現場に住みながら家をつくる
旅する大工

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建設現場に寝泊まりする。
そんなご経験のある方いらっしゃいますか?
日本各地の建築現場に小屋を立てて住みながら、
家をつくっている大工さんがいらっしゃるとのこと。
どんな働き方をしているのか、はたまたなぜなのか!?
兵庫県たつの市のリノベーション中の現場に押し掛けて色々聞いてきました。

兵庫県たつの市の静かな通りまでやってきた。醤油で有名な町だ。

―そもそも、現場に住みながら家をつくろうと思われたのは、なぜなんでしょう…?

伊藤:東北大震災の復興活動で、家を建てに行った際に、面白い大工さんに出会ったのがきっかけです。災害でぼろぼろになって誰も住めなくなったところを工房にして復旧活動をして、その場所を人がある程度住めるようになったら出て行って、また他の場所で同じような活動をして出て行くといったような、帰る場所を増やしていく活動です。

現在リノベーション工事中の兵庫県たつの市にある、「かんの文具」という文具屋兼住宅。

伊藤:その姿に感銘を受けたんですよね。依頼されてつくるんじゃなくて、自分たちが使わせてもらったからそのお礼としてきれいにして出て行く、それがまた別の誰かが使えるようになっていくという、とてもいい循環だなと感じました。純粋に、そういう感覚で家をつくりたいなと思ったんです。工事しながら現場に寝泊まりして、仕上がったら次の場所に移る。なのに、みんな工事の途中でも別の家に帰らなきゃいけないと思っていて、なんだか人としてそうしなければいけないみたいな感じで…。

「株式会社いとうともひさ」代表の伊藤智寿さん(33歳)。

たつの市の現場は小屋の設置がNGだったため、伊藤さんは車で5分程のところにある別の家に住んでいる。リノベーション後は、再度、文具店兼自宅として施主さんが住まうのだそう。

伊藤:僕からしたら、現場に住むということは、あまり違和感ない行為なんです。住んでみないとわからないことって、たくさんあるんですよ。普通に業務としてだけやっていたら気づかない。天井の様子とか、柱の存在感とか。実際に住む人の目線になってその空間の中にいることでわかることがあるんです。それが仕事としてはメリットとして大きいから、住みながらつくるのかな。施主さんにも、こういうつくり方をしている大工さんにつくって欲しかった、と言われることが結構あります。

前回の現場で使用した小屋の内部の様子。人間が横になれるスペースと、使用しやすい棚を確保。最小限で最大限の空間活用!(写真提供:いとうともひさ)

―移動は、いつも一人でされているんですか?

伊藤:大阪で起業してから数年間は、一人とか少人数で仕事をすることも多く、“現場に住みながら一人で家をつくる”スタイルを自由にやっていました。けれど最近はメンバーも10人程に増えました。でも、どの現場でもなるべくいつものメンバーと仕事がしたいと思っています。結構、県外の現場先でその現地の工務店さんと仕事をすることもあるのですが、そのやり方だと工事が終わったと同時に関係性が止まってしまうことが多くて…。一回限りの関係だとわかりながらモノ作りをするのは、僕はむなしく感じてしまうんですよね。

現場が変わっても、いつも同じ状態で仕事に取り組めるように、必要な工具類を現場に揃えている。

伊藤:だから、工具なども現場に全て準備して、身体一つで来てもらえる状況にして、メンバーを現場に呼びます。現場での暮らしが難しいとなれば、なるべく近くの部屋を借りて用意します。仕事現場のある場所にその都度移動して、完成したらまた次の場所に移動する。そういう働き方もありなんじゃないかなと思っています。個人的には、現場に住むという変な暮らしを、なるべくもっと増やそうとしているんですけどね(笑)

伊藤さんのお仕事もろもろ。住宅設計から商業空間、展覧会の設営など、幅広く手がけている。(写真提供:いとうともひさ)

―なるほど。住みながら作っていく、作りながら住むって、いいかもしれません。

伊藤:そうですね。僕で例えると、次の暮らしは次の現場。 3ヵ月くらいたつとまた次の家の場所に行きます。僕らの世代って、もともと所有するという価値観もあまりなくて、全て借りてるという感覚があります。家もそう。車も。シェアしたり貸したり借りたりしながら、気兼ねなくできるほうが、自由度が高くていいなと思います。

和歌山県海南市の冷水浦(しみずうら)集落で、新規プロジェクトもスタートしている。空家を購入して、リノベーションしながら場を作り上げていくという内容。メンバーは、柿木佑介さんと廣岡周平さん(PERSIMMON HILLS architects)、田中悠介さん(designと)、友渕貴之さん(和歌山大学特任助教)。(写真提供:designと)

伊藤:空き家も増えているので、安く一軒家を借りたり、リフォーム済みじゃない物件をわざと買ったりして、自分で好きに手をかけていくということが、若い人の中でもっとスタンダードになるのではと考えています。作りながら、住む。住みながら、組み立てていく。いつまでも完成しない家。完成したと思ったら、どこか別の場所をより使いやすく修繕していたりとか。そういう家が、用途や仕事によって、色んな場所にいくつかあってもいい。こういう状況がもっと生まれて欲しいと思っています。

取材・文:小倉千明


株式会社 いとうともひさ
http://itoutomohisa.jp/