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奈良の東吉野で出会った青木さんから、本のツボをばしっと掴むようなをテキストを寄せていただきました。
みなさん、「人文系私設図書館Lucha Libro」にもぜひ足をお運びください。


いつのまにかの「仮暮らし」
text by 青木真兵(人文系私設図書館Lucha Libroキュレーター)

奈良県の東吉野村という山村に暮らし、早一年が経とうとしています。お借りした平屋に住みながら、自宅を開いて「人文系私設図書館Lucha Libro」なるものを開館したのも同時期のこと。妻と猫と犬とで生活しています。辺鄙なところでニッチな分野の本を貸し出すことに、何の意味があるのだろう。一般的な感覚からすれば、こういう疑問が出るのは当たり前かもしれません。ただしその「一般」が含む射程距離って、どこからどこまでなのだろう。そんなことを問い続けていたら、いつのまにか山村の借り家で図書館をしておりました。
埼玉県浦和市(当時)のとあるマンションで育ったぼくは、母と一緒に大家さんに家賃を渡しに行って、「最近どお?」なんて世間話をしたり、玄関前でぼんやり佇んでいる大きなたぬきの存在価値を考えたりしたものでした。友人にはマンションやアパート、団地に住んでいる人もいましたし、もちろん一軒家に住んでいる人もいました。でもはっきり言って、家の形態や大きさと「暮らし」をリンクして考えたことはありませんでした。
ただ大人になるにつれ、貸し手と借り手、地主と小作農、資本家と労働者といった「現実」が見えてきました。そして自分がいつも後者側にいることに、最近になって気が付いてきました。とはいえ、自由が奪われている、抑圧されている、不平等だ、といった想いを強く抱いたこともなく、のほほんと暮らして来れたのは時代のせいか家庭環境のおかげか、はたまた他の要因があるのかもしれません。
『#カリグラシ』を読んでいても、そのような一種のルサンチマンや「抵抗」の力を感じることはありません。一方で、溢れんばかりに感じるのは「いかに生きるのか」という意志。だけどガチガチにソリッドなものではなく、なんだか肩の力が抜けていて、その意志はどんな形にも変形しそうな柔軟性を持っています。にもかかわらず、きちんと芯は通っている。本書のなかの村上慧さんの以下の言葉が、それを表しています。

あと、『借り暮らし』って移動みたいなモチーフと結びつきやすいと思うんですけど、移動することと気持ちがふわふわとしてるかどうかは無関係ですから。ふわふわとアイデアだけをのこして去っていくような人たちがいますけど、ちゃんと土地に対する責任をとる態度がなければいけないとは思います。移動することと根づくことを両立させるというのかな。(125頁)

 
村上さんの言う「移動することと根付くことを両立させる」ことについてぼくが思い浮かぶのは、社会学者の見田宗介氏の言葉です。ネイティヴアメリカンの思想を紹介しながら、見田氏はこう述べています。

人間の根源的な欲求は、翼を持つことの欲求と、根を持つことの欲求だ(真木悠介『気流の鳴る音』(ちくま学芸文庫、167頁))

 
人はこの矛盾する欲望を、どう両立させるのでしょうか。
つづけて見田氏はこうも述べています。

<根をもつことと翼をもつこと>をひとつのものとする道はある。それは全世界をふるさととすることだ。…われわれの根を存在の中の部分的なもの、局限的なものの中におろそうとするかぎり、根をもつことと翼をもつことは必ずどこかで矛盾する。(170-172頁)

 
本書では「借り暮らし」を語っていると、いつのまにか「仮暮らし」になっていたということがありました。実はぼくにとっても「カリグラシ」は「仮暮らし」の方がピンと来たりしています。本当ではない暮らし。じゃあ、本当って何? そもそも本当の暮らしなんて、この世のどこかにあるのだろうか。考えれば考えるほど、ぐるぐるぐるぐる、答えが見つかりません。正直言って、「本当という沼地」に足を取られるほど、やっかいなものはありません。
『#カリグラシ』で紹介されている人たちは、どこか「本当でない暮らし」をしているようにみえます。でも事実はそうではなくて、「本当とかどうでもいい」のです。「本当」とか「一般」とか、自分の外側にあるものに答えを求めると、その人という存在はどんどんどんどん部分的、局限的になっていきます。そんなときはすべてに「仮」をつけて、とりあえずぼんやりしてみてはいかがでしょうか。
そういうわけで『#カリグラシ』は、ぼんやり全体を眺めるための哲学を提唱しているのかもしれません。

青木真兵
人文系私設図書館Lucha Libroキュレーター。妻(司書)、猫、犬とともに奈良県東吉野村にて私設図書館を運営している。博士(文学)。土着人類学研究会主宰。社会福祉法人ぷろぼのに勤務しながら、大学等でヨーロッパ史を講義。月に一度プロレスのトークイベント「はじめてのプロレス夜話」を行っている。実験的ネットラヂオ「オムライスラヂオ」も配信中。
人文系私設図書館Lucha Libro http://lucha-libro.net/
実験的ネットラヂオ「オムライスラヂオ」 http://omeradi.org/

 

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