。それからはアイデアが飛び交う時間に。


©KUMIKOmini

地域の方の運動場として使われている現状に対して、その白紙のような場所性を変えずに、新たなシチュエーションを立ち上げられないかといった案や、いっそウィンブルドンのような観客席を仮設して、展示期間中にゲートボールの大会をやればおもしろいといった案も。運動場に水をぐるりと巡らせて、インタラクティブに水たまりが生まれるようなものにすれば暑い時期にもいいのではという提案も飛び出した。

地域の運動会や盆踊り会場ともなってきた歴史あるグラウンド。盆踊りの櫓(まさに仮設建築)に習って、6組の建築家それぞれで櫓をつくるという案も出た。

個性ある建築家が揃っているだけに、アイデアは豊富で通り一遍のものでは終わりそうにない。今後、大阪を拠点に活躍するドットアーキテクツが「マスターアーキテクト」という立場で全体をとりまとめて、現場の施工も担当するという。

 

五十嵐太郎さんの話

―キックオフシンポジウムを拝見していると、6組もの建築家が関わっていることが面白くもあり、まとめていくのが大変だなと感じました。こういった複数の建築家による企画ってよくあるものでしょうか。

五十嵐:実際の街づくりの現場では、バブルの頃なんかにはよく試みられていました。マスターアーキテクトとなる建築家がA棟は誰、B棟は誰、C棟は誰って、何組かの建築家を指名して進めていくようなやり方ですね。

―今回のプロジェクトも、1週間だけの小さな街づくりだとも言えますね。

五十嵐:あるいは、昨年、岡山市で行われた「岡山芸術交流」という芸術祭では、街の空き地の一角に東京大学の千葉学研究室、京都大学の平田晃久研究室、神戸大学の槻橋修研究室がそれぞれ屋台を設計して、週末は実際に地元の料理店のフードが提供されていました。ただ、今回のプロジェクトの場合は、京都芸術センターのグラウンドが持ってる可能性を再考するという面もあって、単なる空き地ではない。そこも面白いところです。

―すでに地域の人たちが使っているグラウンドとしての性格を継承するのかしないのか。そのあたりの判断もこれからの舵取り次第ですね。

五十嵐:やっぱりこういうプロジェクトって、10日間だけの限定された期間、仮設だから許されることであって、実際に常設されるものでやろうとすると難しい面がたくさん出てきます。

―仮設建築ゆえに実験が成り立つんですね。

五十嵐:常設と仮設の間には法規のハードルがあって、仮設建築だからこそ技術的な可能性に挑めるというところもある。博覧会建築なんてまさにそれで、1851年に行われた第1回ロンドン万博では、「クリスタル・パレス」という鉄骨とガラスによるすごい実験建築が建てられました。エッフェル塔にしても、1889年のパリ万博で建った当時としてはかなりの実験建築ですから。

―エッフェル塔ももとは万博建築、仮設建築なんですね。

五十嵐:当初は、万博が終わったら解体されるはずのものでした。今回のプロジェクトでは、そういった技術的な意味での実験はなかなか難しいけど、使い方の実験は何か考えられるんじゃないかな。

―仮設建築の役割はそういった実験性の他にも何かありますか。

五十嵐:被災地でのケースのように、緊急性や経済性もあります。ロンドン万博のクリスタル・パレスであっても一種のプレハブで、短い工期で合理的につくることは要求されますし、もうひとつ、仮設建築で使った素材を再利用できるかどうかも、今ではひとつのテーマになっています。

―仮設建築の再利用。

五十嵐:東日本大震災でも問題になったことですけど、木造の仮設住宅をたくさんつくっても被災者が出ていってしまった後、それがただのゴミになって、再利用されていない。かつての万博建築だったら、仮設で建てて、終わったら解体して捨てればよかったんだけど、今は再利用まで考えるというのが、時代の趨勢になってきましたね。

今回の仮設集落創造プロジェクトがどのような形になるか、現時点ではまだ未定だが、8月26日には京都芸術センターグラウンドに何らかの仮設物が立っている。仮設建築の可能性、6組の建築家によるその回答を楽しみに待ちたい。

文:竹内厚  写真:麥生田兵吾(五十嵐太郎さんポートレイト)